2015年08月01日00時48分掲載
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福島から
福島県内の原発・除染労働をめぐる現状 〜福島県労連議長・斎藤富春氏インタビュー 其の1〜
東日本大震災から4年4カ月余り。およそ40年に及ぶとも云われる福島第一原発の廃炉作業は、地下に溜まった汚染水処理や、高濃度の放射能に汚染された区域が無数に点在する原発施設内での困難な作業などが相まって、遅々として進んでいないように見える。
また、福島県内では、放射性物質を地表面から取り除くための除染作業も進められているものの、除染方法や処理に関する問題点が指摘されており、約2.5兆円(2013年末、環境省試算)の費用が投じられる公共事業としての有効性が疑問視されるところである。
一方、原発事故によって故郷を追われ、未だに約11万1,000人(2015年6月時点)が県内外での避難生活を強いられている福島県民に目を転じると、政府は今年の6月12日に閣議決定した「福島復興指針(改訂)」の中で避難住民に対する今後の施策を示し、その中で「福島第一原発事故に伴う避難区域のうち、居住制限区域、避難指示解除準備区域を2017年3月までに解除する」「居住制限区域、避難指示解除準備区域の住民に対する精神的損害賠償を2018年3月まで支払う」としているが、この指針について、避難区域になっている県内自治体首長からは、
「自治体によって賠償格差があり、承服できない」
「住民帰還は、放射線量の低減や生活に必要な機能整備を見極めた上で判断すべき」
といった批判意見が出ており、必ずしも自治体との合意形成が伴った施策とはなっていない。
このような現状の福島県において、震災直後から被災者支援活動に取り組むとともに、原発事故の収束作業に従事する原発労働者や県内の除染作業に携わる除染労働者の労働問題に関わってきた「原発・除染労働者のたたかいを支援する会」共同代表を務める福島県労連議長の斎藤富春さんに、原発・除染労働における課題や復興に対する思いを語っていただいた。(館山守)
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----東日本大震災から4年4カ月が経過しましたが、震災後における福島県労連の取り組みを教えてください。また、福島県の現状をどのように見ていますか。
(斎藤)東日本大震災発生後の2011年3月24日、福島県労連など県内各団体が結集して、被災者支援組織「ふくしま復興共同センター」(以下、共同センター)を立ち上げ、炊き出し、物資支援など緊急支援活動を中心に取り組みました。
一方、東京電力は、「津波によって電源が遮断され、過酷事故につながった」と主張し、自然災害が事故原因だとしました。自然災害が原因の原発事故であれば、東京電力も被害者ということになります。
しかし、これに関して始めに紹介しておきたいことがあります。それは、福島第一原発事故直後の2011年4月6日、共同センターは東京電力福島事務所に対し、「福島第一原発事故は『人災』との立場に立ち、事故の一刻も早い収束と事故被害に対する全面賠償を求める」という申し入れを行ったことです。これは、共同センターとして最初に行った対外的な要請行動です。そして、これには理由がありました。
福島県には、福島県労連も参加する「原発の安全性を求める福島県連絡会」(福島第一原発事故後、名称を「原発問題福島県民連絡会」に変更。以下、連絡会)という市民組織があります。この連絡会は、原子力発電そのものに対する賛成・反対を問わず、原発の安全性の一点で23年前の1992年に結成された組織です。連絡会では、社団法人土木学会のデータに基づき、「福島第一原発は、1960年のチリ地震津波のような大津波が来ると海水の取水ポンプが動かなくなり、過酷事故につながる重大な危険性がある」と2004年から東京電力に対して抜本的な対策を取るよう繰り返し強く求めてきました。しかし、東京電力は真摯に耳を傾けず、残念ながら連絡会の指摘するとおりの事態となってしまいました。
こういう活動をしてきた組織だからこそ、今回の福島第一原発事故は「自然災害」ではなく、まさしく「人災」だと正面から主張することができるのです。また、東京電力をその認識に立たせてこそ、全面的な損害賠償とその後の被災者本位の復興や安全なエネルギー政策につながるということを議論してきたのです。このように、私たちは出発の時点で福島第一原発事故問題での基本姿勢を明確にして、災害救援活動と支援活動を開始しました。
そして、震災5年目を迎えて、政府や東京電力の姿勢というものが、だんだん明確になってきていると感じています。
政府は今年6月12日、福島第一原発事故からの「福島復興指針」を改訂して閣議決定しました。それによれば、現在、福島県は原発事故による放射能汚染の避難区域として「帰還困難区域」「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」の3つに区分されているのですが、このうち「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」については、今から約2年後の2017年3月までに避難指示を解除するとしています。
我々からすれば、避難区域の解除は損害賠償とリンクしていると考えています。したがって、2年後に避難地域を解除するということは、損害賠償を打ち切ると明言したのと同じことなのです。さらに、こういった損害賠償に限らず、自主避難者に対する住居費用の補償も打ち切ることにつながるのです。2年後に避難区域を解除すると明確に示したことで、今後、政府はこれを基本とした施策を打ち出していき、これにより、全てのことが2年後を目処に切り捨てられていくことにつながるのです。これが6月12日に閣議決定された「福島復興指針(改訂)」の本質です。
この「福島復興指針(改訂)」で注目すべきところは、これまで、政府は損害賠償の“終期”というものを明確にしてきませんでしたが、この「福島復興指針(改訂)」によって、はっきりと示したということです。つまり、“損害賠償の終わりが決まった”ということです。また、政府は今回の「福島復興指針(改訂)」において、事業者に対する営業損害賠償について、「2015年3月以降の将来に亘る損害を、年間逸失利益の2倍相当額として、一括して賠償する。それ以上の損害賠償は個別対応にする」としています。個別対応によって、相当因果関係が認められるものについてのみ損害賠償するとしていますが、「個別対応による損害賠償」という言葉は「損害賠償を打ち切る」と同義語なのです。いくら政府や東京電力が個別対応を強調しても、誰も信用していません。そういう意味では、避難住民や事業者に対する損害賠償問題に関しては新たな局面に入ってきたと考えています。
この点については、共同センターの総会でも議題となり、政府が損害賠償打ち切りの方向に向かい始めたということが福島県民全体に伝わっていないことが問題になりました。その後、6月26日に開催した「福島県原子力損害対策協議会」の場で、政府・東京電力から決定内容の説明がありましたが、多くの参加者から反対や疑問、不安の声が出されており、閣議決定したとはいえ、県民の実態を踏まえない内容です。この内容を全県民に広く知らせて行きたいと思います。
----福島県では、東京電力福島第一原発事故後の収束作業が続いています。福島第一原発で作業に当たる原発労働者の実態はどうなっているのでしょうか。
(斎藤)今、福島第一原発では約7,000人の原発労働者が作業に当たっていますが、労災事故が増加しており、今年に入ってから死亡事故も発生しています。
福島第一原発での労災事故件数は、2011年43件、2012年20件、2013年20件、2014年49件であり、昨年の労災件数は過去4年間で最悪となっています。
このような労災事故が発生する最大の要因は、“熟練労働者”が不足しているということです。原発施設での労働における被曝限度は、5年間で100ミリシーベルト、1年では50ミリシーベルトとなっています。しかし、現場では年間20ミリシーベルトを超えると解雇されてしまいます。被曝限度を超えた労働者の健康面を考慮して、放射線量の高い作業場から異動させるのではなく、被曝限度を超えれば“首切り”をしてしまうのです。
原発労働者からすれば、失業するか、健康に影響が出ることを承知の上で原発施設での作業を続けるかの選択を迫られることになり、結果的に線量計を鉛で覆ったり、線量計そのものを付けず現場に入ったりして、作業を続けているのです。
熟練労働者不足によって、福島第一原発では経験年数が1年半程度の原発労働者が全体の60パーセント近くになっているといった現実があります。「素人が多く、道具の名前さえ知らない」と話す現場監督もいます。それをカバーするために熟練労働者が自ら作業を行って必要のない被曝を受けることもあります。
東京電力は、2012年9月から10月に掛けて、福島第一原発で働く労働者を対象とした「就労実態に関するアンケート」を実施しました。このアンケート結果には、「下請け作業員の約半数が雇用主ではない会社の指示で作業をしている」「労働内容、賃金などを書面にした『労働契約書』がない」、「福島県の最低賃金を下回る時給で働いている」といった明らかに違法労働に該当する回答がありました。
また、危険手当については、「危険手当が加算されていない」が32パーセント、「危険手当が加算されているかどうか分からない」が15パーセントといったデータが出ています。
このアンケート結果には、それなりの信ぴょう性があるものと見ています。なぜなら、このアンケートは、東京電力が作成して元請け会社に配布し、それが各下請け会社に渡って原発労働者から回答を求めるという流れで進められました。その際、東京電力は下請け会社に対し、自社の意向に沿ったアンケート内容となるように念押ししているはずです。それにも関わらず、福島第一原発で働く原発労働者から、このような過酷な現場の実態が明らかにされた訳ですから、その意義は大きいと思います。
それから、最初に紹介した「原発の安全性を求める福島県連絡会」として、福島第一原発事故後、同原発施設内の視察を求めました。これに対して当初、東京電力は「テロ対策上、部外者は施設内に入れられない」と視察を拒否しました。要するに、我々を“テロリスト”と同一視し、「原発施設の視察はまかりならん」と拒んだのです(笑)。
これに対して、福島県の原発問題に40年にわたって関わってきた会の代表である早川篤雄氏が、東京電力に粘り強く交渉し、昨年、福島第一原発と福島第二原発の視察に入ることができ、私自身もメンバーとして参加しました。
このうち、福島第一原発施設内の視察では、東京電力が指定したコースをバスの車内から見て回りました。コース上には、線量の高い場所があり、そういう場所については、バスから降りることはできませんでした。視察の際、原発施設構内の写真やビデオ撮影を勝手に行うことは禁止されており、撮影したい場合には同行の東京電力社員に頼まなければなりませんでした。撮影を依頼する際、東京電力側は施設の窓やドア付近の撮影には神経を尖らせていましたが、それ以外の場所についてはそうでもありませんでした。
原発施設内の視察では、凍土遮水壁の準備作業状況やALPSという放射性物質除去装置の様子も見て回りましたが、その状況を目の当たりにして、原発事故収束作業の厳しさや困難というものをより強く感じました。
----東京電力福島第一原発事故後、同原発で作業に当たる原発労働者の労働問題に対し、福島県労連はどういった対応をされてきたのでしょうか。
(斎藤)震災以前、福島県労連に寄せられる労働相談の中で、原発労働者によるものは極めて少ない状況でした。原発労働における基本的な考えとして、原発労働者は作業に従事するに当たって必ず念書を書かされ、「絶対に原発施設内のことは漏らさない」と念押しされ、これによって内部告発ということができない状況になっていたからです。仮に、内部告発しても、告発した原発労働者個人だけに止まらず、内部告発した原発労働者が勤務する下請け会社を含め丸ごと契約を打ち切られることになります。そのため、相談に当たっては、相談者や下請け会社を守るために慎重な対応が求められます。原発関連企業での労働組合の結成についても、今の段階では極めて困難と言わざるを得ません。
福島県労連に対する相談以外では、いわき市議の渡辺博之氏が震災以前から原発労働者の労働相談を受けていました。そして昨年になって、福島第一原発で作業していた原発労働者の中から裁判に立ち上がる方が現れました。裁判に訴えるに当たっては、渡辺市議の働き掛けが大きく影響していたのですが、それでも裁判の原告である原発労働者の多くが実名を公表していません。そして、裁判を闘う原発労働者の支援を目的として、昨年11月26日、「原発・除染労働者のたたかいを支援する会」(以下、支援する会)を結成しました。
今、支援する会が関わっている裁判は、「危険手当請求裁判」と「汚染水被曝裁判」の2つであり、いずれも福島地方裁判所いわき支部で公判中です。
「危険手当請求裁判」は、危険手当のピンハネ問題を訴えた裁判であり、提訴した時点では原告が4人でしたが、それから原告がさらに4人増えて合計8人となっています。
「汚染水被曝裁判」は、福島第一原発事故発生後、床に汚染水が溜まっている中で作業に従事して被曝したことに対する裁判で原告は1人です。
支援する会が見通す先にあるものは、今回、裁判に立ち上がった原発労働者の支援だけに限りません。原発労働に従事すれば必ず被曝するのですから、そういう意味では命や健康と引き換えの労働です。ですから、福島第一原発で働く多くの原発労働者の中から、今後このような声を上げる方たちが出てくるものと考えており、そういった原発労働者の支援をしていくことも目指しています。福島第一原発の廃炉作業を無事に完了させることは、福島県が復興するための大前提であり、原発労働者の労働状況の健全性を保つことは最も重要なことなのです。(つづく)
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