2015年07月30日13時09分掲載  無料記事
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政治

参院論戦5 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 自衛隊PKOの変化 〜南スーダンで自衛隊の戦闘開始の可能性

  戦後70周年の今、参院で論戦が始まっている安保関連法案 = 正式名称「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」。テレビや新聞の報道だけでなく、自分で条文を読んでみませんか。 
 
  一連の改正案の中には自衛隊法だけでなく、関連するさまざまな特別法の改正も盛り込まれています。改正案の文章で「・・・・」を「●●●●」に「改める」とあるところを丹念に改正前の法律の条文と、改正案を対比して読んでいくと、その狙いが理解できます。さて今回の改正案にはこんなくだりがあります。 
 
 <(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律の一部改正) 
第二条 国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(平成四年法律第七十九号)の一部を次のように改正する。> 
 
  「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」を改正する、と述べています。いわゆるPKO法がこれです。日本の自衛隊もPKO(国連平和維持活動)にすでに参加していますが、たとえば南スーダンです。防衛省の以下のリンクでその活動が紹介されています。 
http://www.mod.go.jp/j/approach/kokusai_heiwa/s_sudan_pko/ 
 「南部スーダン独立前は、スーダン政府(イスラム教・アラブ系)とスーダン人民解放運動・軍(キリスト教・アフリカ系)の対立が長年にわたり継続しており、犠牲者の数は約200万人とも言われている。2005年1月、両者はCPA(南北包括和平合意)に署名し、紛争は終結した。同年3月、CPA履行支援等を任務とする国連スーダン・ミッション(UNMIS)が設立され、我が国は2008年10月以降、UNMIS司令部要員として自衛官2名を派遣していた。2011年1月、UNMISの支援も受けて、南部スーダン住民投票を実施した結果、有効投票総数の約99%が南部スーダンのスーダンからの分離を支持。同年2月、スーダン政府はこの結果を受け入れた。 
 
  2011年7月9日の南スーダン独立に伴い、UNMISがその任務を終了する一方、平和と安全の定着および南スーダンの発展のための環境構築支援等を目的として、国際連合南スーダン共和国ミッション(UNMISS)が設立された。我が国は、国連事務総長からの協力要請に基づき、同年11月に司令部要員を派遣し、また2012年1月より施設部隊等を順次派遣した。派遣部隊は、自衛隊の得意分野を活かしたインフラ整備などにより、南スーダンの自立的発展に寄与することが期待されており、国連施設の整備や道路補修、国際機関の敷地整備等の施設活動を実施する中で、ODAやNGO等とも連携している。」(防衛省) 
 
  イスラム教のスーダン政府とキリスト教のスーダン人民解放運動・軍との間で武力紛争が起き、大量の人々が殺された事態です。スーダン難民が戦乱から逃れて欧州へ密航しようとする事件はしばしば報じられています。地中海での海難事故で死者も多数出ています。紛争後のちにスーダンは南部が独立して、両者が停戦に踏切りました。自衛隊はその平和維持活動に派遣されたものです。 
 
  これ以外にも自衛隊はさまざまなPKOに参加してきました。「過去日本が参加した国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)や国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET)のほか、本年2月から参加している国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)は、軍事部門に加え、文民警察、行政、選挙、復旧、人権及び難民帰還に関する任務を与えられている。」(外務省「国連PKOの現状」より) 
 
  国連平和維持活動(PKO)という枠組みで自衛隊が海外でどういう法律のもとに置かれるのかを定めたのが「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」で平成4年(1992年)に制定され、最終的に改正されたのは7年前の2008年です。その目的は第一条に記されています。 
 
 <(目的) 
第一条 
 この法律は、国際連合平和維持活動、人道的な国際救援活動及び国際的な選挙監視活動に対し適切かつ迅速な協力を行うため、国際平和協力業務実施計画及び国際平和協力業務実施要領の策定手続、国際平和協力隊の設置等について定めることにより、国際平和協力業務の実施体制を整備するとともに、これらの活動に対する物資協力のための措置等を講じ、もって我が国が国際連合を中心とした国際平和のための努力に積極的に寄与することを目的とする。> 
 
  さて、この法律をどう改正しようとしているのでしょうか。以下は改正案の一部のくだりです。 
 
<第三条第一号中「確保」の下に「、紛争による混乱に伴う切迫した暴力の脅威からの住民の保護」を、「設立」の下に「及び再建」を加え、「ために」を「ことを目的として、」に改め、「、武力紛争の停止及びこれを維持するとの紛争当事者間の合意があり、かつ、当該活動が行われる地域の属する国及び紛争当事者の当該活動が行われることについての同意がある場合(武力紛争が発生していない場合においては、当該活動が行われる地域の属する国の当該同意がある場合)に」を削り、「、いずれの紛争当事者にも偏ることなく実施される」を「実施されるもののうち、次に掲げる」に改め、同号に次のように加える。 
 
イ 武力紛争の停止及びこれを維持するとの紛争当事者間の合意があり、かつ、当該活動が行われる地域の属する国(当該国において国際連合の総会又は安全保障理事会が行う決議に従って施政を行う機関がある場合にあっては、当該機関。以下同じ。)及び紛争当事者の当該活動が行われることについての同意がある場合に、いずれの紛争当事者にも偏ることなく実施される活動 
 
ロ 武力紛争が終了して紛争当事者が当該活動が行われる地域に存在しなくなった場合において、当該活動が行われる地域の属する国の当該活動が行われることについての同意がある場合に実施される活動 
 
ハ 武力紛争がいまだ発生していない場合において、当該活動が行われる地域の属する国の当該活動が行われることについての同意がある場合に、武力紛争の発生を未然に防止することを主要な目的として、特定の立場に偏ることなく実施される活動> 
 
  これをもとの条文とつき合わせて読まないと何のことかさっぱりわかりません。対応するもとの条文の第三条1は以下ようなものです。国際連合平和維持活動の定義です。 
 
<一 国際連合平和維持活動   国際連合の総会又は安全保障理事会が行う決議に基づき、武力紛争の当事者(以下「紛争当事者」という。)間の武力紛争の再発の防止に関する合意の遵守の確保、武力紛争の終了後に行われる民主的な手段による統治組織の設立の援助その他紛争に対処して国際の平和及び安全を維持するために国際連合の統括の下に行われる活動であって、武力紛争の停止及びこれを維持するとの紛争当事者間の合意があり、かつ、当該活動が行われる地域の属する国及び紛争当事者の当該活動が行われることについての同意がある場合(武力紛争が発生していない場合においては、当該活動が行われる地域の属する国の当該同意がある場合)に、国際連合事務総長(以下「事務総長」という。)の要請に基づき参加する二以上の国及び国際連合によって、いずれの紛争当事者にも偏ることなく実施されるものをいう。> 
 
  ですから、これをベースにして、改正案の「・・・」を「●●●」に改める、という作業を自分でやらなくては改正案の文章全体がわからない、ということになっています。国会議員には高い税金が支出されているのですから、切り張りした後、こうなりますよ、というテキストもあとでつけてくれたらと思うのは筆者だけでしょうか。さて、切り貼りしてみましょう。 
 
 <一 国際連合平和維持活動  国際連合の総会又は安全保障理事会が行う決議に基づき、武力紛争の当事者(以下「紛争当事者」という。)間の武力紛争の再発の防止に関する合意の遵守の確保、紛争による混乱に伴う切迫した暴力の脅威からの住民の保護、武力紛争の終了後に行われる民主的な手段による統治組織の設立及び再建の援助その他紛争に対処して国際の平和及び安全を維持することを目的として、国際連合の統括の下に行われる活動であって、国際連合事務総長(以下「事務総長」という。)の要請に基づき参加する二以上の国及び国際連合によって実施されるもののうち、次に掲げるものをいう。 
 
イ 武力紛争の停止及びこれを維持するとの紛争当事者間の合意があり、かつ、当該活動が行われる地域の属する国(当該国において国際連合の総会又は安全保障理事会が行う決議に従って施政を行う機関がある場合にあっては、当該機関。以下同じ。)及び紛争当事者の当該活動が行われることについての同意がある場合に、いずれの紛争当事者にも偏ることなく実施される活動 
 
ロ 武力紛争が終了して紛争当事者が当該活動が行われる地域に存在しなくなった場合において、当該活動が行われる地域の属する国の当該活動が行われることについての同意がある場合に実施される活動 
 
ハ 武力紛争がいまだ発生していない場合において、当該活動が行われる地域の属する国の当該活動が行われることについての同意がある場合に、武力紛争の発生を未然に防止することを主要な目的として、特定の立場に偏ることなく実施される活動> 
 
  これが改正案を切り貼りしてできた新しい条文です。何が変えられようとしているか、というと、従来の平和維持活動の上にたとえば「紛争による混乱に伴う切迫した暴力の脅威からの住民の保護」というように、武力紛争の危機が迫る事態の中で自衛隊が乗り出していって住民の保護活動を行うことになります。切迫した暴力の脅威からの住民の保護、というのはこれまでの事件で振り返ると、たとえばイスラム国軍がヤジディ教徒の村に進撃してくる、というような事態でしょう。こうしたケースでも自衛隊は現地に出かけて、住民を保護する活動が可能となります。 
 
  また改正後は「武力紛争の終了後に行われる民主的な手段による統治組織の設立及び再建の援助」となっており、統治組織の設立までではなく、「再建」という文字が新たに盛り込まれています。イラク戦争やアフガン戦争の場合、米軍占領後に統治機構がすぐに設立されましたが、「再建」は未だにできていません。ですから、再建という文字が盛り込まれたことは自衛隊の長期間の進駐を想定しているわけです。10年、20年の関与もありえるでしょう。紛争で壊れた国の再建は1年や2年でできるような簡単なものではありません。 
 
  さらに改正案を読んでいくと、これまでなら、紛争当事者同士の停戦合意があり、両者から国連平和維持活動に対する合意があることが前提でしたが、今後はそれだけではなく、以下のような場合にも国連平和維持活動に含めるとしています。つまり、双方の合意を両方取り付けなくても自衛隊を派遣できる、としているのです。 
 
<ロ 武力紛争が終了して紛争当事者が当該活動が行われる地域に存在しなくなった場合において、当該活動が行われる地域の属する国の当該活動が行われることについての同意がある場合に実施される活動 
 
ハ 武力紛争がいまだ発生していない場合において、当該活動が行われる地域の属する国の当該活動が行われることについての同意がある場合に、武力紛争の発生を未然に防止することを主要な目的として、特定の立場に偏ることなく実施される活動> 
 
  紛争当事者の片方が一度撤退した場所であれば紛争のもうひとつの当事者(地域の属する国)の同意があるだけで自衛隊を派遣できることになります。撃退された紛争当事者の同意は不要だということを意味します。 
 
  さらに、まだ紛争が発生していない時点でも、将来紛争が起こりうる可能性がある場合はその国が同意していれば自衛隊を派遣できることになります。 
 
  これらは今、生々しい事態が起きている中東でたとえて見ると、イスラム国が一度イラク軍の進撃で撤退した場合はそこに自衛隊を派遣して平和維持活動に参画させることができるようになります。また、イスラム国がある都市を制圧する、と宣言して進撃を始めた場合でも、まだ戦闘が発生していない時点であれば自衛隊をその都市の「平和維持活動」に派遣することができるようになります。 
 
 なんだかものすごい事態です。本当に政府はこんなことを考えているのでしょうか。でも、少なくとも改正案を読んで見る限り、そうとしか読めないのです。読まれた方はおわかりの通り、自衛隊は戦闘の前か後であればその紛争地域に派遣できることになります。もとの「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」には自衛官の武器使用について認める条文があります。その場合、敵勢力が死傷した場合は自衛隊員には刑法36条と37条の正当防衛と緊急避難が適用されます。敵が攻めてきたのでやむを得ず反撃した場合などは武器使用も認められることになります。 
 
<(武器の使用) 
第二十四条 
 前条第一項の規定により小型武器の貸与を受け、派遣先国において国際平和協力業務に従事する隊員は、自己又は自己と共に現場に所在する他の隊員若しくはその職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者の生命又は身体を防衛するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、当該小型武器を使用することができる。> 
 
  この小型武器とは何かといえば「第二十二条」に「本部は、隊員の安全保持のために必要な政令で定める種類の小型武器を保有することができる。」と書かれてあります。「必要な政令」でその都度、「小型武器」の基準を定めるということになっています。 
 
  今書いてきたものは同法に関する改正案の一部ですが、今見てきただけでも、過去のPKOから飛躍的に危険度が高い任務を可能にする法案に書き換えられています。現状のPKO法では紛争当事者の双方の合意が前提でしたが、改正されると、片方の当事者の合意だけで自衛隊を派遣できることになります。つまり、片方の当事者は自衛隊の派遣に何ら合意していなくても、自衛隊はその現場に行くことが容認されるようになります。この法律では現地の実情が変わった場合は派遣計画を変更することができるようにも書かれていますが、紛争地域というものは千変万化で時に異常なスピードで事態が急変することは多々あります。そんな場合に、自衛隊が戦闘に巻き込まれたとして閣議を開いて討論しても、その間に自衛官の死者が積み重なったり、人質に取られたりする可能性はあります。 
 
  毎日新聞の7月29日付によると「政府は、自衛隊が南スーダンで実施している国連平和維持活動(PKO)の任務に、「駆けつけ警護」を追加する検討に入った。同PKO司令部への要員派遣も拡大する考えだ」と書かれています。この駆けつけ警護とは「離れた場所にいる他国軍部隊や非政府組織(NGO)職員などの要請に応じて行う救援活動」とされ、「実際の活動では、現地のNGOの要請を受け、武装勢力に拘束された職員を救出するケースなどが考えられる」と書かれています。今のこの法律「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(PKO法)では禁じられている行動ですが、安保関連法案が改正されれば可能となります。南スーダンにすでに駐留している自衛隊が戦後初の戦闘に入る可能性があります。 
 
  そもそも「安保関連法案」は自衛隊法だけでなく関連する様々な特別法の改正を一気にまとめてやってしまおうというものです。それらが憲法第九条との関係で違憲である、というのが95%以上の憲法学者の判断であることはすでに報道済みです。このPKO法下での自衛隊の活動とは別に、今回の一連の改正によって集団的自衛権の行使として「重要影響事態」とか、「存立危機事態」などの言葉で自衛隊が海外で戦闘に参加できるようになっていることはこれまでの連載で記した通りです。 
 
※防衛省のウェブサイトによると、現在南スーダンには自衛官約350人が駐留。現在の武器は装甲機動車、9ミリ拳銃、89式小銃、5.56ミリ機関銃MINIMIなど。毎日新聞の報道では政府が増派を検討中。 
 
 
■「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」 
 参院で議論されている安保関連法案は次の参議院のウェブサイトに全文が書かれています。 
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/189/pdf/t031890721890.pdf 
 
■総務省行政管理局の日本の法令データベース 
 これに知りたい法律名を入力すると、条文がすべて読めます。 
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi 
 
■参院論戦1 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」 それは自衛隊法の改正である 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507261839570 
 
 
■参院論戦2 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 〜在外邦人の「保護措置」について〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507271607251 
 
 
■参院論戦3 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 〜周辺事態と重要影響事態〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507272151391 
 
 
■参院論戦4 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 〜存立危機事態〜 国家総動員体制と人権が制限される可能性 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507281158172 


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