2014年11月30日00時46分掲載
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人権/反差別/司法
現代の若者から見た「慰安婦」問題(2) 〜 女たちの戦争と平和資料館(wam)事務局長・渡辺美奈さんインタビュー 〜
朝日新聞が8月上旬に過去の「慰安婦」報道の検証記事を掲載した直後、僕はwam事務所にお邪魔し、ご多忙の中、wam事務局長の渡辺さんに時間を割いていただいてお話を伺ったのだが、やはり僕の知識不足は否めず、渡辺さんにも勉強不足を指摘される有様で、今思うと恥ずかしい限りなのだが、腋の下や背中にどっと汗をかきながら、渡辺さんに伺った貴重な話を多くの人に知ってもらいたいと思ったので、ここに紹介しようと思う。渡辺さんからお話を伺ったことで、僕たち日本人に今、何が問われているのかが少しだけ分かったような気がしている。
――日本軍「慰安婦」問題について、「強制連行」の有無をめぐる議論を含め、全体的に分かりにくいという印象があります。
(渡辺)日本軍「慰安婦」問題などの戦後補償問題は歴史が長く、今の若い人たちは当時の時代背景も知らないはずですから、何をやっているのか分からないと思います。そもそも、今回の朝日新聞の検証記事や、それをめぐる報道でも何を議論すべきなのか分かっていません。
――分かっていない点とは何なのでしょうか。
(渡辺)それは、日本軍「慰安婦」問題において「強制連行」は本質的な問題ではないということです。
――「強制連行」が問題の焦点ではないのですか。
(渡辺)違います。でも折角ですので、混乱しがちな「強制連行」の問題について、少し説明しておきたいと思います。
まず、日本政府のこれまでの主張を聞いていると、「強制連行」は、「官憲による“奴隷狩り”のような連行」という狭い意味しかないようです。しかし、一般的にも国際的にも、「本人たちの意思に反して」連れて行かれていれば、強制されて連れて行かれたと考えます。日本政府が「強制連行」の定義を意図的に限定していることが、この問題の本質的な所を不明瞭にしているのです
とはいえ、河野談話の根拠となった公文書の中には、戦時中、占領下のインドネシアで日本軍がオランダ人の女性を収容所から連行して「慰安婦」にした事件が戦後のBC級裁判で裁かれたという資料(バタビア臨時軍法会議の記録)があります。これは、安倍首相のいう「狭義の強制連行」と考えられる公文書です。
「強制連行を示す公文書はない」という主張を散見しますが、どのような文書があれば納得するのか、反対に聞いてみるといいと思います。「慰安婦」にするための女性を「為しうる限り派遣せよ」という台電625号という公文書がありますが、ここに「強制的に為しうる限り集めよ」なんて書くと思いますか?違法な連行の仕方まで指示する文書が必要なのだというのであれば、それはその人の知見を疑わざるを得ません。
また、バタビア裁判の記録を知っている右派の人たちは、「朝鮮半島での強制連行の証拠はない」と、今度は、朝鮮半島における連行のあり方だけに限定しようとしているようです。朝鮮半島は植民地下にありましたから、警察権力が機能しており、その土地の業者を利用することが可能な程度に日本が支配していました。そのため、官憲の手を煩わせずとも、業者を指定して「慰安婦」を連れてこさせればよかった、そのような事例が当然多かっただろうことは、すでによく知られています。
――「強制連行」という言葉がどういう行為を意味するのか注意する必要があるということですか。
(渡辺)そうですね。2007年の閣議決定にある「いわゆる強制連行」と河野談話にある「意思に反して連れて行くこと」の定義が違うのか、日本政府にも確認する必要があるかもしれません。
今年の7月に国連の自由権規約委員会が日本を審査しましたが(※1)、その際に委員長は、日本政府が河野談話で「女性たちの募集などが本人たちの意思に反して行われた」と認めつつ、「強制連行は確認できていない」と主張していることについて、「2つの文言のどこが違うのか、我々はとても賢いわけではないので理解できない」と強烈に皮肉りました。
(※1:自由権規約人権委員会は、国連総会で採択された自由権規約の監視を実施するための国連の機関。今年7月15日から16日までの2日間、スイス・ジュネーブで前回2008年から6年ぶりに対日審査が行われた。委員会は7月24日に最終見解を公表)
――では、本題の日本軍「慰安婦」問題の本質とは何でしょうか。
(渡辺)この問題の本質は、女性たちが戦地で日本軍将兵に性行為を強要され続け、性奴隷状態に置かれたことにあります。その入口ともいえる連行のされ方自体は本質ではありません。女性たちが学校に行けると騙されたにしても、侵略してきた軍に銃をつきつけられて連行されたとしても、誰かがその女性を売買していたとしても、「慰安婦」にする女性たちを集めるよう命令し、集められた女性たちを移送し、慰安所に監禁し、日本兵たちの性の相手を強いたのは日本軍であって、女性を性奴隷化するシステムの一部に民間人の関与があったとしても、そのシステムを立案、管理したのは日本軍なのです。
この日本軍「慰安婦」の組織的関与を示す公文書は、河野談話以降も多くの研究者や市民によって発見されています。これについて、河野談話公表以降に発見された500点以上の公文書を、今年6月、「第12回日本軍『慰安婦』問題アジア連帯会議」実行委員会が日本政府に提出しました。朝日新聞の報道を検証するよりも、「慰安婦」制度自体に関してきっちり「調査報道」をしていただきたいです。
――先ほどお話に出た自由権規約委員会ですが、今回の対日審査には渡辺さんも現地に足を運ばれましたね。
(渡辺)7月にスイスのジュネーブに行き、委員に対して情報提供をしてきました。審査自体は、委員と日本政府との間で行われるため、その他のNGOの人たちは議場で傍聴するわけですが、審査前に情報提供のためのセッションがあるので、それに参加して日本政府の報告書の問題点などの情報を委員に提供しました。
2008年の自由権規約委員会の最終見解も、日本軍「慰安婦」問題については、日本政府が法的責任を認めて謝罪や被害回復措置をとるよう求める包括的な内容でしたが、今回は国内での史実の否定が酷くなる一方なので、日本政府があらためて真相究明をすべきといった追加項目が必要であることも委員に伝えました。
――自由権規約委員会が出した今回の最終見解では「入手可能なすべての証拠の開示」を求めています。今回の特徴はそこにあるのでしょうか。
(渡辺)はい、日本の現状を鑑みて追加された項目の一つです。ただ、日本政府の「慰安婦」問題をめぐる議論との関係でいえば、日本政府は審査中に「慰安婦制度は性奴隷制度ではない」と主張していましたが、最終所見の「慰安婦」問題に関する項目の表題に「性奴隷」という言葉が記載され、政府の主張が否定されたことは大きいですね。また、委員会が示した認識は、今の日本にとっては最も重要かもしれません。それは、「日本は、女性たちの『募集、移送及び管理』は、軍又は軍のために行動した者たちにより、本人たちの意思に反して行われた事例が数多くあったとする一方で、『強制的に連行』されたのではなかったとするのは矛盾している」と明言している点です。そして、「そうした行為はいかなるものであれ、締約国(日本)の直接的な法的責任をともなう人権侵害」であるとの認識を示しました。
さらにいえば、勧告の一番目に「加害者の訴追」が記載されていますね。これまでも「加害者の訴追」は他の人権機関からも勧告されてきましたが、今回の自由権規約委員会の勧告は、分量を割いて細かく書かれています。日本国内にいると「今さら加害者を処罰するのか」と理解に苦しむと思いますが、国際的に見ると、国が犯罪の加害者を放置していることは、国の責任を果たしていないことになるのです。
この加害者の処罰を求める勧告は、とても重要なことですが、国内メディアは「謝罪や補償を勧告した」といった報道ばかりでした。ちなみに、戦時中の犯罪は時効であるという意見もあるかと思いますが、「人道に対する罪」に時効はありません(※2)。
〔※2:「人道に対する罪」とは、「国家もしくは集団によって一般の国民に対してなされた謀殺、絶滅を目的とした大量殺人、奴隷化、追放そのほかの非人道的行為」と規定される犯罪概念。国連総会では「戦争犯罪及び人道に反する罪に対する時効不適用に関する条約」が採択されているが、日本は憲法39条(事後法・遡及処罰の禁止)に反する疑いがあるとの理由から棄権している〕
――国際社会の厳しい目がよく分かりました。その他、「慰安婦」問題の解決に向けた国際的な取組があれば教えてください。
(渡辺)私たちは8月14日を「日本軍『慰安婦』メモリアル・デー」として、国連記念日にしようとキャンペーンを始めています。その日は、初めて金学順(キム・ハクスン)さんが元「慰安婦」であると名乗り出た日(1991年8月14日)なのです。
日本は、「被害の記憶」を残すばかりで、「加害の記憶」は残そうとしていません。今、外国で「慰安婦」の石碑や像が設置されていますが、二度と同じ過ちを起こさないために、本当は日本国内にこそ設置する必要があるのです。碑の建設ラッシュは2010年からですから、日本が「慰安婦」制度の史実を否定し、なかったことにしようとするが故に、「慰安婦」の石碑や像が外国に設置されるようになったと考えた方が自然です。
――最後に、日本軍「慰安婦」問題を解決することの意義をお聞かせください。
(渡辺)今でも、世界中で紛争は起こり続け、そうした紛争下ではいつも女性たちが性暴力の被害に遭っています。ですが、私たちは離れた国の女性たちを助け出すことも、その後の生活の支援をすることもできません。
だからこそ、日本にいる私たちが、紛争下の性暴力をなくすためにできることは何かと言えば、日本軍「慰安婦」問題の実態を明らかにしてその事実を認め、被害者に謝罪・補償し、次世代にもこの歴史を伝えていくことなのです。日本が自身の過去の過ちを認めて、加害国として「二度とこのようなことを起こさせないために記憶する」と宣言し、紛争下の性暴力根絶の先頭に立つことは、重要な国際貢献になります。
私は、自国の問題にこそしっかりと取り組むことで国際的な貢献ができると信じています。あまりにも酷い状況が目の前のテレビで流れても、直接的には何もできませんが、自国の問題に取り組むことであれば今日からでも出来るのです。日本軍「慰安婦」問題の解決が、世界の女性たちを救うかもしれない。そのことを、多くの人に知ってもらうことが私たちの課題だと思っています。
(以上、インタビュー)
去る11月23日と24日、東京と大阪において、「第12回日本軍『慰安婦』問題アジア連帯会議」最終日の6月2日に日本政府に提出された提言「日本軍『慰安婦』問題解決のために」を深く理解しようというシンポジウムが開催された。
僕は11月23日に開催された東京シンポジウムに参加したのだが、そこで特別講演をなさった能川元一さん(大学非常勤講師)が、「今日のシンポジウムにはご年配の方々が多く見られますが」と前置きしつつ、「運動に関わりを持っていないが『慰安婦』問題に関心を持って自分なりにやれることをやっている若い人たちはまだまだいます。運動側もそうした若者とつながっていく努力が今後重要になるのではないかと思っています」と語っていたのが印象に残った。僕も若者代表のつもりで引き続き「慰安婦」問題を追い掛けていこうと決意を新たにした。(三宅保)
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