2014年08月11日13時22分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201408111322121
反戦・平和
【編集長インタビュー 集団的自衛権を考える】暴走する“時代錯誤”(3) オルタナティブな安全保障思想を 前田哲男
前田哲男さんインタビューの最終回は「これから」についてお聞きした。解釈改憲の行きつく先には、やはり解釈の変更による選択的徴兵制があるかもしれないと前田さんは警告する。その上で、1993年に「平和基本法の制定を提唱された前田さんは、「いまこそオルタナティブな安全保障の思想、モデルをつくり、どちらがいですかと提示することが大事です。そういう作業に市民はもとより若い憲法学者、政治学者が加わってくことを期待したいところです」と結んだ。(聞き手・構成 大野和興)
◆安倍晋三とは何者か
―この先にあるのは何でしょう。
前田 核武装であり徴兵制であるかもしれませんね。もっとも徴兵制が憲法改正が必要ですから、今のままでは難しいですし、安保条約をもったまま核武装するというのは米国が許さないでしょう。その前に憲法改正ということになるのではないでしょうか。それは、安倍晋三という政治家がいかなることを考えているかということにも関連します。彼がいう戦後レジームからの脱却、美しい国日本をつくるということの意図がどこに存するかということにかかってくる。今回の閣議決定はそこまで彼の本心を打ち出してはいませんね。安保協力、日米同盟を表にかかげていますので、いますぐ徴兵制とか核武装とはならないでしょう。問題のポイントは安倍晋三とは何者か、ということになります。
彼の本質は親米派ではないのかもしれません。米国はそこを見抜いて警戒している節がある。危険人物とみているのかもしれません。本当は対米自立派であるとみれば、彼のやっていることはすんなりと理解できる。美しい国ニッポンをつくるためには戦後レジームから脱却しなければならない、そのために自主憲法を持たなければならない、そこでは日米安保のような従属的な条約は不必要であるし、米軍基地もお引き取り願わなければならない、とするともっと強い国防軍を持たなければならない、その国防軍で国際社会に伍していくには核の抑止力に頼る必要がある、安倍さんの心中は多分ここにある。しかし彼はかけらほどもそれを出してはいません。いまの枠組みの元で彼は集団的自衛権を組み立てている。いわば自衛隊の自由化・規制緩和を行おうとしているわけです。一種の羊頭狗肉ですね。アメリカはそのあたりに気づいて、危険な政治家であるとみている。離米派とでもいうのでしょうか。そうすると核武装というオプションも出てくる。官房副長官のときに、そういうことをもらしたことがありますね。それは論理というより、安倍という政治家の執念であり情念なのだと思います。
◆徴兵制と解釈改憲
―9条の解釈を大転換したということは、同じ手法で憲法の各条項が定める基本的人権や生存権その他さまさまの平和に安心して生きていけるための諸権利もまた解釈によって大きく制限されることになるのではないしょうか。
前田 本来憲法が持っている規範力を一内閣によって変えることができるという先例を作ったら、次々とそういうことが起こる可能性があるわけです。それは憲法が持つ規範性が失われることですから、9条だけに限定できない。とめどなく広がっていくことを十分予測しておかなければならない。徴兵制ができない理由は憲法一八条の「奴隷的拘束を受けない」ということと「意に反する苦役に服させられない」の二つを挙げて説明していました。いまは「奴隷的拘束」は使っていないのです。自衛隊出身のかたから「自衛隊は奴隷的拘束か」という意見が出たからです。内閣法制局の見解も初期にはこの二つを挙げていましたが、いまは「意に反する苦役」しか挙げていません。これも一種の解釈変更ですね。自民党改憲法案には両方ともないですね。別の表現にしてしまった。いまの憲法では徴兵制はできないとは言っていますが、その理由が変わってきていることをみると、いまの憲法のもとでも一律の徴兵制ではなくメニューを示しての選抜的な徴兵制は、憲法一八条にいう「奴隷的拘束及び意に反する苦役」ではないという解釈をして出来るようにする可能性もないではない。
今回のように解釈変更が有効であるという前例が作られてしまうと、どこに波及しても不思議ではないということになります。
◆もうひとつの安全保障
―前田さんは1993年に雑誌『世界』4月号で、何人かの論者とともに「平和基本法」を共同提案されました。あれから21年がたちます。この間日本も世界も大きく変わりました。
前田 そのあと2005年に同じ『世界』(六月号)で「九条維持ももとで、いかなる安全保障政策が可能か」と題する共同提案を行い、さらにもう一度、同じような提案を単行本の形で行いました。なし崩し自衛隊増強という現実を変えることができる対抗構想として出したものです。二一年間に三回、同じような提案をしたのです。最初の共同提案は東西冷戦が終わったのを受けて出したものですが、日本でも自社による五五年体制が壊れ、自民党単独政権が終了したときでした。世界的にも国内でも東西冷戦体制が崩壊していくのを目撃しながら、それまで保持してきた安全保障の枠組みとは異なるものを作っていこうと呼びかけたのです。
集団的自衛権という形で安倍首相が軍事を中軸とする一〇〇年前の攻守同盟型安全保障政策を打ち出してたきたいま、そうした対抗構想を提示する必要性は一層高まっていると思います。先ほど述べたEUやASEANの事例にも学びながら、オルタナティブな安全保障の思想、モデルをつくり、どちらがいですかと提示することが大事です。そういう作業に市民はもとより若い憲法学者、政治学者が加わってくことを期待したいところです。
まえだ・てつお 1938年生まれ。1938年福岡県生まれ。長崎放送記者だった1961〜71年に原子力潜水艦、原子力空母の佐世保寄港に立ち会う。退職後、フリージャーナリストとして在日米軍・自衛隊の現場を取材、「ビキニ核実験」による住民の低線量被害や日本軍の「重慶爆撃」の歴史的意義を発掘した。また、自衛隊改編をふくむ武力によらない安全保障構築について『日本防衛新論』(現代の理論社1982年)から『自衛隊のジレンマ』(現代書館2011年)まで追求してきた。95〜2005年、東京国際大学国際関係学部教授、2011年まで沖縄大学客員教授。著書に『戦略爆撃の思想』(凱風社)、『検証 PKOと自衛隊』『自衛隊 変容のゆくえ』『ハンドブック 集団的自衛権』『ブックレット 何のための秘密保全法か』(以上岩波書店)、『9条で政治を変える 平和基本法』『「従属」から「自立」へ 日米安保を変える』(以上高文研)、『〈沖縄〉基地問題を知る事典』、『Q&Aで読む日本軍事入門』(以上吉川弘文館)など。
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。