2015年04月10日11時51分掲載  無料記事
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みる・よむ・きく

今年、いやこれまでで一番の映画かもしれません そう、『パレードへようこそ』 原題:PRIDE 稲垣豊

 先月観た『ジミー 野を駆ける伝説』では冒頭5分ほどで涙がでましたが、『パレードへようこそ』は映画開始1秒で涙。ピートシガーが歌うSolidarity ForeverのBGMが流れるスクリーンに映し出されるストでたたかう炭労を襲撃する警官隊の映像。これは実際のフィルムで下記公式サイトの予告編でも見られます。 
 
オフィシャルサイト 
http://www.cetera.co.jp/pride/ 
https://www.facebook.com/paradeheyoukoso 
 
 1984年3月、サッチャーによる炭鉱潰しに抗する南ウェールズの田舎町、ディライスの炭鉱労働組合を支援したロンドンのレズビアン、ゲイのグループ「Lesbians and Gays Support the Miners:LGSM」らの実際のエピソードを映画化したものです。もうあちらこちらに紹介が出ていますので、ご存知の方も多いかと思います。 
 
 映画は、前半のイケイケの内容から、後半は闘争の停滞、家族へのカミングアウトやHIV感染症など、重たい雰囲気が漂いますが、炭労の町の住人たちとLGSMメンバーたちとのブリティッシュ・ジョークならぬウェリッシュ・ジョーク&パーバート(Pervert/ヘンタイ)ジョーク満載のストーリーで、銀幕から目が離せなくなります。もちろんジョークだけでなく、フレンドシップ満載のセリフも心温まります。 
 
 挿入歌には80年代UKヒットナンバーも豊富につかわれているそうです。ぼくは全く知りませんが、80年代UKポップの懐かしいにおいがするようです。LGSMの拠点がGAY’S THE WORLDという書店だったこともあり、GAY’S THE WORLDがあった当時のロンドン・ブルームズベリーの街並みなども再現されているようです。LGSMのメンバーは、ハンドメガホンとOUT LOUDの大きなロゴが描かれたミニバスで、南ウェールズの大自然を移動します。 
 
 UKポップやLGBT、イギリスやウェールズ文化にはあんまり詳しくないので、もっと詳しい人の映画評をよみたいですね。 
 
 で、この映画ほんとうにお勧めです。 
 
 なにがお勧めかというと、登場人物のほとんどが左翼だから。 
 
 日本語字幕にはあんまり出てきませんが、LGSM発起人のマークは、襟に赤い星のバッジをつけてるし、演説しようとしたら「このアカ」とやじられたり。プログラムには、ディライス炭労委員長のダイは社会主義者だと書かれてありますし。イギリスの労働運動や左翼文化に詳しい人が見たらきっとすぐにわかるようなセリフやシーンもたくさんあったと思います。二人の演説もかっこいい。 
 
 それにあんまり気が付かないとおもいますが、炭労がストを解除して1年ぶりに職場復帰するとき、ディライス炭労も組合員全員で町をデモ行進して、職場に向かいます。この時に掲げられているディライス炭労の旗には 
 
WORKERS OF THE WORLD UNITE FOR 
 PEACE AND SOCIALISM 
 
 と書かれてあるのです。映画が始まる前に買ったプログラムでこの写真を見た時には、すでにこの映画に引き込まれてました。 
 
 そして最後のパレードにもこの旗、そしてディライス炭労が結成された100年前(マルクス存命!)からあるという握手の絵が描かれた伝統の旗が、LGSMの横断幕とともに、ロンドン・ビックベンの足元をすすむプライド・パレードで掲げられます。この「握手」は映画の中でもいろいろなモチーフとして登場します。 
 
 もちろん闘争歌もでてきます。冒頭はSolidarity Forever、そしてラストはBilly Braggが歌う There is Power in The Unionで、これには感動。長引くストとサッチャーによる攻撃で意気消沈していたディライスの住民を勇気づけるLGSMメンバーの演説への答礼歌として歌われる Bread and Rosesもすばらしい。 
 
Solidarity Forever 
https://www.youtube.com/watch?v=pCnEAH5wCzo 
 
There is Power in The Union 
https://www.youtube.com/watch?v=4CkFPyH8v1c 
 
"Bread and Roses" from Pride 
https://www.youtube.com/watch?v=qNQs6gSOkeU 
 
 いくつかのエピソードはフィクションですが(たとえばBread and Rosesなど)、物語それ自体は実際の出来事。本当に完璧な作品に仕上がっているとおもいます。 
 
 ガーディアンにはこの映画のもとになったLGSMがつくったフィルムをはじめ、実在の登場人物のインタビューが掲載されています。英語ですが必見。 
 
http://www.theguardian.com/film/2014/aug/31/pride-film-gay-activists-miners-strike-interview 
 
 1年以上に及ぶ全国規模のストライキは敗北し、新自由主義がイギリスや世界に蔓延することになります。サッチャーは「社会などない、あるのは個人と家族だけだ」、「(新自由主義以外に)オルタナティブはない」(安倍風にいえば「この道しかない」ですが)とうそぶき、新自由主義を世界中に拡大させていく走りとなりましたが、それから30年。サッチャーは死に、新自由主義は世界中を混乱に落とし続けています。 
 
 あらためてこの歴史的大闘争において、レズビアンやゲイなどLGBTIと呼ばれる人々の訴え(「みんなサッチャーにいじめられている仲間だ」)と実践を、完璧なストーリーとして再現した『パレードへようこそ』は、ぼくのつまらない紹介を読んでるヒマがあれば、いますぐにでも観に行くべきだと思います。 
 
 素晴らしいたたかいを担ったLGSMのみんなに感謝。 
 
WORKERS OF THE WORLD UNITE FOR PEACE AND SOCIALISM 


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