2015年08月26日14時13分掲載
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沖縄/日米安保
安保法制関連法案は「日米ガイドライン」ための国際法整備なのだ
現在参議院で審議中の安保法制関連法案をめぐってとんでもない文書が出てきた。お盆前の8月11日の特別委員会で、共産党の小池晃委員が防衛省統合幕僚監部の内部文書を暴露したのだ。内部文書は「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)を実施していくための整備法として10本もの安保法制関連法案の改正や変更が必要であることが示されており、法案の成立を8月とするスケジュール等も書き込まれていたため、委員会は「国会審議中であるのにどういうことか」「国会軽視だ」と紛糾した。(上林裕子)
内部文書は「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)及び平和安全法制関連法案について」という49ページのもので、11日の法案審議の際にはそのうちの7ページが資料として提出された。事前通告なしで文書について質したため、中谷元防衛相は「文書が統幕で作成したものかどうか答えることはできない」と述べ審議は中断した。
お盆明けの19日に再開された委員会で中谷防衛相は、「文書は自身が法案の分析・研究のために作成を指示したもの」であることを明らかにしたが、あくまで研究・分析のためであり、法案の先取りではないと突っぱねた。内部文書については20日に市民団体がインターネットで全文を公開している(http://bit.ly/1J6Z54M)。
中谷防衛相の説明によると、法案の閣議決定後に法案に関しての研究・分析を指示、それに基づいて作成された文書を使って5月26日にテレビ会議を実施した際にこの文書によって説明が行われたという。参加していたのは統幕監部の高官や陸・海・空各自衛隊の指揮官クラスなど350名とのこと。これだけのメンバーがそろって「研究・分析のためのミーティング」を行ったという説明は無理があるだろう。
しかし、この文書を見ると、安保法制がなぜ11本もの法律をまとめて出したのか。それは新日米ガイドラインを動かしていくために、これらの法律が必要だからだ。言い換えれば、安保法制は日米ガイドラインを実施するための国内法なのだ。
統合幕僚監部が安保関連法案の成立を前提に詳しい文書を作成していたことに対し、「この文書には憲法上見過ごすことができない問題がある」として63人の憲法学者が「統合幕僚監部内部文書に関わり国会の厳正なる対応を求める緊急声明」を発表した。
21日に記者会見を開いた憲法研究者は「自衛隊を統合運用に当たる組織が、未だ成立していない合憲性に疑義がある法案の成立を予定して検討課題を示すことは憲法政治上重大な問題である」とのべている。
憲法研究者の緊急声明ではこの内部文書の問題点を以下のように指摘している。
(1) 文書を作成した統合幕僚監部は自衛隊を統合運用する組織であり、その統幕監部が主管となって「日米共同計画」という軍事作戦計画策定するとされている。このような軍事作戦の策定・運用に当たる組織が合憲性に疑義のある法律の成立を予定して検討課題を示すことは重大な問題。
(2) この文書は日米ガイドライン実施のための国内法整備が今回の安保法制であり、ガイドラインこそが日米防衛当局にとっての最上位規範であることを露骨に示している。ガイドラインは政府が米国と結んだ政策文書であり国会の合意や審議を経たものではない。
(3) さらにこの文書では本来国内法上の根拠を必要とするはずの自衛隊の運用課題もガイドラインのみを前提に示されており、重大な国会軽視であり、独走である。
(4) 内部文書には、ガイドラインにも記されていない「軍軍間の調整所の設置」や南スーダンへの駆け付け警護などの業務の追加や南シナ海における警戒監視などの検討課題を明記するだけでなく、「日米共同計画の存在の対外的明示は抑止面で極めて重要な意義を持つ」と明記。
(5) これらのことは、この文書が一般的な分析・研究のためのものではなく、法案成立を前提に自衛隊がとる運用施策を速やかに実現することを促す文書であることを示しており、議会制民主主義のプロセスよりも防衛実務を優先した対応であり「軍部独走」の批判をまぬがれない。
(6) ここで挙げられている駆け付け警護における武器使用基準の緩和や平時からのアセット(艦隊や航空機などの装備品)防護、在外邦人の救出など武力行使に直結する内容であることも見逃せない。文書は法案施行後こうした課題を直ちに実施することを予定している。
(7) 総じてこの文書は、ガイドラインに基づいて事実上の武力行使を含む「切れ目のない」自衛隊運用の課題を挙げるもので、平和主義に基づく対外関係の推進に真っ向から反対するものになっている。
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