2015年08月01日00時56分掲載  無料記事
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福島から

福島県内の原発・除染労働をめぐる現状 〜福島県労連議長・斎藤富春氏インタビュー 其の2〜

----東京電力福島第一原発の収束作業と並行して、現在、福島県では除染作業が行われていますが、この除染労働者の健康や労働環境が問題になっていると聞きます。除染労働者の労働問題については、どのように見ていますか。 
 
(斎藤)環境省が示している除染労働者の労務単価は、日当1万6,300円、危険手当1万円の合計2万6,300円です。しかし、実際の日当として支払われているのは5,500円から6,000円であり、福島県の最低賃金に張り付いています。 
 除染労働が始まってから、福島県労連では「除染労働者110番」を開設しました。昨年、福島県労連に寄せられた労働相談件数は約400件ありましたが、そのうち122件が除染労働に関する相談でした。 
 その中で、ある除染労働者から「危険手当が出ているそうだが、貰ってねえんだよな。貰っている給料は日当1万5,500円なんだけど、危険手当は入ってねえんだ」という相談がありました。相談の結果、その除染労働者は「んじゃあ、(危険手当が支払われているのか)会社に聞いてみる」とのことでした。そして、翌月の給料明細を確認したところ、1万5,500円の給料が日当5,500円、危険手当1万円と分割して記載されていたというのです。要するに、明細の記載方法を変えただけで支給額は変わってなく、結局のところ、日当のピンハネが行われているということだったのです。 
 
 ここで、もう一つ問題となるのは、除染労働者が受け取るべき日当から、朝晩の食事代、宿泊費などの経費が差し引かれているのですが、こういった経費は国から別途支出されているのです。しかも、雨天などで除染作業が中止になると、その日の日当は支払われません。法的には雇い主側の都合で仕事がない場合には60パーセントの賃金を保障しなければいけないのですが、そういったことも守られていません。 
 さらに、酷いことには除染作業のない日が続くと、当然、賃金も支払われない訳ですから、除染労働者は生活が苦しくなっていきます。そうすると、会社側が除染労働者に金銭を貸し付け、それを除染労働で返済させているのです。こうして、除染労働者をがんじがらめにして、一部の者だけが金儲けをしているという実態もあります。 
 
 この問題の根本には、まさに多重下請けという構造があり、たとえ元請けと一次下請けが正常な契約関係であっても、それが二次、三次と下請けがどんどん入ってくることでメチャクチャとなり、そのしわ寄せを除染労働者が受けているのです。 
 除染労働における多重下請け構造も、勿論大きな問題ではあるのですが、除染労働に関しては「暴力団の介在」ということの方が問題としては根深いと捉えています。表向きには原発労働や除染労働から暴力団は排除するということになっているのですが、実態はそのようになっていません。除染労働に暴力団が介在してくる場合、基本的にはピンハネが目的ですから、暴力団が自ら労働者として現場に出ることはなく、携帯電話1本で人を掻き集める人夫出しが主な手法です。一方で、除染労働者から寄せられた相談の中には、除染作業の現場において、現場監督を務める者から“入れ墨”を見せられて脅されたり、あるいは、殴られるなどの暴力行為を受けたという事例もあります。 
 暴力団からすれば、1兆円を超える除染作業という公共事業が眼前にあり、「危ない橋を渡らなくてもラクにカネが稼げる」と考えているのでしょう。 
 
このような除染労働問題に対する対応策として、福島県二本松市では地元業者が集まって除染作業を請け負う協同組合を設立し、この協同組合が元請けとなって、ゼネコンを介さず、暴力団も介在させずに市内の除染作業を請け負っています。2012年度の数字ですが、二本松市の公共事業費は年間約25億円でしたが、国から委託された除染事業費は年間約84億円となっており、協同組合設立によって、少なくとも除染作業における公共事業費は地元業者に分配されるような仕組みができています。協同組合が元請けであるため、地元業者優先で除染作業を請け負うことができるというメリットはありますが、一方で、地元業者であることから、除染作業において住民からの様々な要望にも応じなければならず、かえって作業量が増える結果となっているようです。 
 しかし、地元業者は、「それでいいんだ」と納得して除染作業をしていると聞きます。そこには、「地域の安全安心に地元業者が携わっていくことが大事」との信念があり、地域経済発展のためには、その地域の業者が頑張らなければならないとの思いがあるのです。ただ、二本松市のように地元業者が協同組合を設立して元請けとなり、除染作業を請け負っているケースというのは、他の自治体には広がっていません。ゼネコンが入った方が重機調達や人集めが容易であり、除染作業の技術も持っているので有利であるということから、他の自治体ではゼネコンが除染作業の中心を担っています。 
 
----改めて、原発・除染労働者の労働実態の問題点などをお聞かせください。 
 
(斎藤)やはり、原発労働の現場において言えることは、原発労働者を“使い捨て”にするということが問題の根っこにあると考えており、これは除染労働においても一緒だと思います。 
原発労働問題に対して、裁判に立ち上がった原発労働者たちは、今、公判の場において、そういった構造的な問題に一石を投じようとの思いで闘っています。 
 本来は、問題のある職場に労働組合をきちんと組織して問題解決に当たるということが基本です。しかし、福島県労連が原発労働者から労働相談を受けた場合には、いわゆる“事件解決型”という対応にならざるを得ません。原発労働者から寄せられる労働相談に対しても、労働組合結成という方向に持っていくことが理想ではあるのですが、原発事業を取り巻く諸問題を考慮すると、現状ではなかなか労働組合結成に結びつくような対応を取ることが難しい状況なのです。そこには、何十年にも亘る原発事業の中で形成されてきた構造というものがあり、それが障壁になっているという問題があります。 
 福島県労連に寄せられた相談の中には、数件程度ですが会社からの相談というものもあります。結局、多重下請け構造というものは、原発労働者だけでなく下請け会社も同様の影響を受ける訳です。このような状況は、除染事業にもそのまま当てはまります。このような原発労働者や除染労働者が置かれた労働状況というものは、そこに限った特有の問題ではなく、広い視野で見れば他業種にも通じる問題なのです。 
 本来の雇用のあるべき姿としては、“直接雇用”という正社員が当たり前の社会にしていかなければなりません。現在、日本では非正規労働者が全体の40パーセント近くにまで達しています。いわゆる“ワーキングプア”と言われる労働者がそれだけ存在するということであり、これは日本経済にとっても決して良い状況にあるとは言えません。雇用に関しては、「人間らしい雇用」、「安定した雇用」というものをしっかりと確立することが必要であり、それによって、結婚して子供を育て家庭を築いていき、それが日本経済を支えていくことにつながっていくのだと思います。 
 そういった当たり前のことに立ち返ることが必要であり、そういう方向に向かっていくことによって、原発労働者や除染労働者が自らの仕事に生き甲斐を感じ、「自分たちが頑張ることで、福島県の復興につながるんだ」という使命感のようなものを持って、原発施設や除染作業現場での仕事に臨むことができるのではないかと思うのです。 
 
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 斎藤氏へのインタビューを通じて、福島第一原発廃炉作業や除染作業は福島復興のため最優先で取り組むべき課題であるものの、そこには様々な問題が厚い壁となって立ちはだかっていることを痛感した。このような課題を被災地自治体だけで乗り越えていくことは到底不可能であり、まだまだ政府の復興支援が必要である。 
安倍首相は昨年12月2日公示(同14日投票)の衆議院議員総選挙の際、福島県相馬市において、「福島の復興なくして日本の再生なし」と第一声を上げた。今こそ行動をもってそれを示してもらいたい。(館山守) 


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