2015年07月22日17時37分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201507221737023
欧州
二大政党制の元祖英国の選挙 保守党331議席(36.9%) 労働党232議席(30.4%) スコットランド民族党56議席(4.7%) 労働党の敗因分析がどう報じられているか
英国で5月7日に行われた総選挙の結果は英政界に2つの波紋を投じた。1つはエド・ミリバンド党首に率いられた労働党が保守党に完敗したことであり、もう1つはスコットランド民族党がスコットランド地域の59議席のうち56議席を取り、第三の政党として台頭したことである。ここから、英国の二大政党制に揺らぎが出たのではないか、という見方もある。つまり、労働党が凋落する可能性も指摘されており、労働党自身の中からも今回の選挙結果を冷静に分析して敗因を乗り越えなければ党勢の建て直しは厳しいという見方が出ているのだ。
もう一度、総選挙の結果を見てみましょう。総数は650議席。
上位の3つの政党は以下。( )は得票率。
保守党331議席(36.9%)
労働党232議席(30.4%)
スコットランド民族党56議席(4.7%)
労働党と並んで大敗したのが保守党と連立を組んでいた自由民主党で49議席を減らしてわずか8議席となってしまった。さすがに小選挙区制だけあって、保守党と労働党の得票率の差はわずか6.5%に過ぎないのに獲得議席数は99議席も違っている。一方、スコットランド民族党の得票率は全国で見るとわずか4.7%なのにスコットランド地域で圧倒的に支持を集めたために56議席を奪い、前回の選挙から50議席を増やした。
労働党は今回なぜ大敗を喫してしまったのか。新聞でいろんな分析が出ているが、中でも労働党の選挙対策リーダーや、過去の重鎮たちの分析が興味深い。共通するのは党首のエド・ミリバンドの位置がブレアよりも大きく左に寄っていたことである。前回の総選挙は2010年だったが、その後、2011年9月に始まった「ウォール街を占拠せよ!」のデモに象徴されるように、世界各地で格差社会化が認識されるようになった。ミリバンドはこの格差社会の是正を掲げて、富裕層VS庶民という対立構造を意識化し、階級闘争の色合いを強めていったという。この見方はブレア内閣の選挙対策リーダーで参謀といわれたピーター・マンデルソン氏が言っていることである。ミリバンドが掲げたのは次のような政策だった。
・エネルギー価格や鉄道交通費に上限を設ける
・家賃の上昇を規制する
・家庭が負担する授業料の削減
・最低賃金を上回る「生活賃金」=(1時間あたり7.45
ポンド以上)を提案。これは労働者が生活に必要な金額を
労賃に取り入れたもの。
これらを見ると、庶民からすれば素晴らしいことばかりである。しかし、こうした政策を掲げたミリバンドの労働党が新自由主義的な保守党に大敗した理由は〜小選挙区制の傾斜配点はともかく〜マンデルソン氏によると、実際にどう財政をやりくりしたら実現できるのか、説得力とリアリティに欠けていたらしい。ミリバンドが庶民の生活とは無縁のエリート育ちであることも、彼の演説から迫力を奪う結果になったのかもしれない。
他の労働党の選挙参謀だった人たちも、2010年に労働党に投票したが今回保守党に鞍替えした市民を集めて声を聞いたうえで、同様の分析をしているようだ。格差の広がりは多くの人にとって脅威になっているのだが、ミリバンドがその是正を実現できる首相にふさわしくない、という感想が強かったという。政策の実現力が疑問視されたのだろう。
英国人たちは格差社会をよくないと思っている。しかし、単純に富裕層は敵だ、資本家は敵だ、というメッセージに英国の庶民は動かされなかったと彼ら選挙参謀たちは結論している。むしろ、富裕層の人々も同意可能な政策目標あるいは国家目標を掲げる必要があり、庶民層と富裕層の双方のタフだけれどもより堅実な歩み寄りを目指す必要があるという見方である。
一方、こうした声とは別に、スコットランドではスコットランド民族党がオール沖縄にも似た圧倒的な結束力で躍進した。もともとは労働党の票田だったが、カリスマ性のある女性党首ニコラ・スタージョンに率いられたこのスコットランド民族党が台頭した結果、この地の労働党議員は41議席からわずか1議席になってしまった。スコットランドにおける二大政党のほとんど消滅と言える事態も過去の英政界にはなかった新現象だ。スコットランド民族党がもし地域性を越えた政党となった場合に、二大政党制に揺らぎが広がる可能性がある。このスコットランド民族党がどのような経済プランを掲げるのか、今後注目されるところだ。
■生活賃金について語るミリバンド党首
http://www.bbc.com/news/uk-politics-20202005
■5月7日の総選挙の結果(BBC)
http://www.bbc.com/news/election/2015/results
■エド・ミリバンド党首の辞任会見 総選挙のあと
https://www.youtube.com/watch?v=kXu1qoVUT6M
■ピーター・マンデルソン氏のNYTへの寄稿
「なぜ労働党は敗北したか」
http://www.nytimes.com/2015/05/20/opinion/peter-mandelson-why-labour-lost-the-election.html?_r=0
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。