2015年02月07日21時00分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201502072100226

国際

【北沢洋子の世界の底流】OPECは健在か、あるいは凋落?

 さる11月26日、ウイーンで開かれた第166回石油輸出国機構(OPEC)の定例総会では、石油の値下がりを防ぐためには、日産300万バレルの減産が必要と言われていた中で、その減産を見送りにした。これは、世界最大の産油国サウジアラビアの主張が通ったことになる。 
 
1.OPEC総会原産を先送り 
 これを見越して、OPEC総会前の10月以来、始まっていた石油の値下がりが加速して、ついに、12月9日には1バレル65.29ドル、5年振りの安値になった。一時期は100ドルを超えていた。 
 これまでOPECは、減産や禁輸などの戦術を駆使して、石油の価格を決定する、あるいは値段を吊り上げる「世界最強のカルテル」と言われてきた。そのOPECが、減産に失敗したことは、カルテルとしての「OPECの凋落」かと、世界のマスメディは書き立てた。 
 
2.シェール・オイルの参入とコスト 
 はたして、そうだろうか。たしかに、石油の需要減少には、(1)米国のシェール・オイルの生産増、(2)世界経済の減速、(3)ハイブリッド車などのエコカーの普及でガソリンの需要が減少、などの理由が挙げられる。その結果、石油の値下がりが起こっている。価格カルテルであるOPECは、当然減産して、値下がりに対抗すべきだった。 
 
 2014年10月29日付けの『産経新聞』は、これは、サウジアラビアによる、米国産シェール・オイル潰しだと報じている。シェール・オイルは、地下1000メートルの地層を水圧破砕して取り出して石油や天然ガスを注出するもので、コストは、バレル当り45〜60ドルである。従来の石油に比べて開発に費用がかかるが、近年石油が値上がりしたので、大量生産が可能になった。言うまでもないが、シェール・オイルの生産は石油の掘削に比べて計り知れない環境破壊をもたらす。環境の要素をコストに計算すると、非常に高くつく。 
 
 2014年8月1日号の『ニューズウィーク』誌によれば、シェール・オイルで、米国はサウジアラビア、ロシアを抜いて世界一の産油国になるだろう、と言う。 
 
3.OPECの歴史 
 OPECの設立は1960年にさかのぼる。それまで、米国のロックフェラー家とヨーロッパのロスチャイルド家が支配していた石油メジャーが、油田から輸送、販売に至るまで握っており、産油国は僅かなロイヤルティを受け取っていた。しかもその金は王様の金庫にすっぽり入った。 
 
 1951年、イランの民族主義者モザデグ首相が、アングロ・イラニアン石油(AIOC、現在はBP)の国有化を断行した。高名な国際法学者でもあったモザデグ博士の国有化論は、「イランが半世紀の間にAIOCから受け取ったロイヤルティは、AIOCの1年間の利潤よりも少ない。したがって、国有化は国際法に合致している」と、国会で述べた。しかし、モザデグの国有化は長くは続かなかった。イギリスに代わって、米国がイランにCIAを送り込み、政情を不安定化させた。モザデグの国有化は3年間で終わった。 
 
 以後、産油国の国有化願望は、ついに、1960年、バグダッドでのOPECというカルテルの結成に至った。このときは、イラン、イラク、サウジアラビア、クエート、それに南米のベネズエラの5カ国であった。現在OPECのメンバーは12カ国、世界の石油生産の42%のシェアだが、埋蔵量では2/3に上る。5カ国以外には、現在、アルジェリア、アンゴラ、エクアドル、リビア、ナイジェリア、カタール、アラブ首長国連邦が加盟している。これに、ノルウェー、ボリビア、メキシコ、シリア、スーダン、ブラジル6カ国が加盟候補である。このリストを見ると、あることが判る 
 
 今日、石油を産出している国は、66カ国、世界の国の数の1/3に上る。その中で、OPEC加盟国12カ国、それに候補6カ国を加えた18カ国は、サウジアラビアを除いては、湾岸国、アフリカ、南米の、反米、あるいは、民族主義の国であることに気が付くだろう。カルテルとしてのOPECは健在である。 
 
 OPECの栄光の時代は1973年10月の第4次中東戦争の時の第1次オイルショック、1979年1月のイラン革命の時の第2次オイルショックの時代であった。第1次の時は、OPECは原油の値段を4.5倍に吊り上げ、親イスラエル国には禁輸を断行した。その結果、それまで、謳歌していた先進国の高度成長を完全にストップさせたのであった。 
 
4.産油国の2分化 
 今回、OPECが減産を見送ったことでは、まず価格が下がる。日本のような石油消費国にとってみれば、良い事だが、生産国にとっては、困る。産油国といっても、サウジアラビアや他の湾岸の首長国のように、石油の埋蔵量に比べて人口が極端に少ない国はあまり影響を受けないが、イラン、イラク、ベネズエラ、ナイジェリアのように、人口が多く、かつ多くの貧困層を抱えている国にとっては、石油の値下がりはピンチであり、社会の不安定化を増大させるだろう。 
 
 一方、石油価格の下落は、米国のシェール・オイル生産に歯止めがかかるだろう。とくに、米国では、シェール・オイル生産は中小企業が多く、銀行から資金を調達している。銀行などが貸し金の引き上げなどをすれば、かつてのリーマン・ショックのようなことが起こるかも知れない。 
 日本などでは原発の稼動やエコカーの普及などに影響を与えるだろう。 
 
------------- 
国際問題評論家Yoko Kitazawa 
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/ 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。