2015年05月31日15時34分掲載  無料記事
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160年前からアメリカに占領さていた沖縄 70年の現代史を問う映画『沖縄 うりずんの雨』 笠原眞弓

 ちょうど沖縄が「うりずん」の季節だというころ、ジャン・ユンカーマン監督の映画「沖縄 うりずんの雨」を観た。冬が終わって大地が潤い芽吹き始めるころを、沖縄ではうりずんというそうだ。 
 
 沖縄・渡嘉敷島の歌人は 
 
うりずんの 雨は血の雨 涙雨 礎の魂 呼び起こす雨 
 
と詠む。美しいことがはじまりそうなタイトルに込められた不屈の人々の思いが、その湿った空気と共に滴る怒りとなって地に深く染みわたる。 
 
 2時間28分の映画は、4部に別れている。1部から「沖縄戦」「占領」とあり、「凌辱」「明日へ」と続く。今の激しい闘いのみに焦点を当ててはいない。長い歴史の中で沖縄の今の状況を示している。 
 
◆ペルーの占領的上陸から始まる沖縄の負の歴史 
 
 映画は、ペールー提督の1853年5月の沖縄上陸からはじまる。目的は、浦賀入港(同年7月8日)に備え、沖縄を進軍基地、後方支援基地とするために思うままに動けるようにしようとしていた。つまり「占領」である。それは今に通じるので、なぜここからはじまったかも頷ける。 
 
 沖縄戦の経験を元兵士にインタビューしている場面で驚いたのが、日本の戦闘作戦を「怖い」と表現したこと。武器の多さ、兵士の多さで圧倒的戦力を持っていた米軍の言葉である。考えてみれば、当時の兵士は、17、8歳。まだ子どもである。沖縄戦といえばガマでの経験が語られるが、米兵から見たガマも恐怖だったようだ。どこにあるかわからない無数の洞窟、突然飛んでくる弾。撃ったり、撃たれたり、またその中の人を殺さずに捕虜にするのも命懸けだっただろう。 
 
◆人々の中に沈む米兵とのトラブル 
 
 戦後の沖縄は、主権を奪われ、日本本土からも見捨てられて植民地化していく。 
 あちこちで起こる事件にならないレイプ事件。コップの水があふれ出たのは、12歳の少女に対する事件だった。 
 
 この事件と、沖縄国際大学へのヘリコプター墜落事件は沖縄の人々の体内に、大きな鉛の塊のように沈み、今に続く基地反対運動のエネルギーになったと言える。これまで米国の兵士は「事件」を起こしても、日本で服役をしたことはなかったが、今回は違った。彼らは日本の裁判所で裁かれ、6年から7年の懲役刑になって日本の刑務所に収監された。その3人にインタビューを試みる。1人はすでに他界し、主犯の1人は拒否する。インタビューを受けた元米兵は、未だに職を転々としていて事件も起こしている。その彼が、なんであのようなことをしたのかと素直に悔やみ、決して許されないだろうとうつむく。彼の更生は、このインタビューからはじまったと思えるものだった。 
 
◆米軍の中の「差別」との共闘は可能か 
 
 アメリカ本国では、軍隊内での女性兵士たちへのセクハラ被害者が声を上げはじめた。本人や家族の証言が続く中で、この膠着状態の沖縄の基地撤去の問題も、同じ被害者として彼らと共闘出来るのではないかと思えた。 
 
 他にもある。例えば「17、8歳の若者の戦争」。新兵は、まだ大人になりきれていない若者であり、精神的に人格形成が未熟である。そんな若輩兵士は被害者であるという共通の考えである。「差別」でも共闘が出来る。軍隊の中の女性差別、あるいは沖縄を撮り続ける中で石川真生さんの指摘する人種差別、そこに沖縄と日本、日本とアメリカの差別が重なる。 
 
◆基地と共存を願う人たち 
 
 基地のフェンスに、メッセージを書く人たちがいた。プラスチックの紐を結び、カラーの粘着テープを貼っていく。その手際のよさ。「綺麗でしょう。なんできたないと言うのかしら」と。その手際のよさと言葉の意味は、あとになってわかる。定期的にそのメッセージテープをはがす日本人グループがいる。彼らは、そのボランティア活動のあとで、米兵たちと交流する。基地排除の人たちだけが沖縄にいるわけではないことを示している。そのことも私たちは、忘れてはならない。 
 
 そんなことを発見しながら、2時間半が過ぎていった。 
 
 ジャン・ユーカーマン監督は、沖縄に駐留した経験がある。そのとき、沖縄の人の「不屈の精神」に触れ、感銘を受けたという。その体験が浄化され、ここに再現された感がした。欲を言えば、もう少し「なぜこんなにこじれたのか」という、今の沖縄を突っ込んで欲しかった。そこが大問題なのだから。 
 
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70年目の沖縄慰霊の日に近い6月20日に東京・岩波ホール、沖縄・桜坂劇場ほかにて公開される。 
監督:ジャン・ユンカーマン 
2時間28分 2015年 シグロ30周年記念製作(第1作が沖縄をテーマにしたドキュメンタリーだったことから、30年の節目に再び今の沖縄を記録することに) 


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