2015年08月05日13時08分掲載
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TPP/脱グローバリゼーション
TPP報道の謎
TPP(環太平洋経済連携協定)交渉がニュージーランドがふっかけた議論のため大筋合意が見送られたと新聞で今月報道された。記事では様々な分野の交渉状況が触れられていたのだが、疑問を抱いたのは新薬データの保護期間というくだりである。
朝日新聞の記事では米国は12年、日本は8年、ニュージーランド、オーストラリア、マレーシアは5年を主張していると書かれていた。これは新薬メーカーを抱える国ほど国内産業の圧力で、保護期間を長引かせたいことを意味している。
ところで、この朝日新聞の記事では「米国はバイオ医薬品については12年」という風に、<バイオ医薬品については>という限定の表現をとっているのである。これはどういうことなのだろうか。この件は欄外に<物別れに終わった2分野の対立の構図>と掲げられて大きく図解されていた。図解の方には<バイオ医薬品については>というただし書きはなく、これだけ読んだら医薬品全般の話かと思うだろう。
そこに疑問を抱いたのは日本でも、アメリカでも医薬品の特許期間は一般的に20年とされているからだ。TPPに加入するからといって、特許期間をアメリカが8年も短縮するだろうか。日本も12年も短縮するだろうか。この特許期間の20年と12年の差はなんなのだろう。
そこでよく読んでみると、米国が12年を要求しているのはバイオ新薬の特許期間のことではなく、「新薬のデータの保護期間」と書かれていることだ。特許期間とデータの保護期間。この2つはどんな違いがあるのだろう。
謎が謎を呼ぶ。
それともう一つ、これはウィキリークスが暴露したらしいのだが、「デモクラシー・ナウ!」ではもっと大きな問題として、TPPの医薬品特許にはある条項があって、新薬製造メーカーが特許期間が切れても微細な製品の改良を行えば再び特許期間を延長できると報じていることだ。その期間は20年とされているらしい。この条項はアメリカの医療関係者から「エバーグリーン条項」(=永久に緑)と呼ばれていて、評判が最悪なものだそうだ。しかし、朝日新聞ではこの件は触れていなかった。
新薬の特許期間が重要な問題であるのは庶民が安く医療を受けられるためには特許期間の切れたジェネリック医薬品の普及が不可欠だからだ。このことは日本の厚生労働省もジェネリック医薬品の導入目標を2020年度末までに8割にするとしていることでもわかる。しかし、特許期間が長くなればその間ジェネリック医薬品が出てこれないから、医療費は高止まりするが、問題はさらにそれだけでなく、発展途上国の人々にとってはまさに生死の問題に直結してしまう。
■「デモクラシー・ナウ!」新薬の特許保護期間について
http://www.democracynow.org/2015/6/11/backlash_against_tpp_grows_as_leaked
■厚生労働省の資料 ジェネリック医薬品
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/2012/03/01.html
新薬の特許期間は20年〜25年。5年の幅があるのは一般的には
20年だが、薬の販売開始までに時間がかかった場合にはその間の特許期間をのばせる規定があるから。
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