2014年03月28日22時03分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

検察は抗告するな! アムネスティ、日本の司法制度の暴力性を糾弾

 袴田事件の第2次再審請求の審理において、静岡地方裁判所が3月27日に再審開始を決定したことを受け、国際人権団体アムネスティ・インターナショナル日本は、静岡地方検察庁に対し即時抗告をしないよう強く要請する声明を出した。同声明でアムネスティは、袴田さんの取り調べで暴力があったこと、検察が証拠開示を渋ったこと、刑務所内での処遇の人権侵害、など日本の司法制度が持つ前近代性、人権無視について厳しく指摘している。(日刊ベリタ編集部) 
 
 静岡地方検察庁は、即時抗告によって再審開始を妨げてはならない。袴田事件は、取調べでの不公正な手続きや、証拠の妥当性などが問題となってきた。検察庁は、袴田事件における真実と向き合い、今こそ司法の正義を実現すべきである。 
 
 袴田巖さんは、逮捕時から数えて実に47年以上も拘禁され、現在78歳の高齢である。この間独居房の中で、来る日も処刑の恐怖にさらされてきた袴田さんの苦痛は、想像するに余りある。袴田さんの精神の健康状態が懸念されていることは、日弁連の勧告からも明らかである(注1)。死刑確定者に対するこのような不当に長期間の処遇を、本来、法は規定しておらず、これはもはや拷問であるといっても過言ではない。袴田さんの年齢、健康状態を考えれば、これ以上再審の開始を先延ばしにしてはならない。検察庁は、DNA鑑定、検察から提出された新証拠、そして袴田さんの置かれた客観的な状況にもとづき、再審の早期実現に協力すべきである。 
 
 またアムネスティは、国際人権基準にもとづき、死刑確定者の独房での拘禁について処遇の改善を求めてきた(注2)。政府および法務省は、袴田さんをはじめとする死刑確定者の、精神状態を含めた処遇状況の情報開示と、処遇改善に努めるべきである。 
 
 本件は当初より、当局による捜査のあり方に多くの問題があった。一貫して否認を続けた袴田さんに対し、自白を強要する暴行や威圧がおこなわれた、と公判で袴田さんは主張している(注3)。また、勾留中には弁護人との接見と法的支援が十分に受けられなかった。一審では、供述調書は1通を除いて、信用性がないとして証拠採用されなかった。そして、3人の判事のうち1人が、無罪であるとの心証を抱きながらも死刑判決を下したと、後に明らかにしている。 
 
 証拠開示の点でも深刻な問題がある。検察は、第2次再審請求審において、裁判所の開示命令に応じる形で、はじめて約600点以上の証拠を提出した。この中には、原審で有罪の決め手となった自白と「5点の衣類」の証拠としての妥当性に疑いを生じさせる、重要な証拠も含まれていた。真実発見を妨げるような検察側の証拠の偏在は、著しい不正義である。証拠開示に関しても、国連の勧告に従って、政府は全面開示に向けた制度改革を直ちに進めなければならない(注4)。 
 
 再審を受けて、当局は、自白の際に虐待があったなどの袴田さんの主張について、検証をすべきである。さらに、二度と袴田事件のような悲惨な事件をくりかえさないために、政府は、国連の勧告に沿った司法制度の改革をすすめなければならない。すなわち、取調べの事後の検証を可能とする、取調べの全過程の可視化を確保しなければならない(注5)。また、被疑者の身柄が24時間、捜査機関の下に置かれ、自白強要の温床となってきた代用監獄制度を廃止すべきである(注6)。そして、被疑者が弁護士と、立会人なしに接見できる権利を確保すべきである(注7)。 
 
 アムネスティは、あらゆる死刑に例外なく反対する。死刑は生きる権利の侵害であり、究極的に残虐で非人道的かつ品位を傷つける刑罰である。アムネスティは日本政府に対し、取り返しのつかない刑罰である死刑制度の廃止にむけて、袴田巖さんを含めたすべての死刑確定者について、公式に死刑の執行停止措置をとること、社会的な議論を喚起することを要請する(注8)。また、刑事司法制度については、証拠の全面開示、取調べの全過程の可視化、そして代用監獄制度の廃止をはじめとする改革に、真剣に取り組むよう強く要請する。 
 
 アムネスティは、2008年に袴田さんを「危機にある個人」と認定し、公正な裁判を受ける権利の保障などを求めて支援を続けてきた。今後も、世界的な規模で支援の取り組みを続けていく。 
 
2014年3月27日 
公益社団法人 アムネスティ・インターナショナル日本 
 
注1:精神疾患について 
日本弁護士連合会 2011年1月27日付「東京拘置所死刑確定者心神喪失に関する人権救済申立事件(勧告)」 
2008年の国連自由権規約委員会の最終見解パラグラフ21 
2013年の拷問禁止委員会の総括所見パラグラフ15 
 
注2:単独室拘禁について 
「締約国(日本政府)は、死刑確定者を単独室拘禁とする規則を緩和し、単独室拘禁は限定された期間の例外的措置にとどめることを確保」すべきである(最終見解パラグラフ21)とする2008年の国連自由権規約委員会の勧告。 
2008年の国連自由権規約委員会の最終見解パラグラフ21 
2013年の拷問禁止委員会の総括所見パラグラフ13,14,15 
 
注3:自白の強要について 
自由権規約第14条第3項(g)、拷問等禁止条約第15条 
2013年の拷問禁止委員会の総括所見パラグラフ11 
 
注4:証拠の全面開示について 
被疑者が「自分の事件と関連するすべての警察記録の開示を受ける権利」を確保すべきである(最終見解パラグラフ18)とする2008年の国連自由権規約委員会の勧告。 
2013年の拷問禁止委員会の総括所見パラグラフ10 
 
注5:取調べの可視化について 
2008年の国連自由権規約委員会の最終見解パラグラフ19 
2013年の拷問禁止委員会の総括所見パラグラフ11 
 
注6:代用監獄について 
2008年の国連自由権規約委員会の最終見解パラグラフ18 
2013年の拷問禁止委員会の総括所見パラグラフ10 
 
注7:法的支援について 
2008年の国連自由権規約委員会の最終見解パラグラフ18 
2013年の拷問禁止委員会の総括所見パラグラフ10 
 
注8:死刑廃止について 
2008年の国連自由権規約委員会の最終見解パラグラフ16 
2013年の拷問禁止委員会の総括所見パラグラフ15 「死刑を廃止する可能性を検討すること」 
 
 
静岡地方検察庁にメッセージを送ってください! 
 
袴田さんは釈放されましたが、再審開始決定そのものに対する検察からの即時抗告の可能性は、依然残っています。静岡地方検察庁へ「即時抗告をしないように求める」要請アクションにご参加ください。詳細はFacebookをご覧ください。 
 
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