2015年06月28日01時41分掲載  無料記事
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文化

作家のジャン=フィリップ・トゥーサン氏が生まれ故郷ブリュッセルの美術館で初個展 写真シリーズ「読書を愛する」と新作小説「風景の消失」

  ジャン=フィリップ・ トゥーサン(Jean-Philippe Toussaint )氏と言えば世界的なベストセラーになった小説「浴室」(1985)が一番先に思い出され、それはまったく新しい読書体験でした。トゥーサン氏はその後も「カメラ」(1989)、「愛しあう」(2002)、「マリーについての本当の話」(2009)、「はだかのひと」(2013)など、継続して非常に個性的な小説を書き続けてきました。 
 
  この夏、トゥーサン氏は初めてベルギーで展覧会に参加し、写真や新作小説などを披露します。もともとトゥーサン氏はベルギーのブリュッセルで生まれたものの、13歳の時にパリに移り住んで、パリの大学で学びました。出版活動もパリがベースに。そんなトゥーサン氏にとって、今回のベルギーにおける展示は自らの故郷に帰ってきたような非常に大切な機会のようです。 
 
  展示される写真はシリーズになっていて、毎年コルシカ島の岬で彼の家族を自ら写したもの。家族が手にしているのは本。トゥーサン氏の本もあれば、ルソーやパスカル、あるいはダンテの本もあります。軽さを基軸にするトゥーサン氏は通常はべったりと停まって読むものである「読書」に、軽さを付加させるため本を手にして飛び上がる写真もたくさん写しています。読書が肉体的には静止した経験であっても、内面的には軽さを伴う旅であることからのようです。そして、1年ごとに同じ島の同じ場所であってもかすかに風景も肉体も内面も変化していく・・・そんな風景の変化もその味わいです。 
 
  「読書を愛する」(Aimer lire).と題されたこのシリーズは2005年に始まり、次第に写真が撮りためられていった結果、2012年にはルーブル美術館で展示されました。7年に渡るこのシリーズの写真約70点が今回、ベルギーで初めてブリュッセルの美術館、Musee d’Ixelles で披露されます。期間は6月25日から9月20日まで。「ベルギーの風景」(PAYSAGES de Belgique)と名付けられたこの展覧会は現代から1830年の絵画まで、ベルギーの風景を6つの視点から展示する美術展です。参加アートストも70人を越えます。トゥーサン氏は「読書を愛する」という写真のシリーズと、「風景の消失」(La disparition du paysage)と題する、この展示の為に特別に書き下ろされた新作小説を披露しています。 
 
  この小説はベルギー北部のバルト海に面したオーステンデに事故の後に療養にやってきた男が主人公です。男は車椅子に座っていて、付添人がいないと寝ることもできない状態の毎日が進んでいきますが、窓の外に広がるのは海。怪我をして動けないが故に、刻々と変化する雲や光、海の色や動物たちを見る貴重な機会となります。普段私たちが見過ごしてしまう1日の変化を彼は見つめながら、失ってしまった記憶のことを考えます。paysageというフランス語の単語には風景という意味と同時に、状況とか、事情という意味もあり、主人公の記憶がなくなったことと連動するのはこちらかもしれません。ちなみに作家のトゥーサン氏がベルギーを舞台にした小説を書いたのはこれが初めてだそうです。 
 
 
■ Musee d’Ixelles ' PAYSAGES de Belgique ' 
http://www.museedixelles.irisnet.be/expositions/expositions-en-cours-1/paysages-de-belgique 


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