2014年10月11日12時53分掲載
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対談集 「佐藤可士和×トップランナー31人」
集英社から出された対談集「佐藤可士和×トップランナー31人」は一流のデザイナーである佐藤氏がインタビュアーとしても非常に素晴らしい資質の人であることがわかる好著だ。何年か前に出版された本だが、中身は今読んでも決して遜色ないだろう。
佐藤氏は自分のデザインは芸術家が個を押し付けるようなものではなく、クライアントの話にじっくり耳を傾けることから始まると語っている。そうした普段のデザインの基本作業がインタビューで十分に生かされたようであり、また佐藤氏が普段からよい聞き手であるだろうことをうかがわせる。
筆者が特に鋭いな、と感じたのはたとえば写真家の蜷川実花氏との対談だった。蜷川氏といえば独特の色彩美をもった写真がまず連想されるのだが、それはCGで色彩補正などをしていなくて、スマホでも彼女の特徴はそのまま写し出される、ということに言及されている。
「これって見たまんまなんですよ。ケータイで撮っても切り取り方次第で鮮やかさを際立たせることができる。写真って切り取る作業なんです」
蜷川氏の色鮮やかな世界は機械的な何かではなくて、観たままの世界であったことがわかる。だから、スマートフォンで撮影しても本質的には変わらないのだ、と。そして、蜷川氏が芸大の写真家でなく、デザイン科に入ったのは将来飯を食うためであり、そこでは非常に自分を抑えていたが、逆に写真は専攻していなかったが故に誰からも教わらず自由に表現することができた、という。
対談で佐藤氏は、大衆があまり知らなかった蜷川氏の個性を引きだしている。一見、奔放な芸術家という印象がある蜷川氏だが、プロとして地道に誠実に仕事をしている人だ、ということが見えてくる。そこをしっかり引き出しているところがこの本の魅力だと思った。
芸術家の村上隆氏との対談についてもそれはあてはまる。一見、バブリーであざとい印象が先行する村上隆氏だが、外国で高値で売れるから・・・ということではなくて、芸術作品として素直に自分の作品を見てほしい、と村上氏が願っていることがわかる。対談で紹介される達磨の水墨画はとてもユニークな作品であり、きっとこれまで村上氏を敬遠していた人にも素直に目を向けさせる契機となるだろう。対談では作品作りに誠実に取り組んでいる村上氏の人柄を素直に引きだしている。
また書道家の武田双雲氏との対談では書を書くときに、武田氏が短い詩を作ってそれを書に一気に反映させることが明かされる。それはデザイナーがクライアントに説明する時の理屈と同じ機能ではないか、という。文字はデザインの対象でもあるが、書の対象でもあり、その微妙な違いと同時に共通するものが見えて非常に面白い。そして、武田氏は書によって世界を平和にしたいと言う。驚くような言葉の連続でありながら対談を読むとなるほどな、と納得させられ目からうろこが落ちる。
対談相手は芸術家だけでなく、作家、スポーツ選手、実業家、シェフ、音楽家などさまざま。どの対談も恐らくもっとページを増やそうと思えば増やせるだけの量があったと思うのだが、惜しげもなく10ページ未満にしていて、その分、31人という人数を詰め込んでいる。それだけ詰め込んでいても1話、1話中身が濃く凝縮されているから、読み応えがある。
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