2015年06月01日22時32分掲載  無料記事
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カミュ原作の映画「涙するまで、生きる」 〜アルジェリアとフランス、日本とコリア〜

 渋谷のイメージフォーラムにて「涙するまで、生きる」を見た。原作はアルベール・カミュの短編集「追放と王国」収録の短編「客」。舞台はアルジェリア独立闘争が始まった1954年のアルジェリアの山村。独立軍とフランス軍のはざまに立たされたフランス系(もともとはスペイン系だが)の男とアラブ系の男の旅。二人は国と国の確執を越えることができるか。なるほど、今の時代に生かせる物語。 
 
  上映後、上智大学イスラーム研究センター所長の私市正年教授と研究者の中村遥さんがステージで解説してくれた。アルジェリアは1830年から1962年まで約132年間、フランスの植民地だった。日本が朝鮮を植民した期間が1910年から1945年だから、その4倍の期間に渡る。アルジェリアはフランス語も少なからず話される地域でもあるが、しかし、フランス語を話すいわゆる「フランコフォン」の国家群には加わっていないと言う。これは植民地時代の傷跡であって、実際にアルジェリアとフランスの関係は他の国よりもはるかに濃密なのだが、それだけに愛憎半ばする複雑な関係だと言うのだ。 
 
   アルベール・カミュはフランス人入植者の3代目で、もともとアルジェリア生まれ。「フランスへ帰れ」と言われても、フランスを知らない人間である。それは主人公の台詞にもある「フランス人からはアルジェリア人と言われ、アルジェリア人からはフランス人と言われる」。だからどちらかの立場を取れ、と迫られると非常に葛藤に襲われるのである。そのためカミユ自身もアルジェリアの完全独立を思い描けなかった、と教授は話し、それがカミュの限界でもあったという。そのことは「革命か、反抗か」にも重なってくるのだろうか。こうして歴史をひもといてみると、かつて植民地を持っていた日本にも関係してくるテーマのように思える。 


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