2015年05月08日18時16分掲載
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核・原子力
原子力に関する神話の払拭を 落合栄一郎
原子力に関しては、日本は特殊な位置にある。それは原爆を市民の上に落とされ、水爆実験の余波の犠牲にされ(第五福竜丸と関連事故)、そして4年前の福島第一原発の過酷事故など。そのため、日本には、様々な原子力に関連するいわゆる神話が作られてきた。そのいくつかを検討してみよう。そして皆さんに神話の真偽の判断を、できるなら払拭する努力をして頂きたい。
(1)日本では、兵器に用いられる場合は、「核」兵器とされ、平和目的に使用される場合は、「原子」力という言葉が使われ、核兵器の悪が、「原子力」発電という表現で隠されていると云われる。『原子力発電は核の悪とは別』という神話である。といっても最初に日本に落とされたものは原子爆弾と云われたし、現在でも核爆弾という表現は使われない。核兵器は、原子爆弾を含む包括的な表現である。いずれにしても、原理的には、平和目的であろうと軍事目的であろうと、(原子)「核」での反応に基づくもので、出て来るエネルギーも、この核での反応(核分裂)の結果出来る大量の放射性物質も同じものである。このことを先ず、理解してから、原子力問題を考えなければならない。英語では、Nuclear weaponであり、Nuclear power (plant)とどちらもNuclear (核)と表現される。
そして、核での反応を人間がコントロールするのは非常に難しい。核分裂をコントロールせずにやらせて爆発させるのが核兵器であり、これをなんとかしてコントロールしながら発生するエネルギーで水を蒸気にしてタービンを回すのが原子力発電である。コントロールはともすると出来なくなり(事故に)、また出来た放射性物質の崩壊(放射線を出す)は、人間の力ではコントロールできない。
(2)20世紀の当初から発達した素粒子物理学が、原子の構造、さらに原子核、それを構成する核子、そしてさらにそれを構成する素粒子などの現象を解明してきた。その結果、(原子)核レベルの反応についてもかなりのことがわかっのは、人類の素晴らしい成果である。そして、これを推進した物理学者は、非常にこのような成果に誇りをもっている。そのあまり、こうした物理現象を使った原子力発電こそは、人類にとって有用な、貴重なエネルギー獲得法であると確信してしまっている(物理学者が多い)。そして、それに反対する運動(反・脱原発)は、科学の進歩に反するもので、人類にとって望ましくないと思い込んでいる。おそらく、これは、一般市民の考え方とは違うと思われるが、こうした物理学者が、原子力の専門家として、声を大にして反・脱原発運動を攻撃している。これは物理学者の狭量さを示すのみ(核反応が生み出す放射性物質の悪の無理解か無視)であるが、市民への影響は無視できない。これは、『科学への信仰』という神話としてよいであろう。
(3)日本へ原爆を落とした結果、日本市民には「核アレルギー」が蔓延し、人類全体に「原子」爆弾の悪を知らしめた。この印象を払拭し、原爆開発過程で作られてしまった原子力産業をさらに儲けられる産業にするために、アメリカのアイゼンハウアー大統領は、1953年に12月8日(大平洋戦争勃発日)に国連で「Atom for Peace」なる演説を行い、原子力の平和利用を強調した。そして、その平和利用である原子力発電を、原爆の被害を受けた日本にこそ植え付けることが、有効と判断し、日本に積極的に働きかけた。日本も戦後の経済復興期に、エネルギー需要を満たすのに有用だという宣伝に、政府も民間も説き伏せられた。そして福島事故がおこるまでにはこの狭い国土に54基の原子炉が建設された。もちろん、この間に反対運動がなかったわけではないが、立地自治体への経済援助と、『原子炉の絶対安全』神話を浸透させてしまった。原発の危険性(非安全性)の警告はわずかにはあったが、原発企業も政府も多くの国民も耳を傾けなかった。
しかし、東電の福島第1原発の事故は、この神話を覆してしまった。大多数の国民は今や、この神話は信じていないと思われる。残念ながら、原子力推進側は、原子力規制委員会なる、推進者による公的機関(これは、推進者以外の人も加えバランスのとれた検討をすべきだが、そうなっていない)を設けて、より厳重な安全基準を作ったとして、それに合格しさえすれば、原発を再稼働できる体制を作ってしまった。これは、日本固有の問題で、アメリカでもフランスでもこれほどいいかげんなやり方をしてはいない。
この委員会の不当性(バランスのとれた構成になっていない)を国民が声を大に指摘し、正当な機関を作りなおさなければならない。なお、この委員会の委員長は、公然と「この規制に合格したかどうかの判断を下すのみで、そうしたからといって、安全を保障したことにはならない」とうそぶいている。現実は、でも合格したら、再稼働に向けて動いて行く。ここでの問題の基本に今回の福島事故の原因についての論争がある程度関係している。
(4)今回の福島事故は、東日本大震災とそれに伴う大津波によって引き起こされた。震度9.0の揺れは、原子炉にどんな影響を及ぼしたか、津波は?どちらがあの過酷事故の原因であったかという議論である。東電の公式見解は、津波が想定外に大きく、それが原因であったというものである。これは『津波が原因』という神話である。しかし事故の経過を詳しく辿ってみると、津波が主因であったとはとても云えない。公にはあまり報告されていないが、地震直後(津波以前)にすでに放射能の放出が観測されているし、多くの職員によって、地震によって、建物、配管などなどの大量の破損・崩壊が津波以前に目撃されている。もちろん、外部電源も地震によって切られた。これらの報告は、やがて起きた爆発などの事故は、地震によって原子炉そのものや付属配管や弁その他の損傷が原因であることを物語っている。もちろん津波がそれを更に悪化させた。この津波神話は、現在の規制委員会にも影響して、津波対策が強調されて、地震という、より可能性の高い現象への規制が軽視される傾向に繋がっている。
(5)起きてしまった事故の影響を隠蔽するために、原子力ムラは、現在盛んに『放射能安全神話』を様々な形で展開し、国民を放射能と共存することを許容するように仕向けている。これについては、先に報告した(落合、日刊ベリタhttp://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201504111028576)。
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