2015年06月26日04時15分掲載  無料記事
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経済

厚労省が修正 実質賃金は4月も増えていなかった 6月初旬の大々的報道は何だったのか? 実際は24か月連続マイナスだった…

  6月初旬、大手新聞は厚生労働省の毎月勤労統計調査の発表を受けて、4月に物価の変動を差し引いた実質賃金が初めて+に転じた、と大々的に報じた。プラス幅は昨年同月比でわずか0.1%だったが、それまで連続マイナスだったために、いよいよアベノミクスの成果が出始めたというリードの記事だった。ところが、ここに来て、厚労省が統計結果を修正したことがわかり、4月の実質賃金もマイナスで、結局実質賃金は24か月連続でマイナスだったことが明らかになった。この2年間、物価上昇を計算に入れたら労働者の給料は下がっていたのだ。 
 
  6月、実質賃金プラス報道でマスメディアが大きくわいていた頃、そのほぼ同時期に内閣府は昨年1月〜3月と今年1月〜3月の勤労者の実質の報酬を比較して、マイナス0.5%と発表していた。少なくとも内閣府は3月末までは実質賃金は前年同期比でマイナスだったと発表していたのである。 
 
  厚生労働省によると、1月から3月までマイナスだった実質賃金が4月になって急激なカーブを描いて上昇していたのだが、この急上昇の理由を朝日新聞は4月は物価上昇幅が少なかったと報じていた。それまでと同様の物価上昇トレンドであれば実質賃金がプラスだったとは思えない、という含みがそこには込められていた気がする。 
 
  実際、日本経済がそれだけ急激に構造変化したとは思い難い。アベノミクスの最大の課題である「第三の矢」が不発だからだ。しかし、このところ、最大の懸案事項である安保法制で与野党が攻防している最中、実質賃金プラス報道は安倍政権にとって大きな追い風になるはずだった。経済の活況が安倍政権を浮上させた理由だったからだ。そして、マスメディアはこの重要な時期に、好景気と就職率の好転を大きな見出しとともに報じた。 
 
  もちろん、日本経済が本当によくなっているのであれば素晴らしいことだ。それをメディアが讃えるのは当然である。しかし、庶民の感覚からすれば物価は上がる一途で、消費税の影響が1年経って無くなったなどとはとんでもないことなのである。 
 
  今回、4月の実質賃金のデータが修正されたいきさつについて日経新聞は次のように報じている。速報値と確報値とあるということのようだ。 
 
  「確報値では正社員に比べ収入が少ないパート労働者の比率が高まる傾向にあり、速報値から下方修正した。ただ、減少率は3月(2.7%減)から大きく縮小した。」(日経新聞) 
 
  その実感を示すように、6月初旬の速報値から実質賃金が下方修正された理由は正社員ではないパート労働者の賃金が確報値に反映されたということなのである。パート労働者の賃金実態が反映された結果、実質賃金はマイナスだったことが判明したのだ。日経新聞は減少率が3月から大きく減ったと報じているものの、実質賃金が24か月連続でマイナスだった事実は大きい。しかも、4月の実質賃金の減少率が少なかった背景には4月の物価上昇率がそれまでよりなぜか低かったことにあるようなのだが、円安の進行と原油価格の反転上昇によってこれから食品や日用品が次々と値上がりしていくと報道されている。 
 
  思い返すと、マスメディアは今月は主要百社にアンケートして「景気は上がっている」という声を大きな紙面を割いて報じていたが、好調なのは円安でメリットを受ける外国に輸出している企業や一部上場企業が大半だろう。その声もまた、庶民の実感と異なるもので、日本の多くのパート労働者たちはこれらの企業の景気がよくなったからと言って、その収益がしずくのように津々浦々までしたたり落ちて自分もまた豊かになるとは思っていないのではあるまいか。 


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