2015年07月13日13時51分掲載  無料記事
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社会

新国立競技場のキールアーチ 谷克彦(数学月間の会・世話人)

キール(竜骨)とは,船の船首から船底を通って船尾に至る鉄骨の背骨のことです.新国立競技場の設計(ザハ案)には,巨大なキールアーチが2本使われています.1本500億円かかると言われています.http://togetter.com/li/841805 
この構造の問題点は,以下で評論されています. 
http://ameblo.jp/mori-arch-econo/entry-11873045351.html 
アーチの形は,当ブログ で述べたことがあります.http://blogs.yahoo.co.jp/tanidr/16586546.html 
アーチの曲線は,上下ひっくり返すと懸垂曲線と同じ形です.中心から曲線に沿って測った距離をs,その点の曲線の接線の傾きをθとすると,tanθ/s=一定 の関係があることを説明しました. 
 
アーチの形は,曲線内部の全ての位置で圧縮応力でつりあっていて,大きな荷重を支えることができるのが特徴です(しかし,曲率の大きい平べったいアーチになるとポッキリ折れそうな気がしませんか).そして,アーチは最終的に,両側の接地点にすべての荷重がかかります.370mのキールアーチ1本の重量は3万トンと言われていますので,両端の各接地点はW=1.5万トンの重量に耐えねばなりません. 
 
  アーチの頂上の高さをどれくらいに抑えるかによりますが,ザハ案のデザインのように低く抑えたい(大きな曲率にしたいなら)接地点の傾きθ0が小さくなりますから,接地点での水平分力W・sinθ0は大きくなります(θ0=30°なら,1.3万トン).アーチ橋の所で述べたように,アーチ橋の根元には大きな水平抗力が必要で,両側が山に挟まれた峡谷などは,アーチ橋に適した立地条件です.新国立競技場の場合は平地なので,アーチの根元の外側からガッチリ固定したいのですが,地下に地下鉄大江戸線があるのでできそうにありません. 
 
そこでアーチ端の内側同志を鋼材で引っ張る(アーチを弓とすると弦のように引っ張ります)ことにする.この鋼材は両側から引っ張られますから,2.6万トン重ほどの大きな張力になります.軟な鋼材では耐えられませんね. 
 
ちなみに,コンクリートは圧縮には強いが引っ張りには弱い.鉄筋コンクリートの鉄筋はコンクリートの引っ張り強度をカバーするために入れるのです. いろいろ補助手段の工夫はあるでしょうが,筋の良い合理的な設計ではありません. 
 
谷克彦 (数学月間の会・世話人) 


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