2015年08月20日12時42分掲載
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反戦・平和
「安倍政権と沖縄、そしてアジア」(下) 日米両超大国連合対日本の一県の対立というの前例は全くありません ガバン・マコーマック
疑問なく安倍政府反対の声が最も強いのは沖縄です。安倍訪米から1ヶ月後、翁長雄志沖縄県知事が米国を訪れました。翁長のメッセージは安倍が米国に伝えたのとは逆のものでした。オバマ大統領に約束した海兵隊の新基地は安倍の米国サービスの要ともいうべき重要なものですが、翁長は新基地には反対です。地元辺野古の名護市長選でも、市議会選でも、県知事選でも衆議院選挙も、自民党は基地容認候補にお金も人も惜しげなく注ぎ込んだのですが、県民は新基地反対派を選び、最近の沖縄の世論調査では、80%以上が新基地建設に反対しています。2014年、大多数が反対でもそれを無視して建設を強行する、それは安倍が米国議会で自由と民主主義推進に向け、積極的に取り組みますという宣言とどうつながるのでしょうか。
◆70年、差別、いじめ、脅迫、買収、欺瞞の対象になった沖縄
沖縄県民には、シニカルに響いたに違いありません。沖縄県民の権利は日米安保の中で繰り返し、繰り返し蹂躙され続けてきました。
属国の中でも特に沖縄は東京からは辺境の県として、過去70年、差別、いじめ、脅迫、買収、欺瞞の対象になり、軍事基地化を押し付けられてきました。もう、たくさんだ、という声は沖縄全体に広がっています。基地返還後、その跡地が産み出した経済効果は大きく、基地は経済発展の阻害要因だと認識されたこともあります。戦争は悪だと沖縄では語り伝えられてきたこともあります。
日米政府が手を結んで沖縄に押し付けている辺野古の新基地は普天間の代わりと言っても、沖縄駐留の陸、海、空軍を収容できる巨大な複合基地です。中国を意識し、アジアの軍事支配の拠点として、今世紀の終わりまでの使用に耐えるように設計されました。
現存するキャンプシュワブを大浦湾に拡大する計画で、陸上の建造物を別に、辺野古の東、大浦湾の西側を160ヘクタール埋め立て、長さ1800mの滑走路を2本、10メートルの高さに盛り上げて作る、また272メートルの埠頭を持つ深い港も計画されています。埋め立て予定地は、日本の数ある海岸の中でも特に生物種が豊かな、真っ白な砂と青い海の美しいところです。環境省がユネスコの世界遺産に推薦したほどです。
◆辺野古「反対する市民に暴力」
2014年11月以来、「全力を尽くして」基地建設に反対するとはっきりと言明した沖縄県知事と安倍政府は対立してきました。今のところ、前任者の仲井真知事の埋め立て認可の過程を調査する第3者委員会、(専門家委員会とも言われますが)の結論を待っているようです。広く期待されているように、過程に何らかの瑕疵があり、埋め立て許可は無効だという結論を委員会が出せば、県知事は埋め立て許可の取り消しに動くだろうと見られています。そうなれば、日本政府は沖縄県を相手に裁判で決着をつけることになり、いずれにしてもなかなか解決の見通しはつきません。ちなみに菅官房長官は『裁判をしながら工事を進めることになる』と脅かしています」(4月26日)。
1945年、沖縄は本土防衛の「捨て石」とされ、島々は文字通り焼け野原となり、徹底的に破壊され、沖縄住民数十万が直接戦場で地獄を経験したのでした。今また中国と日本が対立し、何か有事が起これば、沖縄に同じ役目を押し付けようとするでしょう。沖縄県民の80%以上が建設反対であることを日本政府は十分理解し、とにかく既成事実をつくろうと工事を急いでいます。埋め立てや建設資材の入札をどんどん進め(注)、現場で反対する市民に暴力を振るって反対を潰そうとしています。
注:辺野古新基地建設―辺野古埋め立て工事契約6件、計415億円を公表沖縄防衛局」(415億円=4億6000万ドル)、琉球新報2015年4月20日
日本国政府対日本国の一県の対立は前例は無いことはないのですが、日米両超大国連合対日本の一県はもちろん前例は全くありません。歴史的出来事に違いありません。2014年8月の『琉球新報』の社説をご紹介します。
『住民を丸ごと、力ずくで屈服させようとする政府の意思が、これほどあらわになったことがあっただろうか。―中略―一県の圧倒的多数の民意を踏みにじって強行した例が他にあるか。百姓一揆弾圧を想起させるが、近代以降なら「琉球処分」と「軍官民共生共死」を強いた沖縄戦しかあるまい。沖縄にしか例がないなら差別的構造の表れに他ならない。国際的にも恥ずべき蛮行だ。』
◆軍事要塞ではなくて平和の架け橋に
しかし、安倍政府と沖縄の対立は日本社会の右傾化を示すものと考えないほうが良いと思います。安倍政権の誕生は、「選挙独裁」と言われる事態と密接に関係があります。2大政党政治を想定して導入された小選挙区制のもとで、社民、共産など左派の議席は、30%から3%になり、社民党は壊滅しました。一方、2014年の総選挙で、自民党は16%から18%の有権者の支持で、圧倒的多数の議席を獲得することができたのです。
誰が選ばれても政治は変わらないと思って棄権した人々も多かったのでしょう。少数の国民の支持を背景に、安倍は政策諮問委員、内閣法制局、日本銀行、原子力規制委員会、NHKなど日本国の方向を左右する重要なポストに自分の仲間を送り込みました。辺野古新基地建設も、原子力発電再開も、秘密保護法も、集団的自衛権行使容認も、改憲にも一般市民は賛成ではありません。しかし、安倍は、有権者が選んだのだからと安倍式改革を強行することに熱心です。
翁長沖縄県知事は、『辺野古の問題で、日本と沖縄との関係は対立的で危険なものに見えるかもしれないが、そうではない。沖縄の基地の問題解決は日本が平和を構築していくのだという意思表示になり、沖縄というソフトパワーを使っていろいろなことができる。様々な意味で沖縄はアジアと日本の架け橋になれる。』
と述べています。軍事要塞ではなくて平和の架け橋を強調しました。
沖縄の発展は、アジアとの友好的関係なしではあり得ないことです。もちろん日本国もアジアとの交易や交流なしに、やっていけません。わざわざ挑発的態度に出るのは、日本の自滅策であることは明白です。
去年の日本の一人当たりのGDPは37、000ドル、シンガポールは58、000ドル、香港は40、000ドル、台湾は23、000ドルという数字がでています。日本はもはやアジアで一番豊かな国ではないという自覚と嫉妬が、「嫌韓憎中」の形で表現されるのでしょう。安倍政府は、そういう日本人の心理を利用しています。
しかし、経済発展はしたい、中国とは対立を辞さないというのは両立しません。日銀のQE(金融緩和)は、米国経済のテコ入れになっても、日本の景気回復にはならず、経済破綻の危険性がある、と専門家が警告しています。社会の格差が少ない平等な社会の方が安定した経済発展ができるというのは定説です。先の戦争からも、連日報道される中東での戦闘を見ても、戦争は悪の根源だというのは明らかです。
言うまでもないことですが、軍隊は戦争で相手を殺すことを想定し、軍事訓練は大量殺傷の練習です。2度と戦争はごめんだと思わなかった人はいなかったあの70年前の気持ちを理解し、継承するのは次の世代の義務です。沖縄から発信する基地反対、命こそ宝という平和のメッセージから、日本の平和で友好的アジア関係が生まれることを信じています。
最後に2014年一月、長年基地反対運動を続ける沖縄市民に外国から支持と連帯を表そうと、「海外識者・文化人声明「辺野古新基地中止を」)という声明を発表しました.沖縄の争いが、世界的にも市民対験力、地方自治体対国家、立憲主義対憲法を壊す体制側という不正義を問うものであり、世界に共通するものだと思います.あくまでも非暴力に徹した反対運動の粘り強さには本当に頭が下がります.美しい大浦湾を守ることは、世界のあちこちで地味な市民運動を続ける市民に大きい励ましになると思います。
Gavan McCormack,
Tokyo, 21 June 2015
ガバン・マコ―マック
オーストラリア国立大学名誉教授。歴史学者。専門は、東アジア現代史、日本近現代史。20年以上沖縄へ通い、「沖繩は、国家に抵抗する市民お民主主義の力を見られる場所です」と語る。邦訳された著書に
松居弘道・松村博訳『空虚な楽園――戦後日本の再検討』(みすず書房, 1998年)
吉永ふさ子訳『北朝鮮をどう考えるのか――冷戦のトラウマを越えて』(平凡社, 2004年)
新田準訳『属国――米国の抱擁とアジアでの孤立』(凱風社, 2008年)
など。
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