2014年02月19日10時42分掲載
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コラム
空っぽになった店の棚 超インフレと食糧難
東京近郊。近くのコンビニに入ると、店の弁当類の棚が空っぽの状態。「時間の関係でしょうか?」と聞くと「いえ、大雪の関係です」駅前の大きなスーパーでもそうだった。豆腐もないし、食パンもない。売り場の棚が空っぽの光景はショックだった。なぜなら、その光景を少なくとも2回、資料映像で見たことがあったからだ。
店の棚に商品がない光景。1つは1992年のモスクワの食品スーパー。棚はすっかり空っぽだ。この時はソ連が崩壊し、エリツィン大統領が市場経済に移行するために、価格統制を廃して価格自由化に乗り出した時。しかし、未だに残る共産主義時代の流通システムの関係で、準備不完全なままの自由化だったから、たちまち物価が上昇した。どのくらい上がったか?以下はモスクワ市内のある店の食料品の値段の1991年12月末と1992年2月の比較。
牛肉(1キロ) 7.00ルーブル → 64.00
ソーセージ(1キロ) 9.00 → 70.00
白パン(1個) 0.60 → 3.33
牛乳(1リットル) 0.70 → 2.10
(資料は講談社現代新書、陸口潤編「ロシア市場経済の迷走」より)
モスクワの庶民がそれでもサバイバルできたのはモスクワ郊外にダーチャ(郊外の別荘)を持っていたことが大きいと言われている。郊外の別荘で様々な農作物を育てているのだ。ルーブルが下落しても、食品はあった。しかし、年金で細々と暮らす高齢者たちは高騰する物価に打撃を受けた。
もう一つの光景は2008年のジンバブエの首都ハラレの食品店。こちらも衝撃的に空っぽだった。この時はムガベ大統領が白人大土地所有者の土地を黒人農民に分配したことに端を発しているが、農業生産が低迷し、外貨が払底して公務員に給料を払うために紙幣を刷りまくった揚句、ハイパーインフレに突入してしまったのだった。100兆円ジンバブエドルが登場したのもこの時である。結局、ジンバブエドルは流通停止となり、米ドルと南アフリカのランドを導入することで物価が安定を取り戻すことになった。
ハイパーインフレになると、お金が価値を失うから、人々は競って早く物を買いだめしようとする。行列にならんでいる間にも貨幣の価値が下落しているのだ。こうして店の棚は空っぽになり、貨幣経済の外側で、物々交換に戻ってしまった。なぜ、店の棚が空っぽになったかと言えば、単に物が不足したというだけではなかった。ジンバブエ政府はハイパーインフレ対策として、物価統制を敷こうとして価格半減令などをたびたび出した。しかし、店側は仕入れ値よりも安い値段で売るほど愚かではない。だから、価格統制令によって、商品流通が非公式のルート、つまり闇売買の世界に移行してしまったというのである。
店の棚が空っぽだったこれらの映像は大雪による流通の一時中断とは性質を異にする。しかし、なぜか僕には嫌な予感を伴う光景だった。米ヘッジファンドの中にはアベノミクスの円のばらまきに伴って将来、日本国債が暴落し、外貨が払底し、日本もハイパーインフレになると見る人もいる。もし、円が暴落したら、どうなるか。海外から輸入している燃料や食料品が途絶え、あるいは大幅に不足することになるだろう。
少子高齢化の日本で財政赤字を積み上げていれば国債が暴落する可能性は将来潜んでいる。日本から海外への輸出力は年々落ちている。貿易収支も恒常的に赤字になっていくかもしれない。TPPによって海外から安い食品が買えると喜んでいられるのは今のうちだけだ。
円が下落するにつれて、海外からの輸入価格はますます高価になる。実際、アベノミクスの影響で輸入材がじりじり値上がりしている。今日安く手に入る海外からの食料品は明後日どうなるのだろうか。寿司のネタは?大豆、牛肉、コーン、オレンジ、その他ギョーザやタコ焼きなどのさまざまな加工食品類は?TPPでコメが自由化となり、日本国内のコメ農家が壊滅したら、主食のコメですら、手に入れるのが難しくなっていくかもしれない。
以前、廃棄食品の削減に意欲的に取り組み始めたある大手食品メーカーの部長がこんなことを話してくれた。
「将来、食糧難の時代が来ます。だから食品を無駄にしない取り組みが必要です」
食糧自給率の維持は軍備拡張よりもはるかに重要だと思えるのだが。
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