2015年04月13日12時33分掲載
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国際
【北沢洋子の世界の底流】リークされたTPP投資のテキストの分析(Public Citizen)
3月25日、Wikileaks が53ページに及ぶTPPの投資のテキストの全文を暴露した。これを、ワシントン在住のアドボカシィNGO「パブリック・シティズン(PC)」のLori Walach とBen Beachyが分析した。
すでに5年間、秘密裏に議論されてきたTPPの投資のテキストの全文がインターネット上に掲載された。PCはこれを精査した結果、本物であるという結論に達した。TPPは、米国と、太平洋弧の国々、すなわちオーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムの12カ国の通商代表が、秘密裏に、集中的に、交渉を続けてきた。
暴露された文書は、マスコミや市民、さらに議員にさえ知らせずに続けられた“貿易”交渉が、いかに危険なものであるかと言うことを物語っている。TPP交渉は、すでに合意した箇所が多い。そこでは、外国資本(投資家)に新しい権利と特権を与えている。それは、国内法では国内資本に禁止している特権を外国資本に与えているのだ。
外国資本が、TPPによって認められた新しい特権が侵害されたと判断した場合、「投資家対政府間紛争処理(ISDS)」法廷に当該政府を告訴することが出来る。そこでは、外国資本が、投資先の金融、環境、医療、土地利用などの国内法によって、特権を侵害されたとして、現地政府に賠償を請求することが出来る。この場合、現在の侵害だけでなく、未来に得られるべき“権利”(利益)も含まれる。
TPPでは、ISDSの法制度を拡大することによって、何万もの外国資本が現地政府と同等のステータスを持つことになる。TPPは、外国資本に、国内法を無視して、外国の(ISDS)法廷に直接訴えることが出来るという権限を与えている。
米国やその他の先進国が締結している現在のISDS協定は、ほとんど途上国にしか当てはまらない。その逆、すなわち、途上国から先進国への投資が少ないからである。そしてTPPは、ISDSに、より多くの権限を与えている。TPPが成立すれば、米国内に投資した約9,000の外国資本が、米国政府に対して、ISDSがらみの告訴を始めることが出来る。一方、18,000の米国資本が、TPP加盟国政府に対して、ISDS法廷に訴訟を起こすことが出来る。
現在のところ、オーストラリアを除いて、全TPP交渉参加国は、外国資本がISDS法廷に提訴する権限を認めることに合意している。オーストラリアは、「ある一定の条件で、容認する」と言っている。そして、“法廷”は外国資本に無制限の賠償金を当該政府に支払わせる権限を持つ。この無制限の賠償金とは、“将来予想される利潤”も計算している。
TPPの投資のB項では、ISDS法廷は、TPP加盟国が共通して持っている法廷の透明性、先例性、尊法性のルールを持っていない。そればかりか、所在地も、公正で、独立した、バランスとれたところではない。法廷のスタッフも民間企業の企業弁護士で、何らアカウンタビリティはない。また“裁判官”と弁護士は、提訴する企業によって、相互に交代する。このような二重の役割は、現行法制度の中では、倫理に反する行為と見なされる。一方、暴露されたテキストには、ISDSに関して、前から関心が集まっている「利益の相反」についての項目がない。
オバマ政権が、繰り返し、TPPの投資の章は、ISDSの濫用を制限すべきだと言っているにもかかわらず、TPPのテキストでは、米国のISDS協定が、あるところでは、一言一句たがわず、コピイされている。しかし、ある文言では、国内政策と政府の行動の枠組みを広げることが出来る。たとえば、TPPは、製薬会社が、知的所有権の設定、限定、更新などに関してWTOの規定に違反しているとして、賠償を要求するのに、TPPのISDS法廷を使うことが可能になっている。現在、WTOのルールでは、投資家は個別に流用できない。
ほとんどのTPP加盟国政府は、外国資本がTPPのISDS法廷に提訴する権限を拡大することに反対している。これは、米国の通表代表が、最も圧力をかけている部分である。 その内容は、国有地の天然資源の開発権、政府のインフラ・プロジェクト及びそのメンテナンスの調達などである。
テキストでは、外国資本の開発権と賠償に関する項目が、果てしなく拡大解釈される一方で、現地政府のセイフガードに関しては、2005年の中米自由貿易協定(CAFTA)で米国が結んだ、セイフガード項目と全く同じである。CAFTA法廷では、セイフガードの項目が抜けている。
TPPのISDS制度の拡大は、現地政府の公共利益擁護政策に対して、ISDSへの提訴が急増していることと関連がある。実は、ISDS協定は、1960年代から存在している。しかし、最初の30年間、ISDSがらみの提訴は、総合して50件に過ぎなかった。しかし、2011〜2013年には毎年50件、2014年には42件に増えた。そもそもISDSの目的は、政府が外国資本の工場や土地を国有化する際、賠償を払うための協定であった。しかし、年がたつにつれ、ルールや解釈が劇的に拡大した。従来、最後の手段であるべきものだったのが、やがて外国資本の現地政府に対する優位性にとって代わった。
外国資本が、ISDSがらみで攻撃している部門は、煙草、気候、金融、鉱山、製薬、エネルギー、汚染、水、労働、有害物、開発、その他非貿易部門の国内政策などに亘っている。米国の“自由貿易”協定(FTA)だけを取って見ても、外国資本は、「投資家対政府」法でもって、すでに4億4,000万ドルを現地政府からむしり取った。これには、天然資源、環境保護、保健、安全などについての政府の政策に対する外国資本のクレームであった。米国のFTAと二国間貿易協定について、ISDS法廷は、36億ドルの賠償金の判決を出した。現在進行中のISDS法廷では、総額38億ドルにのぼる賠償金の請求が、現地政府の環境、エネルギー、金融規制、公共保健、土地利用、運輸部門などについての政策をめぐって争われている。
たとえ政府が裁判で勝ったとしても、現地政府は裁判費用の一部を支払わせられる。一裁判で平均800万ドルとして、裁判に勝つという見通しがあっても、莫大な出費となる。
(北沢洋子抄訳)
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国際問題評論家
Yoko Kitazawa
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