2015年08月05日00時01分掲載
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服は生き方あり、肌である 笠原真弓
服は生き方あり、肌である
『アドバンスト・スタイル―そのファッションが、人生』(リナ・プライオプライト監督)
『フリーダ・カーロの遺品―石内都 織るように』(小谷忠典監督)
『アドバンスト・スタイルそのファッションが人生』のスクリーンから飛び出したのは、着飾ったというより前衛の先を行っているような60代以上の女性たち。ニューヨークの道端で出会った彼女たちにカメラを向けるアリ・セス・コーエン氏は、祖母に勧められて田舎から出てきたのだが、お年寄りに関心があり、いつの間にか彼女たちのファッションをカメラに収め、ブログに掲載している。
「ファッションはキャンバス。完成までに、7年かかった」「若くみえるより、魅力的にみえたいの」「人生という劇場のために毎日着飾る」などの言葉を引き出していく。服を通して語られるそれらの言葉は、哲学的とまで言える。
そしてまた、彼女たちの年輪を刻んだ容姿にまとわれた衣装は、生きもののように本人の生き方を浮き立たせる。全てのしがらみを捨てて、自分の思うように生きたいと高揚感にとらわれ、気づけば履いたこともないような靴を買っている私がいた。
その人を顕す衣服、それはフリーダ・カーロの衣装にも言える。「服は皮膚である」とフリーダ・カーロの遺品を撮影した石内都さん。石内さんは、これまでも亡き母の下着を接写することで母を受けいれられたといい、また、広島の被爆衣装をカメラに収めたのだが、例品を通してその持ち主に迫る独特の作風を持っている。彼女のその写真を観て、フリーダ・カーロの財団から遺品の撮影の打診があったという。
カーロは、メキシコの前衛的画家で、母の出身地のオアハカの民族衣装をいつも着ていた。石内さんは、美しい衣装は後回しにして、小児麻痺の体を支えたコルセットを撮りはじめる。カーロ自らがコルセットのお腹に開けた穴、置くとそのまま自立している硬いコルセット。左右の足の長さに合わせて作られた靴。繕ったあと。カーロが住んだ家の一室に次々運ばれ、自然光の中であるときは、庭の木漏れ日の下で、撮影されていく。
一点一点のエピソードを聞くうちに、カメラの目が変わっていくのがわかる。敬意の距離が、いつの間に共感の距離へと。そしてあまり撮りたくなかったスカートのデザインの由来を聞いたあとに、石内さんは服を大切にする知恵に感じるものがあったのか、新たな構図で撮り始める。
ところで、こられの写真の展覧会がパリで行われた。そこである男性が、服がまるで肌のようだと言う。遺品である服が、彼女自身も言っているように、彼女のレンズを通すとその人物を形づける一番外側の皮膚となって、蘇ってくるのかもしない。
ところどころに挿入されるオアハカの刺繍現場は、改めて監督がメキシコに行き、撮影したと聞く。その映像は、映画を単なる撮影の記録映画からもっと普遍的なものへと昇華していった。
今でも母親たちが刺繍をし、傍らで幼い少女がその手元を見つめる。若い娘は祖母の代から伝わる衣装で、ダンスを踊る。親友の、病の床にあるおばあさんの衣装を譲り受けた若い踊り手が静かに踊りだすと、あたかも不自由な肢体を解放されたカーロが、傾いた陽光の中に現われてきた。
『アドバンスト・ファッション』 72分/公開中
『フリーダ・カーロ』 89分/8月8日シアター・イメージフォーラムより全国順次公開
<写真のクレジット>
アドバンスト・ファッション
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フリーダ・カーロクレジット
ノンデライコ2015
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