2015年07月31日14時31分掲載  無料記事
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政治

参院論戦6 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 国連決議がなくても自衛隊の派遣が可能に

  参院で議論されている安保関連法案、正式名称「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を続けて独自に読んでいます。そうすることで政治家にもマスメディアにも縛られない独自の視点を持ち得ると思うからです。 
 
  さて、昨日は「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律の一部改正」というくだりを読みました。いわゆるPKO法の改正に関するところです。自衛隊が外国で紛争当事者の双方の同意がなくても平和維持活動にあたれることや、危機が迫った段階で市民の保護を行うために現地へ駆けつけることができる、いわゆる「駆けつけ警護」など、自衛隊員のリスクが飛躍的に高まる可能性があることが読み取れたと思います。 
 
  さて、そもそももとの法律であるPKO法「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」の目的は以下のような文章になっていました。 
 
<(目的) 
第一条 
 この法律は、国際連合平和維持活動、人道的な国際救援活動及び国際的な選挙監視活動に対し適切かつ迅速な協力を行うため、国際平和協力業務実施計画及び国際平和協力業務実施要領の策定手続、国際平和協力隊の設置等について定めることにより、国際平和協力業務の実施体制を整備するとともに、これらの活動に対する物資協力のための措置等を講じ、もって我が国が国際連合を中心とした国際平和のための努力に積極的に寄与することを目的とする。> 
 
 今回の改正案にはその目的に一部、追加があります。改正案にはこう書かれています。 
 
 <第一条及び第二条第一項中「国際連合平和維持活動」の下に「、国際連携平和安全活動」を加える。> 
 
 これを切り貼りしてみましょう。以下の文章になります。 
 
<(目的) 
第一条 
 この法律は、国際連合平和維持活動、国際連携平和安全活動、人道的な国際救援活動及び国際的な選挙監視活動に対し適切かつ迅速な協力を行うため、国際平和協力業務実施計画及び国際平和協力業務実施要領の策定手続、国際平和協力隊の設置等について定めることにより、国際平和協力業務の実施体制を整備するとともに、これらの活動に対する物資協力のための措置等を講じ、もって我が国が国際連合を中心とした国際平和のための努力に積極的に寄与することを目的とする。> 
 
  一見微細なようですが、その目的に国連平和維持活動や人道的な国際救援活動、選挙監視活動だけでなく、さらに「国際連携平和安全活動」を加える、としています。国際連携平和安全活動っていったいなんでしょう?国際連合平和維持活動と何が違うのでしょうか?改正案に盛り込んだというのは必ず、意図があるから盛り込まれるのです。法案を自分自身で読むことの利点はこうした細かいことを発見していけることにあります。 
 
  さて、懸案の「国際連携平和維持活動」は昨日見ました弟三条の国際連合平和維持活動の説明の下に新たに付け加えられようとしています。その説明は以下です。 
 
 <二 国際連携平和安全活動   国際連合の総会、安全保障理事会若しくは経済社会理事会が行う決議、別表第一に掲げる国際機関が行う要請又は当該活動が行われる地域の属する国の要請(国際連合憲章第七条1に規定する国際連合の主要機関のいずれかの支持を受けたものに限る。)に基づき、紛争当事者間の武力紛争の再発の防止に関する合意の遵守の確保、紛争による混乱に伴う切迫した暴力の脅威からの住民の保護、武力紛争の終了後に行われる民主的な手段による統治組織の設立及び再建の援助その他紛争に対処して国際の平和及び安全を維持することを目的として行われる活動であって、二以上の国の連携により実施されるもののうち、次に掲げるもの(国際連合平和維持活動として実施される活動を除く。)をいう。 
 
イ 武力紛争の停止及びこれを維持するとの紛争当事者間の合意があり、かつ、当該活動が行われる地域の属する国及び紛争当事者の当該活動が行われることについての同意がある場合に、いずれの紛争当事者にも偏ることなく実施される活動 
 
ロ 武力紛争が終了して紛争当事者が当該活動が行われる地域に存在しなくなった場合において、当該活動が行われる地域の属する国の当該活動が行われることについての同意がある場合に実施される活動 
 
ハ 武力紛争がいまだ発生していない場合において、当該活動が行われる地域の属する国の当該活動が行われることについての同意がある場合に、武力紛争の発生を未然に防止することを主要な目的として、特定の立場に偏ることなく実施される活動> 
 
  注目されるのは国際連携平和安全活動の活動根拠が「国際連合の総会、安全保障理事会若しくは経済社会理事会が行う決議、別表第一に掲げる国際機関が行う要請又は当該活動が行われる地域の属する国の要請(国際連合憲章第七条1に規定する国際連合の主要機関のいずれかの支持を受けたものに限る。)に基づき」とあるところです。いろいろ並べてある印象です。 
 
  国連平和維持活動の場合は明確に「国際連合の総会又は安全保障理事会が行う決議に基づき」とあります。いわゆる国連決議がないと自衛隊は派遣できないことになっていたわけです。しかし、「国連連携平和安全活動」という文言が一語入るだけで化学変化を起こしたように大きく適用のケースが広がろうとしています。 
  国連総会や国連安保理の決議以外にも以下の場合に自衛隊を派遣できることになります。 
 
・国連経済社会理事会が行う決議 
・別表第一に掲げる国際機関が行う要請(別表1ってなんだ????) 
・当該活動が行われる地域の属する国の要請(国際連合憲章第七条1に規定する国際連合の主要機関のいずれかの支持を受けたものに限る) 
 
  自衛隊の派遣に際して国連決議がなくてもいいと言っているのです。「決議」と「要請」の文言の使い分けにも注意したいところです。決議の方が要請よりはるかにハードルが高いことは直感的にわかるでしょう。 
 
  振り返ると、自衛隊がイラクのサマワに派遣されたときは国連安保理の決議を踏まえたもので、この時は特別にイラク特措法、正式名称「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」を制定しました。2003年に制定された4年間の時限立法ですが、2007年に2年間延長してその後、2009年に失効しています。 
  イラク特措法の場合は自衛隊の活動場所は非戦闘地域に限る、とされていたことが記憶にあるかと思います。当時の小泉首相が「自衛隊がいるところが非戦闘地域」という問題答弁をしたことも印象に残ります。イラク特措法ではそもそも自衛隊の任務は非戦闘地域での復興支援や地域の安全確保に限られていました。 
 
  ところが今回の「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」の改正では先述の通り、国連総会や国連安保理の決議がなくとも、「国際連合憲章第七条1に規定する国際連合の主要機関のいずれかの支持を受けた」場合は一国の要請だけで自衛隊の派遣が可能となり、その場合は昨日も書きましたが、住民保護活動のために戦闘の行われる前か、後なら自衛隊が駆けつけることができるようになります。そして、そのオペレーションにおいて、危機が高まった場合は武力行使も容認され、日本の刑法上の正当防衛(36条)と緊急避難(37条)の規定もとで行為の正当性が裁かれることになります。 
 
  さて、先程文言が出てきました国連憲章第七条1の機関とは何かといえば国際連合広報センターのウェブサイトに、次のような記載がありました。 
 
  「国際連合の主要機関として、総会、安全保障理事会、経済社会理事会、信託統治理事会、国際司法裁判所及び事務局を設ける。」 
 
  これらの機関のいずれかの支持があれば安保理決議や国連総会の決議がなくても、当該国の要請で自衛隊を派遣できることになります。 
 
 
 
■国際連合広報センター 
http://www.unic.or.jp/info/un/charter/text_japanese/ 
 
■「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」 
 参院で議論されている安保関連法案は次の参議院のウェブサイトに全文が書かれています。 
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/189/pdf/t031890721890.pdf 
 
■総務省行政管理局の日本の法令データベース 
 これに知りたい法律名を入力すると、条文がすべて読めます。 
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi 
 
 
■参院論戦1 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」 それは自衛隊法の改正である 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507261839570 
 
■参院論戦2 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 〜在外邦人の「保護措置」について〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507271607251 
 
■参院論戦3 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 〜周辺事態と重要影響事態〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507272151391 
 
■参院論戦4 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 〜存立危機事態〜 国家総動員体制と人権が制限される可能性 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507281158172 
 
■参院論戦5 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 自衛隊PKOの変化 〜南スーダンで自衛隊の戦闘開始の可能性 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507301309184 
 
■27日月曜から参議院で安全保障関連法案の審議開始 <我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会> 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507260938000 
 
■無料で日本の法律や憲法を検索する方法 「総務省法令データ提供システム」 様々な特別法もこれでOK 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507261441190 


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