2014年03月31日15時14分掲載  無料記事
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経済

藁は燃えても アベノミクスという欺瞞性の真実 池上明

 現在日本の「景気回復」というこの浮かれ騒ぎは、すでに昨夏、ドイツ連邦銀行から「アベノミクスによる景気押し上げ効果は藁についた火のように短期間で消え去る」と厳しく批判されていた。加えてこの2月に入るや、安倍晋三の経済政策に結構ずくめだった欧米のメディアはいっせいに転じ始め、「懸念」や「失望」を表明しだした。 
 
 それもそのはず、最近の政府発表(内閣府3/10・第2次速報)によれば、昨年10−12月期のGDP成長率は、実質0.2%(年率0.7%)と、予測平均の2.6%を大きく下回り、13年前半は前期比(年率換算)3.8%であったものが、夏季以降は急に鈍化して年後半は年率1%にも満たない姿となっている(日本のマスコミは相変らずこの事実には触れず政府の「景気回復基調」をおうむ返しに伝えるだけ)。 
 
 それというのも、昨年来の「大胆な金融政策」によって民間銀行には日銀から50兆円以上が供給されたが、肝心の企業への貸出しは数兆円の増加にとどまった。その差額は単なる「準備預金」(つまり余剰資金)として銀行の金庫に眠っているだけである(山家悠紀夫・月刊『世界』14−3月号)。悲観的な需要見通しの中で設備投資意欲の少ない民間企業は、ただでさえ資金のだぶついているのに(全企業の内部留保は300兆円に達する)、もはや借入れ増はしないからだ。 
 
 かくして、藁が燃えても石炭(銀行貸出し増→投資・消費増→実需増→デフレ解消)に火がつかなかった日本経済は、ドイツの批判を「揶揄」として見返すことはできなかった。 
 
 その原因は、まず海外移転の進んでしまった「輸出産業」にとって、もはや円安は輸出増につながらなかった。さらに主因は内需を支えるべき日本の雇用者賃金の低迷。「異次元の緩和政策」にもかかわらず、一人当り年収が、ピーク時1997年の432万円から13年の377万円へと、何と13%も下がっている現実―総額ではピーク時から30兆円の減(週刊『エコノミスト』4/1号「景気大失速」参照)。さらに、円安・原料高にあえぐ中小企業は消費増税分の価格転嫁にも悲観的で、雇用者の大半を占める中小企業労働者の賃上げは厳しい。他方、不正規労働者の拡大には追い打ちがかけられている(労働者派遣法の改悪、「雇用特区」の新設等)。 
 
 結局、この間の「株高、企業収益向上」の実態は、余剰資金のはけ口を求める海外投機筋の大量参入による株価のつり上げ(海外勢による13年の買い越し額は13兆円)、公共投資の大盤振舞い(12年度補正予算と13年度予算合計で7.7兆円)にすぎず、まさにバブル景気の演出であった。このような作為の結果、巨大な財政赤字だけが残され、現在日本の公的債務のGDP比は240%にも達してしまった。かの第二次大戦後の260%にも迫る勢いである。20年度の「財政均衡目標」はすでに遠のき、今後さらに悪化する事態の中では、今や窮余の一策(国債負担の帳消し)まで話題にのぼるほどだという。つまり、もはや相当の高齢者しか記憶にない戦争直後の「預金封鎖、新円切替」という悪夢の再来である(日経新聞1/27号「本当は非常事態の財政」)。 
 
 日本社会はすでに人口減、特に労働力人口の減少という「成熟社会」入りしている現実がある。「自然成長率」が人口・労働力人口の増加率に比例することは自明の理だが、日本の生産年齢人口はすでに95年に峠を迎えており、2010年までの15年間には7%減少し、今後は1年に1%ずつ減ってゆく(日本総合研究所・藻谷浩介)。従って仮に1%の技術革新があったとしても、これからの自然成長率はゼロとなる(伊東光晴・上記『世界』同月号「人口減少下の経済」)。 
 
 安倍政権はこのことから目をそらし、相変わらずの「強い経済」を追い求めているが、真にアベノミクスに対抗するためには、「賢明な成長路線への転換」などと対置すべきではない。もうすでに10年来、いろいろのところで真剣に論じられているように、「成長経済からの訣別」の具体的道筋をはっきりさせるべき時である。 
 
(アジア太平洋資料センター(PARC)・日本消費者連盟会員) 


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