2015年08月17日02時31分掲載  無料記事
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堀江湛・岡沢憲芙編 「現代政治学」(法学書院) 早稲田・慶応出身の学者が集結 二党制の神話にメスを入れる

  最近の大学生はどんな政治学のテキストで勉強しているのだろう。そう思って手にした一冊、法学書院から出ている堀江湛・岡沢憲芙 編「現代政治学」。著者を見ると、早稲田出身と慶應出身がまるで野球の早慶戦を繰り広げるかのように並んでいた。その取りまとめ役が年長でもある堀江湛、岡沢憲芙の両教授のようだ。 
 
  政治の危機が深まっている今、どの章を読んでも興味深い。しかし、筆者が一番知りたかったことは第四章の「政党システム」だ。今のような時代はどのようにして生み出されていったのか。執筆者は早大出身の岡沢憲芙教授(早大)で、二大政党制が批判的に書かれているのが目を引く。 
 
  岡沢教授によれば政治学の世界では「二党制の神話」「多党制の神話」という言葉があるそうだ。二党制こそが政党政治の理想であり、政治の安定をもたらすとする「神話」。岡沢氏は特に日本では憲法改正を強行しようとする勢力がこれらの神話を積極的に活用してきたと説明する。 
 
  そうした改憲を目指す政治勢力が積極的に取り込んで活用したのがマスメディアだったという証言がある。共産党の志位和夫氏は「日本の巨大メディアを考える」という一文の中で、小選挙区制と二大政党制を推進した勢力が巨大メディアであったことを綴っているのだ。 
http://www.jcp.or.jp/web_policy/2012/05/-201222111-19.html 
  「決定的な転機になったのは、1990年代の小選挙区制導入だと思います。このときに、政府の諮 問機関として第8次選挙制度審議 会(注)がつくられますが、そこに主要メディアの幹部を軒なみ組み込こ んだのです。この審議会は、27人の委員中、メディア関係者が12人にものぼりました。 
 
 (注)第8次選挙制度審議会に参加したメディア関係者は、次の通りです。新井明・「日経」社長、内田健三・元共同通信論説委員長、川島正英・「朝日」編集委員、清原武彦・「産経」論説委員長、草柳大蔵・評論家・元「産経」記者、小林與三次・「読売」社長・日本新聞協会会長、斎藤明・「毎日」論説委員長、中川順・日本民間放送連盟会長・テレビ東京会長、成田正路・NHK解説委員長、播谷実・「読売」論説委員長、山本朗・中国新聞社長、屋山太郎・評論家・元時事通信解説委員。 
 
  第8次選挙制度審議会は、1990年に小選挙区制導入の答申を出します。自分が参加していっしょになってつくった答申ですから、その答申通りに、「政治改革=小選挙区制」という大キャンペーンが、主要メディアのすべてをのみ込んで展開され、小選挙区制導入への道が敷かれていきました。」 
 
  志位氏によればさらに「21世紀臨調」(もとは民間政治臨調)と呼ばれる、大学人やマスメディア人や財界人などをメンバーとする民間組織も二大政党制を理想とするキャンペーンを行っていったとされる。 
 
  これだけ多くの人が新聞やテレビで頻繁に小選挙区制と二大政党制を絶賛する中で、次第に日本人の多くも、そんなもんかな、という風に考えるようになっていった。 
 
  しかし、ここで再び、「現代政治学」に戻ると、岡沢教授は興味深い情報を提供している。アメリカのローレンス・ドッド(Lawrence Dodd)という政治学者が議院内閣制国家17カ国の275議会を対象に政党政治の数量分析を行った結果、過去50年のあいだに開かれたすべての平時議会の75%は多党制議会であり、40ヶ月以上続いた内閣の80%が多党制議会の下で生まれたことをつきとめたのだという。そこから、少数政党も含めた「連合政権は必然的に不安定であるとはいえない」という事実を実証したのだそうである。 
 
  二大政党制が安定をもたらす、というのは「神話」に過ぎないというのである。筆者はローレンス・ドッドの研究の詳細を読んでいないので、これ以上書く事はできないが、ぜひもっと知りたいものだ。21世紀臨調は東大の政治学の教授だった佐々木毅氏が代表をつとめていた。当時、ドッドのこうした研究はどのように評価されていたのだろうか。 
 
  政治学は米国ではpolitical scienceと表現されており、つまり政治に関する「科学」という認識だ。いろんな知識を詰め込む単なる耳学問ではない。科学であることはデータを集めて、分析し、仮説を立て、実際の現実政治の中でその法則なり仮説なりが反復可能性を持つかどうかを探る、ということである。小選挙区制と二大政党制が日本の未来のあるべき政治体制であると規定した90年代前半に、いったいどのような論争が行われたのか(あるいは不在だったのか)。彼らがよしとした小選挙区制・二大政党制によって日本では死に票が増え、過去2回の衆院選の投票率は戦後最低を連続更新した。そんな中、多数派を占めた政党が数を頼りに強引な立法や憲法解釈の変更を行い、立憲主義の危機まで起きている。理想の政治制度と想定された小選挙区制・二大政党制の是非の科学的検証なしに日本の政治学は一歩も前に進めないのではなかろうか。 
 
 
■フロリダ大学のローレンス・ドッドの紹介欄から 
  ’Dodd also has a strong interest in Comparative Politics. This interest generated an early ‘game-theoretic’ study of cabinet durability in European/British Commonwealth parliaments (Coalitions in Parliamentary Government,Princeton, 1976).’ 
 
  ドッドは立法部(国会)の研究を専門にしており、中でも米議会が専門だが、一方で比較法学も研究しているとされる。ここでは英国を含めた欧州の内閣の持続性(耐久性)を研究したことが触れられている。 
http://polisci.ufl.edu/lawrence-c-dodd/ 
 
■ローレンス・ドッド著「連合政権考証 政党政治の数量分析」(岡沢憲芙 訳)政治広報センターから1977年に出版されている。 


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