2015年07月26日18時39分掲載
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政治
参院論戦1 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」 それは自衛隊法の改正である
いよいよ来週から参議院で安保関法案の審議が始まります。この法案の正式名称は次のとおり。
「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」
文言の通り、新しい法案を作るわけではなく、既存の自衛隊法を集団的自衛権のもとに、再構成しようとするものです。その法案は次の参議院のウェブサイトに全文が書かれています。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/189/pdf/t031890721890.pdf
改正案ですから、もともとの自衛隊法が理解されていないとわかりにくい、というのが第一印象です。しかも、改正案はページにして38ページもあります。
改正されようとしているもともとの自衛隊法のリンクがこちらです。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S29/S29HO165.html#1000000000001000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
第一章から第九章まであります。構成は次のようになっています。
<自衛隊法>
第一章 総則(第一条―第六条)
第二章 指揮監督(第七条―第九条の二)
第三章 部隊
第一節 陸上自衛隊の部隊の組織及び編成(第十条―第十四条)
第二節 海上自衛隊の部隊の組織及び編成(第十五条―第十九条)
第三節 航空自衛隊の部隊の組織及び編成(第二十条―第二十一条)
第四節 共同の部隊(第二十一条の二)
第五節 部隊編成の特例及び委任規定(第二十二条・第二十三条)
第四章 機関(第二十四条―第三十条)
第五章 隊員
第一節 通則(第三十条の二―第三十四条)
第二節 任免(第三十五条―第四十一条)
第三節 分限、懲戒及び保障(第四十二条―第五十一条)
第四節 服務(第五十二条―第六十五条)
第五節 予備自衛官等
第一款 予備自衛官(第六十六条―第七十五条)
第二款 即応予備自衛官(第七十五条の二―第七十五条の八)
第三款 予備自衛官補(第七十五条の九―第七十五条の十三)
第六章 自衛隊の行動(第七十六条―第八十六条)
第七章 自衛隊の権限(第八十七条―第九十六条)
第八章 雑則(第九十七条―第百十七条の二)
第九章 罰則(第百十八条―第百二十五条)
附則
自衛隊法と「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」をつき合わせて読んでいく必要があります。違憲だから読むまでもない、という方もいるかもしれませんが、これで参院であれ、衆院での再可決であれ、通ってしまえばそれについてどう考えていようと、法律になって無縁どころではなくなります。
たとえば改正案には「・・・・」を「●●●●」に改める、という表現が多くあります。どんな文言が加わったのか、あるいは削られたのか、その違いを見ていけば改正のねらいが見えてきます。
次の箇所は自衛隊が防衛出動する場合の条件です。集団的自衛権になるわけですから、外国に出動する事態が盛り込まれます。
<第七十六条第一項中「我が国に対する外部からの武力攻撃(以下「武力攻撃」という。)が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた」を「次に掲げる」に、「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」を「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」に改め、同項に次の各号を加える。
一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態
二 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態>
これはわが国が直接攻撃を受けた場合以外に「存立危機事態」というケースを加えたものです。「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」という抽象的な文言。それが具体的にどんな状況なのか、その判断の基準は何なのか。これは衆議院でも議論の対象となったところです。
もともとは自衛隊法の第六章「自衛隊の行動」(防衛出動)の以下の箇所です。
<第七十六条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃(以下「武力攻撃」という。)が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律 (平成十五年法律第七十九号)第九条 の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。>
この自衛隊法に集団的自衛権を盛り込むために、前半をばっさり捨てて、改めて2つのケースを後に箇条書しています。繰り返しになりますが、その2つのケースがこれです。
<一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態
二 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態 >
自衛隊が防衛出動するのは上の場合である、というわけです。つまり、2つめの項目がまるまる加えられたことになります。当然ながら、参院でもここが1つの焦点となるでしょう。
また、次のような修正もあります。自衛隊法84条の3。
< (在外邦人等の保護措置)
第八十四条の三 防衛大臣は、外務大臣から外国における緊急事態に際して生命又は身体に危害が加えられるおそれがある邦人の警護、救出その他の当該邦人の生命又は身体の保護のための措置(輸送を含む。以下「保護措置」という。)を行うことの依頼があつた場合において、外務大臣と協議し、次の各号のいずれにも該当すると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、部隊等に当該保護措置を行わせることができる。
一 当該外国の領域の当該保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たつており、かつ、戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。第九十五条の二第一項において同じ。)が行われることがないと認められること。
二 自衛隊が当該保護措置(武器の使用を含む。)を行うことについて、当該外国(国際連合の総会又は安全保障理事会の決議に従つて当該外国において施政を行う機関がある場合にあつては、当該機関)の同意があること。
三 予想される危険に対応して当該保護措置をできる限り円滑かつ安全に行うための部隊等と第一号に規定する当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保されると見込まれること。
2 内閣総理大臣は、前項の規定による外務大臣と防衛大臣の協議の結果を踏まえて、同項各号のいずれにも該当すると認める場合に限り、同項の承認をするものとする。
3 防衛大臣は、第一項の規定により保護措置を行わせる場合において、外務大臣から同項の緊急事態に際して生命又は身体に危害が加えられるおそれがある外国人として保護することを依頼された者その他の当該保護措置と併せて保護を行うことが適当と認められる者(第九十四条の五第一項において「その他の保護対象者」という。)の生命又は身体の保護のための措置を部隊等に行わせることができる。>
これはもともとの自衛隊法と何が違っているかといえば武器使用を認めた在外邦人の保護救援活動を条文に盛り込んでいることです。もともとの自衛隊法の84条の3は次のようになっています。
<第八十四条の三 防衛大臣は、外務大臣から外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して生命又は身体の保護を要する邦人の輸送の依頼があつた場合において、当該輸送において予想される危険及びこれを避けるための方策について外務大臣と協議し、当該輸送を安全に実施することができると認めるときは、当該邦人の輸送を行うことができる。この場合において、防衛大臣は、外務大臣から当該緊急事態に際して生命若しくは身体の保護を要する外国人として同乗させることを依頼された者、当該外国との連絡調整その他の当該輸送の実施に伴い必要となる措置をとらせるため当該輸送の職務に従事する自衛官に同行させる必要があると認められる者又は当該邦人若しくは当該外国人の家族その他の関係者で当該邦人若しくは当該外国人に早期に面会させ、若しくは同行させることが適当であると認められる者を同乗させることができる。>
そもそももとの自衛隊法では「(在外邦人等の輸送)」という見出しになっていますが、改正案では「(在外邦人等の保護措置)」と変わっています。もともとは「輸送」に関する条文でしたが、改正案では保護措置、ということで武器使用を含めた行動が想定されています。しかしながら、一方で改正案には「当該外国の領域の当該保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たつており、かつ、戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。第九十五条の二第一項において同じ。)が行われることがないと認められること」と書かれており、戦闘行為がない場所でありながら、武器の使用を盛り込むという矛盾が見られます。
改正案の条文をよく読んでみると、ここで言っている「戦闘行為」は「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう」とあります。在外邦人救出のためにたとえば邦人が監禁されている施設を警備している武装勢力あるいは警備兵を殺傷することは武力紛争とは言えない、という論理構成かもしれません。それは救援活動上の戦闘であっても、国際武力紛争という文脈とは無縁である、ということでしょう。しかし、論理構成がなんであれ、結果的にその救出行為のために外国で自衛隊が武器を使用することによって、当該武装勢力側から日本に対して宣戦布告が行われる可能性はあります。
参議院ではほかにも様々なことが話し合われています。参議院のウェブサイトを見ると、全議案のリストが出ています。
■参議院で今国会(第189回)で話し合われている事柄(議案)のリスト
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/189/gian.htm
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