2014年06月27日01時59分掲載
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アントニオ・タブッキ著「供述によるとぺレイラは・・・」
2年前に亡くなったイタリアの作家アントニオ・タブッキはポルトガル文学者でもあり、「インド夜想曲」のような旅愁・郷愁に満ちた幻想的かつ寓話的な小説を書き続けた。
そのタブッキの最高作とも言われているのが「供述によるとぺレイラは・・・」である。この小説の舞台はファシズムの影が日増しに濃くなる1938年のリスボンである。主人公は妻に先立たれた初老の男で、肉体的な魅力も喪失し、今や亡き妻の幻影だけが支えになっている哀れとも言える三流新聞の文芸欄の編集者、ぺレイラである。
この小説は何の変哲もない凡人と見えたぺレイラがあるきっかけから、抵抗運動に加担することになり、やがて立ち上がるまでを描いている。そのきっかけとなったのは抵抗運動を行っていた一人の青年をそれと知らずアルバイトに雇ったことだった。青年の行動に困惑しながらも、ぺレイラは青年を追い払うことができなくなってしまう。そして、物語がエンディングへ向かって走り出す。ぺレイラは抵抗運動などとんでもない、と思っていたのだが、やがて自分がそこに関係することになってしまう。その内面の声が私小説としてでなく、ある第三者による視点から記述される。それが「供述」なのである。
この物語はぺレイラが変貌する劇である。そこにさわやかな、感動がある。不思議なタイトルだが、「供述によるとぺレイラは・・・」は司法の供述ではなく、天使が人間の罪を、その供述を記録したことのようである。それは最後まで明かされないのだが、この小説は人間が死後、天使たちによって裁判にかけられることを暗示しているかのようである。つまり、この小説は天使によって記述されたものらしいのだ。タブッキがこの小説を書いたのは1994年で、イタリアに再びファシズムが起ころうとした時期だとされる。それはまた今日の日本とも重なってくるのではないだろうか。文学の底力を見せてくれる一冊だ。
■「供述によるとぺレイラは・・・」(須賀敦子訳)
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