2015年06月19日04時02分掲載
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経済
実質賃金プラス報道の謎
国民の給料は実質増えているのか減っているのか。朝日新聞の6月3日付の記事では実質賃金指数が前年より0.1%増え、2年ぶりにプラスに転じたとしている。実質賃金は賃金から物価の変動を差し引いたもの。
記事の情報源は厚生労働省が2日発表した4月の毎月勤労統計(速報)で、グラフでは2013年からずっとマイナスだった実質賃金指数が今年3月から急な角度で上昇してプラスに転じている。1か月間の急激な変化である。それまでの毎月賃金指数はマイナス2%〜3%の間だった。
朝日新聞は実質賃金指数がプラスに転じた理由を「昨年春の消費増税から1年がたち、物価を押し上げる影響が薄れたことが大きい」として、こうも書いている。
「実質賃金指数を計算する際に使う物価は昨年4月以降、2〜4%台の高い伸びが続いていたが、今年4月は0.8%増となっていた。」
賃金が上がっても物価が同様に上がれば上昇分は打ち消されるが、4月に関しては物価上昇率が減ったことで実質賃金が相対的に上がったということになる。
一方、内閣府は今年1月から3月までの四半期の労働者の実質報酬は2014年の同時期に比べて、マイナス0.5%だったと発表したばかりである。内閣府のデータは1月〜3月までのもので、厚生労働省のデータは4月のものである。朝日新聞は厚生労働省のデータを大きく伝えたが、内閣府の実質報酬のデータ(二次速報)は報じなかった。
厚労省のデータをもとに朝日新聞は一般労働者の実質賃金が前年同月比で0.8%増としている。もし、今年4月の物価上昇が0.8%増でなく、2.0%増であればそれだけで実質賃金指数はマイナスだったはずである。しかし、近年安値だった原油価格が上昇に転じれば物価が上昇に転じる可能性もある。昨年秋口から、それまで1バレル=100ドルくらいだった原油価格が今年3月にかけて、1バレル=50ドルを割るまで下落した。しかし、4月以降、上昇傾向に転じている。6月現在で、1バレル=約60ドルだ。
原油価格が上昇すると、石油や灯油だけでなく食品を含めて、それを原料とする様々な製品に波及することは間違いない。1バレル=50ドルくらいの安値で買った原油の備蓄がなくなったら、悪しき物価上昇が再開する兆しがあるのだ。
■日経 米石油業者は1バレル=70ドルがライン
「先週の一連の決算報告で、昨夏から掘削活動を大幅に削減してきた米国のシェールオイル産業の主要企業の一部が掘削活動の再開に言及し始めた。ノースダコタのバッケン地区で掘削する有力企業、コンチネンタルリソースのハム最高経営責任者(CEO)は、「我々にとっては70ドルがその目安になる」と述べた。」
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO86608870R10C15A5000000/
潤沢なアメリカのシェールオイルのおかげで、原油価格の値が1バレル=70ドルまで上昇すれば掘削を再開して増産に踏み切るとしている。かつてのように1バレル=100ドルの時代はもう来ないかもしれない。しかし、70ドルまでは上昇する可能性がある。
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