2014年05月21日14時22分掲載
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哲学者ジャンケレヴィッチを舞台にのせた戯曲 「人生は見事な即興曲」
「イロニーの精神」や「死」「還らぬ時と郷愁」などの著作があるフランスの哲学者ウラジミール・ジャンケレヴィッチ (Vladimir Jankelevitch, 1903-1985) はエスプリの効いた独特の文体や個性的な思考を持ち味にしており、いささか初心者にはとっつきにくい面があるように思われる。筆者の場合、「イロニーの精神」を何年も前から読もうとしては頓挫することを数回繰り返している。それでも、しばらく時をおいて挑戦したい気持ちになるのはジャンケレビッチの中に筆者の目からウロコを落としてくれるような、豊穣な何かがあるのではないか、という期待があるからだ。
昨年秋、パリの劇場ポスターでこのジャンケレヴィッチを主人公にする舞台があることを知った。そうだ、これを見たかったんだ、とその時筆者は直感した。しかしながら、舞台を見に行く機会を失ってしまった。というのも日本語訳で読んでも理解が追いつかない文体を、舞台でフランス語で聞いて理解できるのか、という筆者の能力に疑問があったからだ。それでも翻訳つきの録画があれば見てみたいと思う。もしかすると、ジャンケレヴィッチを理解するヒントになったかもしれないからだ。
この戯曲とは"La vie est une geniale improvisation" (人生は見事な即興曲)とタイトルを打たれたもの。
http://www.lemonde.fr/culture/article/2013/04/11/l-esprit-de-jankelevitch-a-travers-sa-correspondance_3158258_3246.html
この劇を紹介したルモンド紙によると、舞台はジャンケレヴィッチとアグレガシオン(教授資格試験)で一二を競った秀才のルイ・ボーデュック(Louis Beauduc)との往復書簡集’Une vie en toutes lettres’を素材にしたものだという。二人はその後も哲学の研究を生涯続け、時々に手紙を書きあった。それはボーデュックが亡くなるまで続いた。
哲学者を主人公にした舞台が面白いのかどうかはわからない。しかし、ジャンケレヴィッチに関する限り、興味をそそられるのはまさにジャンケレヴィッチが筆者とは異なった人間であり、おそらくは異質の鋭利な思考を行う人間であるからだろう。自分にないものがそこに詰まっているのではないか、という気がするのだ。特に、人生の後半期、あるいは末期に向かう人間にとって必要な言葉がそこに散りばめられているのかもしれない。そういう読書のきっかけになってくれる戯曲があってくれてもいいじゃないか。
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