2014年06月10日11時48分掲載
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文化
【核を詠う】(154) 山本司歌集『揺れいる地軸』の原子力詠を読む(4) 「首都圏の子らの身体に異変起きぬ被曝との関わり明かすすべなく」 山崎芳彦
今回も山本司歌集『揺れいる地軸』から原子力詠を読み続けるのだが、前回、作品を読む前に福井地裁の大飯原発3、4号機運転差し止め命令判決について、筆者が感銘を受けた内容を記したものの判決要旨の前半部分にとどまったので、今回も続けることをお許しいただきたい。多くの方が判決内容を読まれていると思うのだが、筆者としてもこの歴史的・画期的な判決内容について、あえて記しておきたい。
前回の中では、関西電力の大飯原発の運転差し止めを求めての提訴に対する司法判断にあたって福井地裁の担当裁判官が基本的な視座を明確に示し、原発を考えるにあたって人間の基本的な生きる権利、「人格権」を根底に据えていることへの筆者の共感と感動を、判決内容を引きながら記したつもりだが、さらに続けたい。
同判決では、「原子力発電所の特性」について「原子力発電においてはそこで発出されるエネルギーは極めて膨大である」ため、「運転停止後においても電気と水で原子炉の冷却を継続しなければならず、その間に何時間か電源が失われるだけで事故につながり、いったん発生した事故は時の経過に従って拡大して行くという性質を持つ」ため、他の技術の多くが運転停止によって被害拡大の要因が除去されるのとは異なる「原子力発電に内在する本質的な危険」を指摘する。そのため、施設の損傷に結び付きうる地震が起きた場合「速やかに運転を停止し、運転停止後も電気を利用して水によって核燃料を冷却し続け、万が一に異常が発生した時も放射性物質が発電所敷地外に漏れ出すことのないようにしなければならず、この止める、冷やす、閉じ込めるという要請はこの3つがそろって初めて原子力発電所の安全性が保たれることとなる。」が、福島原発事故では止めることには成功したが、冷やすことができず、放射性物質が外部に放出されることになったことを指摘している。
そのうえで、大飯原発について、地震の際の冷やす機能、閉じ込める構造について仔細に検討し、地震との関係では「日本列島は太平洋プレート、オホーツクプレート、ユーラシアプレートおよびフィリピンプレートの4つのプレートの境目に位置しており、全世界の地震の1割が狭い我が国の国土で発生する。この地震大国日本において、基準地震動(700ガル)を超える地震が大飯原発に到来しないというのは根拠のない楽観的見通しにしか過ぎない上、基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば、そこでの危険は、万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険と評価できる。このような施設のあり方は原子力発電所が有する本質的な危険性についてあまりにも楽観的であると言わざるを得ない。」と断じ、被告関西電力の主張を退けている。
さらに使用済み核燃料の危険性についても、福島原発4号機の使用済み核燃料プールが危機的状況に陥り、重大な事態に直面することを原子力委員会委員長(当時・近藤駿介委員長)が想定せざるを得なかったことにも言及したうえで「使用済み核燃料は原発の稼働によって日々生み出されていくものであるところ、使用済み核燃料を閉じ込めておくための堅固な設備を設けるためには膨大な費用を要するということに加え、国民の安全が何よりも優先されるべきであるとの見識に立つのではなく、深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しの下に」無責任ともいえる対応で「閉じ込める機能」を備えていない原発であることを厳しく指摘している。
そして、大飯原発について「国民の生存を基礎とする人格権を放射性物質の危険から守るという観点からみると、本件原発に係る安全技術及び設備は、万全ではないのではないかかという疑いが残るというにとどまらず、むしろ、確たる根拠のない楽観的な見通しの下に初めて成り立ちうる脆弱なもの」とまで断じている。
これは、大飯原発にとどまらず、現存する全国の原発に共通する実態に対する正確な指摘であろう。
さらに判決では極めて重要な判断を示している。
「被告は本件原発の稼働が電力供給の安定性、コストの低減につながると主張するが、当裁判所は、極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり、その当否を判断すること自体、法的には許されないことであると考えている。」、「このコストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。」
この判決は、関西電力、大飯原発に関わる裁判において出されたものだが、その内容、司法判断は原発の維持、再稼働、海外への原発輸出を推進している安倍政権とその共同勢力に対する厳しい断罪ともいうべきものであろう。
判決が出された時、「司法は生きていた」とする紙を掲げて勝訴を伝える関係者がいたのをテレビ報道で見たが、この判決を生かす力は、主権者にかかっているのは確かだろう。思うことは多い。
山本司さんの歌集『揺れいる地軸』の作品を読んでいく。
◇樹に吹く風―2011年10月◇
点在せるホット・スポットの首都圏よ住民運動で子を守らんと
(千葉県松戸市では住民が921地点を測定)
今にして危機的事態を明かされぬ東海原発失せし電源
(大津波に襲われた時、非常用発電機で3日半かかって冷温停止に)
福島に無人測定機器設置なる子供の命を守らんがため
(約2100ヶ所に空間放射能測定器の設置始まる)
長野県に避難したる子供らよ甲状腺数値異常見つかる
(信州大病院の検査で)
魚にも産地名表示を指示したり放射線量の表示はあらず
(海水の放射能汚染が問題に)
一ミリシーベルト以上を除染すとようやく決まりしお役所仕事
出荷の可能となりし福島米されど売れる見通しはたたず
セシウムに汚染されし米もあり処分されゆく“ひとめぼれ”さえ
<ダツ―・ダツ―・脱原発の歌>に沸く高校生の託せし心
(アイドル・グループ名「制服向上委員会」)
除染なせど三十マイクロシーベルトくだらざりしや中古車売らるる
(輸出では毎時五マイクロシーベルト以上は禁止)
福島の「あんぽ柿」も被曝せし出荷停止のすずなりの柿
(六百二十一から七百十三ベクレルのセシウム検出)
高濃度のセシウム含む焼却灰 焼却場の敷地に満ちたる
原発の推進体制作らんと批判せる人らを排除なしたる
福島で原発廃棄の集会がなされき怒りと決意こもりて
(十月三十日、福島市“四季の里”に一万人が)
◇糺して止まず―2011年11月◇
いくばくの補償もあらず地価暴落、資本の論理が絆を断ち切る
(十一月一日、国税庁の算定、被災地最大八割減・原発事故地零評価)
冬期間の節電目標きめられし原発再開のためのおどしか
虐待に歯止めと唱うも最大の虐待受けしは被曝・被災地
子を守らんと座り込みたる女性らの運動広がれ原発廃棄の
(十月末日より連日、経済産業省前)
放射能汚染で休業せしという千葉県のエコセメント会社
(十一月二日、排水口に基準値の十五倍の放射性物質が)
福井県に匿名の寄付五百億円(ごひゃくおく)多くは電力業界よりぞ
原発の安全性を批判せし学者を幽閉「ガラスの檻」に
(立命館名誉教授・安斎育郎氏の東大助手時代)
原発の建造経過・大事故の罪問われなく栄(は)えゆく悪が
原発の作業現場は別世界 暴力・おどしの罷り通るらむ
稼働せる原発作業員の被曝量 致死量近きぞ即時停止を
原発の水素爆発の放射能観測中止令出されしつくばに
八ヶ月経て原発の事故現場 公開さるるにいかりの満ちて
毎日三千人が事故現場へ白装束の異界の基地ぞ
(十一月十一日公開、国内最大級のサッカー練習場が前進基地に)
原発のコスト安しは嘘ばかり又もごまかす費用を削りて
(揚水費、灰の保管と処理、自治体への補助金、事故等の必要経費を除外)
地元にて反原発運動せし人ら脅迫・差別・迫害受け来
福岡の“さよなら原発”集会も報道なされず意図ありありと
(十一月十五日、舞鶴公園に一万五千人超の参加)
原発に十九兆円の積み立て金そのままにして増税たくらむ
福島の八十キロ圏の大企業 多くが移転せりほぼ県外へ
正確なる放射線量の調査さえ締めつけ・妨害なしたる政・官
(気象庁研究所等に対して)
原発をなくすは文殊の智慧なりき推進派への“もんじゅ”の回答
原発の作業員削減浮上せり人命軽視をつづくる東電
(十二月より千名の削減計画)
「止めよう!なくそう!原発」道民のデモに手を振る子連れの夫妻
(十一月二十三日、札幌大通公園に三千人超が参加)
全国の汚染マップ作られぬ北海道も汚染しており
(十一月二十五日、文部科学省が発表)
原発の立地に自然エネルギーの発電所造らん廃止のために
廃炉を求めて浜岡原発を囲みし隊列まことの絆
(十一月二十六日、四千人が参加)
福島の県外避難六万人(ろくまん)を超えしなおもつづく不安が
(十一月二十九日時点で)
一号機チャイナ・シンドロームに至らずも格納容器の底に溜まりぬ
(十一月三十日、福島第一原発公表。あと三十センチで貫通の危機)
復興の計画に明記せよと知事 福島の原発全廃求め
(十一月三十日に表明)
◇希望への鐘―2011年12月(1)◇
首都圏の子らの身体に異変起きぬ被曝との関わり明かすすべなく
(体調異変と放射能との関わりは医学的に証明出来ず)
東電の事故調査の報告書 肝心なるを不明のままに
(十二月二日、中間報告書を公表)
高濃度の汚染水もれて流出せり海はたちまち汚(けが)されて行く
(十二月五日、四日にとどめたはずの汚染水が)
粉ミルクにセシウム検出されしとや四十万缶回収いかに
(十二月六日、明治乳業が発表。製造過程で大気中のセシウムが混入)
汚染水の海への放出計画せりなおも海原(うなばら)けがさんとせる
(十二月八日、東電が放出した汚染水の放出計画検討中と公表)
前所長・吉田氏病みたる食道癌 被曝がもとの発症ならんや
(十二月九日、被曝七十ミリシーベルトなるを東電は因果関係なしと発表)
民家の除染着手は二市のみぞ仮置き場すらなき廃棄物
(十二月十一日時点で完了した家も含め福島市五十七戸、伊達市三十七戸)
自主避難せし人への賠償を一律八万円(はちまん)とは雀も泣けぬ
(東電の賠償指針より)
住民らの外部被曝量発表さる事故後の体調の報道あらず
(十二月十三日福島県発表。住民最高14.4、作業員37ミリシーベルト)
次回も歌集『揺れいる地軸』の原子力詠を読む。 (つづく)
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