2014年06月03日18時29分掲載
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検証・メディア
記者と読者の関係を変える、オランダの「コレスポンデント」
オランダのメディア・スタートアップ「コレスポンデント」(De Correspondent)の話を、これまでに何度か書いたのだけれども、ジャーナリズの面で新しいと思ったことがあったので、記してみたい。(ロンドン=小林恭子)
まず、手短にコレスポンデントについて紹介してみると(以下、拙コラム「欧州メディアウオッチ」2013年7月16日掲載、読売オンラインから)
ー当初から注目を浴び、巨額を集めた
オランダで著名なジャーナリスト、小説家、政治家など、いわば有名人たちが編集長、寄稿者、アドバイザー役として名を連ね、当初から注目を集めた。
「こんな面々なら、何か面白いことをやってくれるのではないか?」。そんな期待の大きさを如実に示したのが、創設のための資金収集のスピードだった。
昨年3月、ロブ・ワインバーグ編集長はテレビ番組に出演し、新しいオンラインの報道機関を創設するために購読者を募った。いわゆる「クラウド・ファンディング」である。
結果は、編集長の予想をはるかに上回った。8日間で1万5000人以上が購読予定者となり、100万ユーロ(約1億3000万円)余の資金が集まった。コレスポンデントの年間購読料は60ユーロ(約7800円)だが、これ以上の金額を創設支援として上乗せして送金した人もかなりいたという。
「こんなに早く、これほどたくさんの資金が集まって驚いた」とワインバーグ編集長は語る。お金ばかりではなく、「こんなメディアを待っていた」という支援の声が電子メールやツイッターで多数送られてきたという。(以上、引用終)
ー双方向
サイトは昨年9月がスタートとなった。
今回、改めて記したかったのは、記者=書き手と読者の関係が大きく変わる点だ。
これまでにも、「メディアサイトは双方向であるべきだ」と言われてきたし、もうそんなことを言う必要がないぐらい、既成事実化しているとも言っていいだろう。
しかし、その実態はというと、たいがいの場合、
―ウェブ記事の最後にコメント欄をもうけている
―ソーシャルメディアでシェアできる(例えばツイッターでシェアした場合、ツイッターのプラットフォームで議論が続く可能性)
−記者・編集スタッフがソーシャルメディア上で情報交換(感想を述べたり、時には批判したり、情報交換などが主)
などが中心だったのではないだろうか。
「オープンジャーナリズム」ということで、編集室の様子をガーディアン紙が見せていたこともあったし、ガーディアンは一定の才能を持つ人にはブログを開設させてもいる(「コメント・イズ・フリー」)。
作るほうからすれば、いちいち読者の意見を巻き込んで作るというのはやっかいではあったろう。どんどんニュースを発信していかないければならないわけだから。
「コレスポンデント」の場合、さらに一歩踏み込んだ関係性を作り上げているようなのだ。サイトを見ると、記者+読者の新しい関係がよく分かるつくりになっている。
今後、「コレスポンデント」がどこまで読者の支持を得るか分からず、もしかして私が気づかない、ほかのサイトがもうすでにやっているのかもしれないが、ひとまず、ここで紹介してみたい。
―関係性を変える9つのポイント
「コレスポンデント」の創業者の1人がブログ「メディアム」(4月30日付)で、記者と読者の関係性を変える9つのポイントを紹介している。タイトルは「なぜ私たちがジャーナリストを会話のリーダーとし、読者を専門コントリビューターとしているか」である。
9つのポイントとは
(1)「コメント」でなく「コントリビューション」
ウェブサイトの記事の下に設けられているコメント欄。これをコレスポンデントは「コメント」でなく、「コントリビューション」(貢献)と考えているという。
小さな言葉の違いかもしれないが、サイト側が読者に何を期待しているかを示すものだという。
察するところ、コメントといえば、記事=主があって、それにつく感想のような位置付けになる。しかし、記者よりも専門的な知識を持っているかもしれない読者が記事の厚みを増すために情報や知識を貢献する、というわけである。
(2)購読者(=メンバー)のみが貢献できる。実名のみ
コレスポンデントは年間購読制(60ユーロ=約8000円)をとる。購読した人だけが記事に貢献できる、としている。実名以外で記事に貢献したいなら、記者に電子メールを送ることを奨励している。また、完全に匿名にしたいなら、暗号化メールも受け取れるように設定されている。
(3)貢献したコンテンツはグーグルの検索対象に入らない
これで安心して、貢献できるというわけだ。読者の中にはグーグルに拾われることへの警戒感があるという。
(4)購読者はなぜその道の専門家なのかを表記できる
読者が貢献をするとき、「xxの博士号を持っている」などと書ける。短い履歴などを書くことで、さらに議論が深まるということのようだ。
(5)記者は2つの形で記事を出版できる
1つはすべての購読者用で、読み手に専門知識があるかどうかは問わない。2つ目は自分をフォローしてくれる読者用だ。自分をフォローしてくれるぐらいの読者には担当の分野の知識がある程度あることを意味する。こうすることで、記事に貢献するようなことを書く読者も、深いことが書けるし、議論がより高いレベルになる。
(6)すべての記事を読者への問いかけの形で終わらせる
こうすることで、記者がいわゆる「会話のきっかけを作る人」になれるということのようだ。
(7)読者にはゲストとしてコラムを書く機会がある
(8)世界でもっとも偉大な名刺整理箱を作る
まだ実験中の試みで、記者がよい情報を共有してくれた読者に「専門家」というタグをつける。タグ付けがたまったら、バッジを出すとか、書き手としてコレスポンデントに向かい入れるなどを考えているようだ。
(9)正しい態度から(すべてが)始まる
記者が読者との会話を始める役をつとめ、読者がそれに答えてゆくことで、サイトの質も高まるーこういう考え方があってこそ、テクノロジーが追いついてゆくのだという。
さて、ここまで読んで、ぴんと来た方も来なかった方もいらっしゃるだろう。(1)から(9)のポイントがどのようにサイト上に生かされているのかをみると、すっと頭に入るはずだ。
例えば、テクノロジー記者マウリツ・マルティン氏のコーナーはこんな感じになる。https://decorrespondent.nl/mauritsmartijn
オランダ語が理解できなくても、まず、斬新なデザインにちょっと驚くだろうと思う。
イラストの上に記事のタイトルが重ねられ、下に記事が掲載されている(中身は購読者ではないと読めない)。読者への問いかけも下にある。
右側には記者のバイオ。電子メール、ソーシャルメディア、暗号化通信の連絡先。記者が面白い思った記事などが下に紹介されている。
記者が関心を持つテーマを読者も同時に追うことができる。会話が生まれる仕組みがここにある。
デジタルのニュースメディアで、どうやってニュース・記事を出してゆくか、どんな風にして読者をエンゲージしてゆくのか、まだまだこれ!という正解はないのかもしれない。
私自身は、コンテンツの編集者たちがテクノロジー、デベロパー、ウェブデザイナー、アーチストたちと働くことで、頭の中にあるぼやっとしたことが形になってゆく様子をコレスポンデントのサイトで見たような思いがした。
(「英国メディアウオッチ」より)
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