2015年08月19日00時09分掲載
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文化
【核を詠う】(194) 『福島県短歌選集』(平成25・26年度)から原子力詠を読む(7) 「中間貯蔵施設容認 ふくしまののうぜんかづら燃えている天」 山崎芳彦
九州電力川内原発1号機の再稼働の暴挙、無謀に対する警告のように桜島(鹿児島市)の火山噴火が激しくなり、噴火警戒レベルが引き上げられ、さらに大規模な噴火の発生の可能性が高いと、気象庁が警戒を呼び掛けている。噴火警戒レベルが4(避難準備)に引き上げられ、避難も始まった。大事に至らないことを願うが、この桜島の噴火について川内原発の再稼働問題とかかわっての重大事象として大きく取り上げられることが多くないことに、異様な感じを持つ。桜島火山は巨大噴火を起こすカルデラ火山(陥没地形)として、川内原発の再稼働との関わりで問題になった姶良(あいら)カルデラ内にあり、2.6万年前から活動が続いており、桜島火山のマグマ周りには260立方kmに及ぶマグマが蓄積されていると見られ、この半分の量が桜島火山として噴出したとしても超巨大噴火の可能性が否定できないという。それは、川内原発に隣接する姶良カルデラにおける超巨大噴火あるいは大規模噴火の可能性を完全に否定はできないということだとされる。
川内原発の再稼働については、原子力規制委員会の安全審査においても問題となり、同委員会は火山影響評価ガイドについて、姶良カルデラからの巨大噴火による火砕流の原発敷地内への到達可能性を認めながらも、九州電力がモニタリングにより巨大噴火の危険予知が可能で、対応可能であるとする、火山研究者の大多数の間での「巨大噴火の正確な噴火予知は、いかなる方法をもってしても、現時点では困難である」とする共通認識に反する主張を容認して、合格としている。
このことについて原子力市民委員会は、川内原発1号機の起動―再稼働が行われた8月11日の前日のブログ「川内原発を再稼働させてはいけない3つの理由」を発表する中で、その3つ目の理由として次のように述べている。
「第3は、自然災害の予測が難しいことだ。川内原発の周辺に五つのカルデラ火山があり、大規模な噴火の影響が懸念されている。規制委員会が2014年に開いた2回の会合で、すべての火山専門家が『現在の学問水準では、活動可能性が十分に低いとは言えないし、モニタリングで有効な危険予知はできない』と述べた。全国20か所足らずの原発のうち四つで、基準を超える地震動が10年足らずのうちに5回も到来しており、地震予測の信頼性にも疑いがある。」
地震学者、火山研究者の間では、川内原発の安全審査について「要するに国はどうしても川内原発の審査を通したかったということ、既存原発については立地評価をうすめて通したいという目論見があったのだろう。立地評価をきちんとすべきなのに、それをしようとはしない。」との批判が数多く出されている。
福島原発事故の教訓が無視され、相も変らぬ「世界最高水準の規制基準」と言う「安全神話」の嘘八百のまま、原発を「ベースロード電源」に位置づけ、無くてはならない存在として再稼働流れ作業システムが稼働している。それは、福島原発事故の真実を覆い隠し、核放射線の危険性について嘘を振りまく「放射線安全神話」を作り広め、長い将来にわたる廃炉計画や、使用済み核燃料や高濃度被曝物質の取り扱いの見通しのなさ、森林や海洋汚染の放置などを深い闇の中に溶け込ませ見えないようにしようとする企み、そして何よりも今差し迫っている事故被災者の苦難とその中から求められている人間としての要求に対する背反と、「復興」の名のもとの新たな被災の押し付けが進められている中での現実である。
それは、実際には「戦争法案」の成立の強行とそれを支えるための、人々を従わせ、抑圧するための「反憲法」政策の構築を進めている安倍政権とその同調勢力の手によって計画されたものであることを見なければならない。
『福島県短歌選集』から、原子力詠を、今回も読み続ける。これらの作品を詠った人々の生活の中から紡がれた短歌作品は、読むほどに、今だけにとどまらない、今後に残されるべきものだと改めて思う。
◇根本 正◇
原発の海べに幾百の汚染倉庫夏陽炎(なつかげろふ)にゆらゆらと見ゆ
汚染水と鉄鋼タンクの根くらべ勝ち負けは僕さへ分かる
平成25年度 2首
◇橋本 清◇
セシウムの検出されずと玄米を生家の甥は一袋持ち来ぬ
庭隅に除染の土埋め仮置きと保管の期限明示なきまま
平成25年度 2首
故郷の駅舎に立ちて思ひ出す改札口を走り抜くるを
遠き日に煙草葉背負ふて喘ぎし道耕作絶えて藪にうづもる
平成26年度 2首
◇橋本はつ代◇
逢ひたしとふ仮設住まひの友ありて電話の向かうの闇深からむ
放射能いまだ漂ふ菩提寺に聴く法話なり震へつつ聴くも (富岡町浄林寺)
丹精の野菜の線量零(ゼロ)なるを子等は食べるをためらひてをり
採りて来し革茸(かうたけ)のセシウム値高ければ捨てつつ流す葬送の曲
革茸(かうたけ)のセシウム高きがあばかれてわが古里に山の幸なし
昔ながらの有機栽培目指ししを山の畑はセシウムまみれ
平成25年度 6首
汚染土の行方決まらねど始まりし袋の劣化目のあたりにす
原発の収束いまだつかざるに再稼働とや吾諾はず
平成26年度 2首
◇原 芳広◇
思わざる大病なるも原発禍 医療費免除は禍福なりしか
平成26年度 1首
◇半谷八重子◇
ふるさとの野山に採りし蕗独活の店より買うは悔しかりけり
人参を買うに色も香も味さえなしひたすら恋し兄の人参
嫁買いし四半分の白菜見つつ思う畑一面にわれは作りき
猛暑のなか原発に働く作業員マスクかけつつ遠き道ゆく
復興は名ばかりにしてふるさとに風花は舞う泡立草に
集まれば行き先案ずる声ばかりわれは未だに決め兼ねており
平成25年度 6首
放射能の飛散に人らは全国に散りて戻らず避難も四年
新聞やテレビに映る知人らを懐かしみ見る避難地ここに
月一度集う茶話会待ち待ちぬひと時すべてを忘れ語れり
ふるさとの仲間集えば方言に心許して出でくる涙
「生きのびろよ」と離してやりしわがベンよ新たな主に馴れしか今は(犬の名前)
栃木県民の歌を唄えばゆくりなくフクシマ思いて歌詞霞みたり
保冷庫の十二袋の米見れば眼がしら熱し一時帰宅に
保冷庫に原発禍の前の米のあり四年経れど虫もわかずに
人住まねば年毎に家は朽ちてゆく廃墟と化す日も近々ならん
平成26年度 9首
◇平野明子◇
去る人は考へまいと独り言ち蜜蜂唸る庭に草引く
見馴れゆく光景となる校庭のブルーシートが覆ふ汚染土
平成25年度 2首
◇廣田知代子◇
父植えし柿の木梅の木みな截られ中間貯蔵は野晒しのまま
見えぬもの如何に詠むかとパネラーの言は厳しも福島に住む
平成25年度 2首
◇古川 祺◇
避難して無人の村に除染せし土嚢の数多いまだ積まるる
かつて子の住みたる街は廃屋と瓦礫の山となりて音なし
汚染にて物を作れぬ田に畑に泡立草の繁殖はやし
核のごみ最終処分つきつめて言ふ人のなく選挙終りぬ
庭に積む落葉乾けどたはやすく燃すこと出来ず原発事故後
鈴なりの柿の木のあり倒されし柿の木のあり被災地通る
平成25年度 6首
室内に遊ぶ幼ら福島の未来担はんわれは見えねど
避難先にて一年生となる孫の運動会にわれも参加す
この三年耕さざりし前畑の土を一キロ検査にし出す
平成26年度 3首
◇古山信子◇
草取りの媼の言葉胸を刺す未だ地面にセシウム多しと
四季桜枝を落として丸坊主セシウム多しと切りて仕舞ひぬ
平成25年度 2首
大臣の椅子を押しつつ願ふなり福島の復興加速させよと
震災から千日過ぎて年明けてわが町わが家の除染進まず
ただ一日桜木に来て鳴く蝉が除染まだかと声ふりしぼる
平成26年度 3首
◇北條 平◇
放射能気にせず種籾水流す鳥に笑われ稲作始む
くるくると落葉舞い飛ぶ峡の道いつの日除染か歩行のできず
平成25年度 2首
◇星 キク子◇
「浮き草のやうな暮らし」と嘆く人居て福島に三度目の春
平成25年度 1首
いづこより来りて生ふるや白椿除染間近の庭に咲きたり
除染終へ剥きだしの庭照り返す炎熱地獄のやうな夏の日
平成26年度 2首
◇星 俊夫◇
原子炉を廃炉をするに四十年余りの長さに怒りを覚ゆ
平成25年度 1首
◇本田一弘◇
復興は進んでゐるといふ人のうすきくちびる見つむるわれら
線量は毎時六・五マイクロシーベルト 防護服着て墓洗ふ人
防護服の白かなしけれふるさとの死者をとむらふ装束の色
横積みのままの時間よ、横積みの墓石に人は手を合はせたり
くさむらに手を合はせたり浪江町請戸の家をながされしひと
夏の陽のじんじん暑し防護服に見えざるものの幾許(ここだ)貼り付く
蝉声は責め声ここから逃げし人ここから逃げぬ人を責め居り
平成25年度 7首
水無月の雨に濡れつつ学校の中庭に站つモニタリングポスト
ふくしまの風景として立ち続く幾千体のモニタリングポスト
モニタリングポストのしろき寸胴のからだを懐(いだ)く磐梯のかぜ
中間貯蔵施設容認 ふくしまののうぜんかづら燃えてゐる天
車から降りてはならぬ双葉郡国道六号線のゆふぐれ
土くれは何にも言はず月浴びてフレコンバッグの黒光りをり
平成26年度 6首
◇本田昌子◇
除染とて伐られし梅の枝先に一輪咲きしと夫の声せり
被曝より三度(みたび)の夏の公園のさくら大樹にみんみんも鳴かず
平成25年度 2首
◇馬上キミ◇
セシウムの減りしを思わせ小鳥たち刈田の落穂に寄り合うらしも
平成25年度 1首
◇松川千鶴子◇
線量を気にはしつつも柿を剥く午後の筵に甘き香の立つ
平成26年度 1首
◇三浦弘子◇
南相馬に瓦礫のいまだ残りゐて除染の土は仮に置かるる
潔(いさぎよ)く原発の地を諦めて家建てし友病に倒る
平成25年度 2首
線量の基準値以下なる椎茸も子や孫食はず老のみが食ふ
三年(みとせ)ぶりの殿上山の水芭蕉線量高きに株太く咲く
高濃度となりゆく原発の汚染水なすすべもなく三年の過ぐ
平成26年度 3首
◇水竹圭一◇
避難してきたる老いらと語りゐてあめ玉ひとつ手渡されたり
平成25年度 1首
戻らぬといふ人の増えフクシマのあの町この町寂れゆくなり
平成26年度 1首
次回も『福島県短歌選集』を読む。 (つづく)
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