2015年03月11日21時07分掲載
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http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201503112107253
コラム
不可解な風刺画掲載本
噂には聞いていたけれど本当に出たらしい・・・
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201502/2015021000044
http://www.huffingtonpost.jp/2015/02/06/charlie-hebdo-book_n_6628562.html
これらの記事によると、第三書館という東京の出版社が、〈フランスの風刺週刊紙「シャルリエブド」の風刺画を転載した本〉を出版。本の題名は〈「イスラムヘイトか風刺か」〉。〈本はA5判64ページで、日本語の翻訳や解説を付けたシャルリエブドの風刺画を中心に48点を収録〉〈イスラム教徒に配慮し、預言者ムハンマドの顔にはモザイクがかけられた。〉という。
巻頭で<「風刺の持つウイットもユーモアの香りも感じられない」と批判。> 編集部は〈「風刺画はヘイトスピーチとの境界線上にあると考え、議論が必要だと思った。」〉とコメント。
・・・
これは誰のための本なのだろう?
この本を実際に読んだわけではないけれど、これらの記事をもとに感じたことを言いたい。
まず、モザイクをかけた風刺画が読者に理解されるわけがない。絵をしっかり見てこその風刺画なのに、読者に絵を想像させるなんて的外れにもほどがある。
そして、巻頭で風刺画を批判した上で解説することは、読者に考える余地を与えない誘導尋問と同じで、風刺画の理解を深めようとする意思はないに等しいと思われても仕方がない。最初に結論を述べてしまっているので、タイトルもあってないようなものだ。
この本には、イスラム世界に詳しい識者からの寄稿文も掲載されているという。
風刺画を理解してもらうためには風刺画に詳しい専門家の見解を載せるのが妥当ではないだろうか?
出版社側は、この本を出版した理由を「議論を深めるため」と述べている。しかし、巻頭でムハンマドの風刺画そのものを批判し、フランス(西洋文化)の専門家よりもイスラム教の専門家に意見を仰ぐということは、結論ありきで書かれたことになり、議論など深まるはずがない。
掲載した風刺画48点を最初から批判するつもりで選んだのであれば、それらはすでに存在する誤解を助長するだけだと私は思う。
ムハンマドの顔にモザイクをかける前にも後にも、イスラム教徒からは抗議が来ているという。
風刺画も風刺画家も読者もイスラム教徒も、すべてを侮辱しているであろうこの本は、誰のためにも何のためにもならない。
考えられる唯一の得といえば、この本がことのほか売れて、出版社が儲かることくらいだろう。
単なる売名行為だとしたら、お粗末すぎる。
※ フィガロ紙がさっそく関連記事を掲載 ↓
http://www.lefigaro.fr/flash-actu/2015/02/10/97001-20150210FILWWW00209-japon-un-livre-pour-expliquer-charlie-hebdo.php
記事では、日本にはシャルリー・エブドに相当する風刺新聞が存在しないこと、そして原発事故をネタにしてはならない風潮があることなどを紹介した上で、
「本というよりは“ミニ雑誌”に近いこの書物は、イスラム教徒などを憤慨させそうな風刺画に多くのページを割いている。」
と、この本の偏った内容を批判している。
寄稿: Ryoka (フランス在住)
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