2014年06月17日23時46分掲載
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TPP/脱グローバリゼーション
【ほんまやばいでTPPその2】 TPPの内部体制化と人々の生存権 大野和興
第2点は、もうちょっと足許のところからTPPをみると、何が見えるかということです。昨年、女性会議が発行している『iおんなの新聞』に書いたことですが、憲法との関わりでTPPを見ていくと何が見えるか。憲法11条の基本的人権、12条の自由・権利の保持の責任、13条の幸福追求権に始まる人々の自由権、そして25条の有名な「健康で文化的に生きる」ことを定めた生存権、26条の教育を受ける権利、27条の働く権利、それを受けて28条の勤労者の団結権など、憲法に大概のことはあるんですね。それに9条が加わって、私たちは平和におだやかに、人びとに暴力を振るわないで生きていく権利があるということが憲法にあるわけですけれども、この全てがTPPで壊されていく。
自民党政権の憲法草案は、公益権というのを持ちだして、公益のために人々の基本的人権、生存権を制限するとうのを堂々と書いていますけれども、この憲法解釈をめぐる論議と、今、進んでいるTPPで具体的に進む基本的人権の侵害、生存権の侵害という両面から憲法が掘り崩されようとしています。そのいくつかを以下、具体的に見ていきます。
◆労働基本権の侵害=雇用の流動化
例えば雇用の問題。解雇規制の緩和です。解雇権とか解雇の自由化とかいわれています。具体的に出ているのは地域限定社員制度とか、あるいは派遣労働の永続です。一生派遣の仕組みを作るみたいなこととが、今、現実に進んでおります。ユニクロは非正規スタッフを正社員にしますということで大々的に宣伝しているのが地域限定社員です。ユニクロなんかはしょっちゅう店を出したりたたんだりしています。ファミリーレストランなど全部がそうです。そこがダメだったらすぐ潰して、別のところにもっていく。地域限定社員は、その地域限定の正社員ですから、地域の店が潰されたらそれで終わりです。その地域だけで働くということで、給料も安い。その代わり地域で働けるよ、転勤はないよと。転勤はないけれども、地域の店がなくなったら転勤もクソもない。
私の住む埼玉県秩父は山間地帯にあり、秩父セメントが構造不況でダメになった後、一番大きい企業はキャノンでした。何年か前、その秩父のキャノンの工場が群馬に移りました。せっかく独身寮やなんやあったんですが、今はもう廃墟になっています。秩父の隣には寄居町という町があって、そこにホンダがやってきました。お金をかけて企業誘致下結果です。そのホンダは同じ埼玉県の飯能、入間に工場があってそこから来た。飯能ではいまホンダが居なくなって、ものすごく雇用問題が深刻です。工場が移転すると、元の工場で働いていた従業員はとたんに首を切られる。それを制度化しようとしているのが地域限定社員制度です。
これは正に生存権の侵害です。こうして企業は自由に労働者を解雇できることになる。
◆食の安全
「食の安全」。これも生存権です。安心して食えるものを消費者は食べる権利がある。しかし、現実には、遺伝子組み換えの運動をやっている人に聞くと、「日本はどんどんどんどん遺伝子組み換えの安全性を認めていって、まるでベルトコンベアー、アメリカで認めていないものまで認めている」ということを言っています。TPPで遺伝子組み換え企業は、モンサントなどほとんどアメリカ企業。彼らは遺伝子組み換え食品を輸出できるためには、例えば日本でやっている「これは遺伝子組み換え食品が入っています」という表示は止めて欲しいというようなことを交渉の中で言っています。売れないからです。
そうした消費者の選択の権利を奪っていくのが現実に進んでいるのですけれども、実は、TPPの交渉が妥結する前に、遺伝子組み換え食品の安全性を政府の食品安全委員会とか厚生労働省とかが次々認めています。で、その中には、ベトナムでアメリカ人が撒いた枯葉剤の成分を含んだ除草剤に強いトウモロコシとか大豆があります。これが認められると、そういう危ない除草剤が大量に使われることになりますから、アメリカでも認めていない。日本はこれを認めたのです。
◆小さな農業の切り捨てとそのもたらすもの
そして、TPPが妥結しようが関係ないくらいの実態が進んでいる部門があります。農業です。これも後で国家戦略特区のところでお話ししますが、「岩盤に穴をあける」と安倍がしきりに強調している。その「岩盤」の最たるものが農業と医療、それと教育だといっている。
では農業の分野で「岩盤に穴をあける」とはどういうことかと言うと、農業分野では小さい農家、高齢農家、女性農家なんかはいらないという、排除していくという方向に進むと思います。農地は今、農地法によって土地を耕す農民および農民が中心になって組織した法人しか持てない。なぜそうなっているかというと、これは人類の土地解放闘争の到達点がそういうことだとしか言いようがない。三里塚闘争の本質もそこにあると僕は思ってます。本来、土地は誰のものでもないわけです。誰のものでもないことは、みんなのものということです。その土地を利用して、地域でそこに住む人が生きていく。
しかし、人類の歴史が経過する中で、土地を占有したり独占したりといったことが出てきた。そして私的所有が資本主義の歴史と共に始まった。世界各地で時代を越えて闘われた農民の土地解放闘争の旗印は「土地は耕す者に」というのが合い言葉でした。アジア太平洋戦争が日本の敗戦で終わった後行われた農地改革もそういう精神を受け継いでいます。農地改革は日本を占領した連合国が上からやったと言われていますが、下からの農民の闘いが随分ありました。その中で、戦前の日本の農村を支配していた地主制を崩壊させ、自作農の体系を作った。その時の合い言葉もやはり「耕す者が土地を持つ」でした。
◆TPPを先取りする農業政策転換
こうしてできた自作農体制を守るためにつくられたのが農地法です。これまで何度も改定されていますが、「耕すものが」という理念はいまも生きています。その最後の砦が今、崩されようとしている。それはどういうことかというと、「もう百姓に農地をあずけていても、やっていけないじゃないか。みんな歳とっちゃって、耕作放棄地が続出じゃないか」。だから農業の主体は企業にして、農地も企業にまかせろと。「企業にまかせろ」と言った場合、農地法が邪魔になりますから、じゃあ、任せられるようにしようということで、今、動いている。
二つの動きがあります。一つは、農業委員会というのは公選法で選らばれる地域の農家の代表で構成する機関で、行政委員会のひとつです。その農業委員会が農地法3条に基づいて農地の権利の移動や農業以外の用途に転用するのを管理する任務を司っていて、農地法の番人といわれています。教育委員会と農業委員会というのは、戦後民主主義の象徴だったのですね。今、教育委員会が安倍政権のもとでその権限を首長に移すというのが進んでいましが、農業委員会も同じように農地の許認可の権限を首長に移そうという方向が進んでいます。行政の長というのは開発志向ですから、これが実行されると農地が農地でなくなる。
もう一つは安倍政権の成長戦略の目玉である国家戦略特区です。農業特区では外部資本がその地域で農業を自由に営むことが出来るよう農地への参入を認めようとしています。
TPPを受け入れるということは、内外の農業資本が進出できるよう農地に関する規制を撤廃することです。その意味では農地法というのは労働法と同じで、非関税障壁とみなされる。TPPでアメリカに言われるまでもなく、その前にすでに国内でそれを今やろうとしている。首長が農地の権利移動の権限を握ったら、彼らは開発したくて、開発したくてたまらないのですから、どんどん土地は外に出ていくことになると思います。
そうではなくて、ぼくたちは「耕すものが土地を持つ」農民的土地所有を守らなければならないと考えます。農民、百姓というのは地付きなんですね。地域で生きている。家族を養い、地域で百姓をして食っている。つまり、農地、土地というのは、水も含めて、あるいはその背後にある山もふくめて、地域のみんなの資源です。そのみんなを代表して耕す百姓が土地についての権利を持つ。それが農民的土地所有の本質です。農地法はかろうじてそれを守っている。
その農地法が崩れると、地域の資源がどんどん外にいっちゃうことになります。そこに暮らす人々の手が届かないことになる。
一つだけ例をあげますと、日本は田んぼの国で、全国に網の目のように水路が行き渡っています。日本の水利用のシステムというのは江戸時代に築かれました。大河川は幕府直轄でやった。利根川の治水事業なんか幕府が各藩に強制的に割り当てやった。そこに流れ込む支流については藩がやった。その支流から出ていく水路については、農民自治というか地域自治でやりました。支流から分かれる大きな水路は村連合がやり、その水が村に入って、村で各田んぼに流れていく、その水については、村の水組合がやった。つまり日本の水利用の根幹は百姓、村の自治なのです。みんな汗を流して、えいえいと水路を掘り、地球を何回転もする網の目のような水路が作られた。明治に入ったら国家が出てきて、国の税金がどんどん。戦後は土地改良事業ということでものすごい税金が投入されて、水路が作られ維持されています。つまり、この列島の田んぼをうるおす水は、列島に住む人々みんなのものなのです。
いま安倍政権が進めている農地への資本進出政策、農地からの百姓は引き剥がし政策は成功すると、このみんなの水が資本に独占されることになります。水路は土地につてているものです。農地の所有権、利用権が資本にうつるということは、水もまた資本にいてんされるということです。農地の問題は単に農村や百姓だけの問題ではなく、この列島に暮らすみんなの問題なのです。農地法が穴が開けられて、企業がどんどん農地を占有してくるということは、人民の財産が強奪されることになる、ということなのです。
◆医療の産業化と規制緩和
大阪は国家戦略特区に名乗りを上げていますが、目玉は医療特区だそうです。ここでは混合診療や最先端診療、医療ツーリズムなどがメニューにあがります。TPPでは今、医療・保険はどうなっているかと言うと、政府は、「日本の皆保険制度は守りますよ」と言っています。日本の公的保険制度は、誰でもどこでも安く医者にかかれる制度として世界一の制度だといわれています。TPPに入るとそれが壊れたら大変だということで、医師会やらなんかが反対している。で、政府も「そりゃ、壊しません」という風に言っている。そこに風穴を開けるのが混合診療です。
日本の医療マーケットは膨大です。公的保険制度はこの膨大なマーケットへの医療や製薬、民間保険など海外資本の参入の障壁となっている。それをどう突き崩し、「公」的要素を弱めるかということであれこれいじれているわけです。その一つが混合診療です。現在、日本の制度では一連の医療行為の中に保険外診療が入ってきたら全部保険外になるという仕組みとなっています。今後いう診療になると、保険と保険外を一緒にやることができる。するとどうなるか。
歯医者の例で考えると考えやすいんですが、昔から歯医者さんに行きますと、まず最初に「保険でやりますか」と聞かれます。「保険でやってください」というと、「保険でやると、すぎ壊れますよ。もって3年です」「保険外だと一生ものです」とかいわれる。そこで「じゃあ、保険外で」となる。それで30万とか50万とか、100万とか取られる。
これと同じことが一般医療でも起こる。「ガンです。手術しましょう。保険でやったら、まあ、1年もたないですね」「最新式の薬と治療法があって、これは保険が効きませんけれども、5年は命を保証しますよ」と言われたら、みんな5年をとります。つまりカネがないと医療が受けられない。それがどんどん進んでくる。
もう一つは、いまTPP交渉では「不透明性」ということが言われ始めています。「透明じゃない」。なにが透明じゃないかというと、薬をまず言ってるんですね。薬は保険制度の中で「この薬を使う」ということが決まっているのですね。単価も決まっていて、それは薬事審議会で決まる。薬というのは医療マーケットの中でもかなりの部分を占めます。保険制度があって、外資はそこに入りこめない。それで、「それは不透明じゃないか」とか「どこで決まったんだ」「公開していないじゃないか」「それは非関税障壁だ」「透明化しなさい」ということになる。
透明化するには何をしたらいいかというと、この薬事審議会はいいからそのままおいといて、「もう一つ製薬会社などが入った委員会を作りなさい」ということを要求してくる。これは、実は韓国が米韓FTAでもうやっていることです。この間、韓国の人に聞いたら、アメリカの製薬会社も入ってる独立委員会みたいなものが出来ていて、だんだんだんだん発言権が大きくなっているそうです。あるいは、アメリカ資本の保険会社です。
昔は、日本の第一生命とか日本生命とか、国内の保険会社の広告が一杯あった。今、ほとんどない。あるのは白いアヒルが出てくるアフダックだけです。テレビの保険のコマーシャルはアフダックしかない。しかし、アメリカの保険資本にとってみると、いくらカネかけて宣伝しても限界があるのです。公的保険制度がありますから。コマーシャルでは「そんなものいらないよ」と民間保険を否定する黒い白鳥がいて、いらない、いらないと言うとアヒルに追い払われる。まさに保険会社こそ正義というコマーシャルがあります。自体はその通りに進んでいるのです。
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