2014年11月09日03時50分掲載
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雨宮処凛著 「ロスジェネはこう生きてきた」
最近、雨宮処凛著「ロスジェネはこう生きてきた」(平凡社新書)を読んだ。雨宮氏はこのいわゆるロスジェネ世代ではメディアに最も頻繁に登場する人の一人だろう。だからだろうか雨宮氏の対談や著書をこれまで読んだことがなかった。自分が年代的にはいわゆる「バブル世代」に位置するということが関係しているかもしれない。バブル世代はロスジェネ世代から責められる立場にあるのではないか・・・そんな気がしていたのである。しかし、今、日本がどんな国になっているのか、もう一度考えようと思い、自分と異なる世代の人々がどんな暮らしをしてきたのか、上の世代も、下の世代も、双方含めてじっくり話を聞いてみようと思い始めた。
「ロスジェネはこう生きてきた」を読むと、雨宮氏が経験したその時々の状況がリアルに浮かんでくる。たとえばイジメの描写である。
「教師に相談するという選択は始めからなかった。なぜなら、私の前にいじめを受けていた部活の女子生徒が教師に相談し、最悪の対応をされたのを見ていたからである。教師ははっきりと「面倒」「関係ない」と言い、そしてその後、私も含めた部活の二年生全員を会議室に集めた。もちろん、いじめのリーダー格もいじめられている生徒もいる。そうして教師は「ここで話し合え」と言うと、そのまま会議室から出ていってしまったのだ。その場は「先生に御墨付きをもらった合法的ないじめの場」となり、いじめられている女子生徒はリーダーから徹底的に罵倒され、気がふれたのではないかと思うほど号泣した。ただただ恐ろしかった。だからこそ、絶対に教師にだけは相談しない、と決めていたのだ」
雨宮氏自身もイジメの対象となったそうだ。いじめられるとたいてい勉強に集中できなくなって成績が下降するが、雨宮氏はそうならないように勉強に励んだという。僕がこれを読んで思ったのはこんな体験をしている子供たちでも、周囲の大人たちにはその置かれた状況がまるで見えなかっただろうことである。他人の状況など誰も関心を持っていない・・・こんな風にも言えるだろう。ジャーナリズムが取材費を投じて、それらを報じるのは記者らの正義感があるにしても、それが飯の為になるからでもある。そして世間から見えないシャドーの中で様々なことが起きてきた。報じられるのは氷山の一角の、そのまた一角に過ぎない。だから、若者たちは、大人には一見平和に見えるこの日本も、サバイバルのために戦わなくてはならない戦場とさほど変わらないという。
「ロスジェネはこう生きてきた」を手に取ってみると、雨宮氏がこの本に自分の体験と、その時代時代にすべての世代が共通に経験した出来事とを素晴らしいバランスで書き込んでいるため、彼女の経験を読みながら、自分の経験も同時に思い出す、という稀有な経験ができた。これは彼女が苦心したところだろう。
ロスジェネ(ロストジェネレーション)は1972年から1982年までに生まれた人々を指すようである。就職氷河期に就職活動を余儀なくされた世代。雨宮氏は1975年生まれだ。彼女は生まれた北海道でどう育ったか、イジメから受験、バンドのおっかけ、その後の上京後のスナックやキャバクラづとめから右翼団体に入った経験などをつづっているが、その頃起きた校内暴力事件やいじめ自殺事件、さらには湾岸戦争、オウム真理教の事件、フリーターの増加や阪神淡路大震災、貧富の格差の増大、国旗国歌法成立などの出来事も書きこんでいる。まるで懐メロを聞くように懐かしくもあり、また取り返しがつかないという悲しさも伴う。
第二次安倍政権のもとで昨年の特定秘密保護法の可決の時もそうだったし、今起きている原発再稼働の是非もそうなのだが、行政の強引なやり方ですべてがなし崩し的に推し進められている。野党の無力がそこにはあり、ジャーナリズムに対する政府の介入があり、多くの人が無力感を味わい、今、政治からもジャーナリズムからも遠ざかりつつある。そうなると次第にみんな無関心になって感情が失われていきがちだ。そんな時1つ1つの事象に自分の生きた感情を蘇らせることができるのは文章の力である。「ロスジェネはこう生きてきた」という本書はまさにその一冊だと思えた。そして、ロスジェネに限らずあらゆる世代が、互いの無関心の中で不可視の存在であったのだから、様々な世代の声に耳を傾けてみたいと思う。
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