2015年01月22日21時08分掲載
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核・原子力
【たんぽぽ舎発】高浜原発パブコメに送った意見(上) 規制委のあまりにもずさんな審議に腹立たしくも悔しい思いをした 山崎久隆
高浜原発パブコメ(関西電力株式会社高浜発電所3号炉及び4号炉の発電用原子炉設置変更許可申請書に関する審査書案に対する科学的・技術的意見の募集)について、送った文章を掲載します。
川内原発でも、規制委のあまりにもずさんな審議に腹立たしくも悔しい思いをしたところですが、高浜原発でも同じような審査を行っていました。高浜原発に固有の危険性が見逃されていないかといった観点からも意見を書いて送りましたので、紹介します。
具体的数値もない審査書で、何を「科学的、技術的」に論じろというのかと言った根源的問題もあります。そう言っても通じない人たちですが、そういう問題でもあることを最初に書いておきます。
◆高浜原発の規制基準適合性審査書への意見 その1
パブコメのテーマについて−おかしい。大事な避難計画がない。
パブコメの案件名が「関西電力株式会社高浜発電所3号炉及び4号炉の発電用原子炉設置変更許可申請書に関する審査書案に対する科学的・技術的意見の募集について」とされている。
これでは審査初案の中に書かれた技術的な問題点についてのみ意見を聞くといっていることになる。
言うまでもなく高浜原発の再稼働問題は、立地住民や隣接市町村住民のみならず、遠くは250キロも離れた地域の住民をも危険にさらす。それは福島第一原発事故を見ても明らかである。ところがパブコメのテーマは「科学と技術」だとされる。
地域住民にとって最も重要な問題は「避難計画の実効性」だ。一体逃げることが出来るのかどうか。昨年末から今年にかけて福井県地方は大雪に見舞われて市民生活に重大な影響を与えた。このとき同時に原発事故が発生していたらどうだろう。規制委はそれに答えることは出来るのか。
音海半島は唯一の道が原発の真横を通る。田ノ浦トンネルを通って半島の外に出る唯一の道は、原発事故が起きれば直ちに高い放射線の影響で封鎖されるであろう。
どのようにして避難することが出来るのか。規制委は代替避難ルートを示す必要がある。
理想的な条件の下での推定でさえ
『30キロメートル圏内に住む福井県四市町55,000人の90%が30km圏外に避難するまで最長11時間10分もかかる。最大20,000台の自家用車が移動し大渋滞を引き起こすと想定されている。放射性物質が拡散する中、被曝せずに避難させる実効性ある計画の策定支援を原子力規制委員会がすべきである。(東京新聞12/18朝刊)』
これが現実だ。若狭湾は年間何日も雪が降るし、低気圧の通過や台風などで海が荒れれば、海岸沿いの道は通行不能になる場所が随所に発生する。この対策も事実上ない。
立地住民だけではなく、影響を受ける地域の住民の声を聞くべきである。
また、高浜原発が事故を起こせば、その高線量放射線が大飯原発にも及ぶ。波及的事故(恐怖の連鎖)の拡大も想定し、対策を取らねばならない。
これらの点についても明確に回答をすること。
◆高浜原発の規制基準適合性審査書への意見 その2
MOX燃料を使っている原発の規制基準適合性審査について
ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料体)については、243ページの「臨界ほう素濃度の設定根拠」の項目に出てくるだけである。しかしMOX燃料体にはウラン燃料体とは異なる多くの問題がある。次のような点にどのように答えるのか。
イ.溶融点低下と崩壊熱の大きさの問題
燃料の溶融点が約80度低い。しかし事業者は運転中の燃料温度がせいぜい1800度あまり。十分余裕があるという。けれども福島第一原発事故を経験した今では、全く異なる問題に直面している。
運転中に地震や津波などの外部要因でSBOが発生するなどして過酷事故が起こり、燃料が冷却できなくなると、炉心溶融の危機に直面する。その時残された対処時間は、MOX燃料が多ければ多いほど少なくなる。
福島第一原発3号機もプルサーマル原発だった。3.11のときに32体のMOX燃料を抱えたまま被災した。その結果、MOX燃料体ごと炉心が崩壊し大量の放射能を放出した。果たしてMOX燃料の存在がどの程度影響を与えたのか実際には分かっていない。
東電の分析などを見ても、3号機の燃料は予想以上に早く高温になり崩壊したことが明らかとなっている。NHKは燃料の高温原因は発熱反応であるジルコニウム水蒸気反応が大きな理由としているが、そのためには高温環境がまず存在しなければならない。崩壊熱はプルトニウムを多く含むMOX燃料の方が大きいから、炉心が冷却水の上に出た状態で十分水蒸気がある環境が作られれば、あとは燃料そのものの温度が高ければ高いほどに厳しくなる。つまりMOX燃料は炉心崩壊を加速させたとみられる。
福島第一原発はまだ全炉心の6%(548体中32体)だった。三分の一炉心の予定だったから、最大で180体のMOX燃料を入れる計画だった。
まだしも少なかったので事故の程度も他号機と大きな違いはなかったのかもしれない。もし180体のMOX燃料が入っていたらどうだったか。その分析と議論が先に必要なのではないか。
ロ.核爆発により近づく原子炉
もう一つは、制御棒が効きにくいことだ。
原子炉内を飛び回る中性子の数は、臨界状態では常に一定になるが、ウランだけの燃料とMOX燃料では、プルトニウムを吸収する効率(中性子断面積)が違う。プルトニウムのほうがより多くの中性子を吸収するので、臨界状態で中性子の数が比較的少なくなる。反面、中性子を吸収する制御棒やホウ酸の寄与は小さくなる。そのため、MOX燃料を使う場合はECCSの一つ、蓄圧注入系統のホウ酸の濃度を高めているが、これはポンプ駆動用電力が無くなれば起動しないからステーション・ブラックアウトになった段階で、ホウ酸投入が出来ない。
大規模地震が起きた場合など、ホウ酸注入系の配管が破断するなどしたら、さらに危機的状態になる。
原子炉を冷却するために大量の水を投入する場面が福島第一原発でもあったが、その際に海水にホウ酸を混ぜて投入した。通常の配管からの注入はできなかった。
ホウ酸注入用の系統はポンプが駆動しなければ入らない。そのため海水を注入する際にホウ酸を混ぜて投入したのだが、高浜などでは冷却用の水を入れれば入れるほどホウ酸が希釈される問題が起きるが、その解決方法は示されない。
大規模な地震の際には制御棒も挿入失敗する可能性が高い。その結果、原子炉は暴走する可能性がある。
ハ.制御困難な原子炉
炉心の中を飛び交う中性子には二つの種類がある。そのうち少ない方、0.6%程度の中性子は核分裂から1秒ほど遅れで出てくる。これを「遅発中性子」と呼ぶ。その他の核分裂の直後に出るものは「即発中性子」である。
緊急時に制御棒を挿入して中性子を吸収して、原子炉を止めることを「スクラム」と言うが、この時にはせいぜい3秒程度で制御棒が入る。しかし即発中性子は数万分の1秒で生成されるので、これを吸収するには間に合わない。
そこで遅発中性子が意味を持つ。核分裂反応は0.6%の遅発中性子があって初めて臨界状態を保つのだから、制御棒が挿入されると、この中性子が制御棒に吸収されることで核分裂に寄与する中性子の数が減る。これが原子炉を制御可能にしている。即発中性子だけで臨界状態になった場合を特に「即発臨界」という。この状態では原子炉の制御は出来ない。
問題はMOX燃料の場合は遅発中性子の割合が小さいため、ウラン燃料よりも即発臨界に近い状態で運転していることだ。
電力会社などは「運転中にもプルトニウムは生成されているのだから事情は同じ」と言うが、これは全くのうそ。
MOX燃料を入れるということは、最初からプルトニウムなどの核分裂性物質を多く含む状態で起動される。原発は燃料を入れて1年間ほど交換なしで運転を続けられるが、これは1年分の核分裂性物質を、あらかじめ燃料に入れているということに他ならない。プルトニウム239とウラン235が主なものだ。
従って初期の頃は燃料の核分裂性物質が「暴走状態」にならないよう、制御棒を一部挿入し、さらにガドリニウムなど中性子を吸収する物質を入れて運転する。
ウラン燃料に比べ制限値からも近い位置で動いている。つまり「安全余裕」を食いつぶしている。
それでも問題なしとされてきたのは、炉心崩壊するような過酷事故は起こらないと決めつけてきたからではなかったのか。
[(下)につづく]
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