2015年08月28日17時21分掲載
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安倍政権を検証する
戦後70年の安倍談話と米・外交問題評議会
安倍首相の戦後70年談話は英国など海外の新聞やインターネット空間で様々に批判されているが、同時にマスメディアの支持率調査によると、これによって安倍首相の支持率が少し回復したとされる。共同通信の世論調査では安倍内閣の支持率が7月の37.7%から43.2%に反転上昇した結果となった。参議院の安保関連法案特別委員会では質問に立った自民党の森まさこ議員がそのことで安倍首相を絶賛していたのも記憶に新しいところだ。
森議員は安倍首相が談話に「反省、お詫び、侵略、植民地」という4つのキーワードをすべて盛り込んだことを称えた。当初は「お詫び」はしない、と見られていた安倍首相だったが、最終局面でそれらを加えて、その結果、支持率が一定程度回復した。そればかりではなかった。韓国やその他のアジアの国からも一定の評価を与える声明が出たのだった。安倍首相を批判する側からは安倍首相の個人の気持ちがそこに反映していない、とか、日露戦争を賛美しているとか、抽象的に過ぎて本質に踏みこんでいないとか様々なものがあった。しかし、戦後70年談話が安保関連法案を参院で可決したい安倍首相にとって幾ばくかであれ追い風になったことは間違いなさそうである。
戦後70年談話を発表するに際して、安倍首相の最終局面にどんな経緯があったのだろうか。そこで参考になると思われるのが米国の対日政策を形成してきた人々の動向である。というのも、すでに報じられているように安保関連法案や憲法九条の解釈改憲が、安倍首相個人の歴史修正主義から来る政策というよりはむしろ、その背後に日米同盟を推進したい米国の思惑があることがはっきりしてきたからである。
アメリカの外交問題評議会(Council on Foreign Relations 略してCFR)は外交誌「フォーリン・アフェアーズ」を刊行している組織で、米国政府や国際機関などに大きな影響力を持っている。ソ連封じ込め政策を提唱して冷戦時代をデザインしたジョージ・ケナンもCFRの会員だった。そのCFRのウェブサイトに8月14日付で日本研究者であるシェイラ・スミス氏による論考’Abe Focuses on Japan’s “Lessons Learned”’が掲載されている。これは安倍談話が公開された直後のタイミングである。
この論考でスミス氏は安倍首相が踏み込まなかった様々なデテール(たとえば従軍慰安婦問題など)について、言葉が足りなかったと批判をしつつも、最終的には「ともかく今は談話で触れられなかったことよりも、触れられたことに注目しようではないか」としている。少し長くなるが、論考の結論部分を引用したい。
First, Abe reinforced his country’s commitment to regional reconciliation and the principles of peace outlined in Article Nine of the postwar constitution. Second, he spoke of the “quiet pride” of those postwar Japanese who rebuilt their country, and outlined their continued desire for shared peace and prosperity with their Asian neighbors. Finally, he has also done what no previous prime minister has done - acknowledged with gratitude the tolerance of the very people Japan harmed most deeply in last century’s war, and credited them with his nation’s postwar recovery.
それは次のようなことだという。
1、アジアで和解を求めるコミットメントと憲法9条の平和観
2、アジアで隣国と平和と繁栄をシェアする方針である
3、日本の戦後の復興を支えたのが寛容なアジア諸国であったことへの言及
これを読めば理解できるとおり、外交問題評議会の論客は安倍首相の戦後70年談話を大筋で肯定している。先述の通り、この組織は世界の外交に影響力を持っているだけでなく、同時に米国の影響力によって政治を実際に動かしていく推進力にもなっている。安倍首相の戦後70年談話を評価するらしいツイッターのメッセージがやはり米国の日本研究者であるジェニファー・リンド(Jennifer Lind)氏などからも発信されている。リンド氏はツイッターで、安倍首相の戦後70年談話で日本での内閣支持率が反転上昇したことを発信している。
憲法問題で揺れている日本国内でこの談話を目にするのと、アメリカやアジアの他の国で目にするのと、そこには日本ではわからない差異があるのかもしれない。それは安倍首相が談話の中身を当初の予想に反して、変えたということ自体にあるのではなかろうか。当初は想定されていなかったのに、なぜか最終局面で談話に4つのキーワードがすべて盛り込まれたことの中には、私の想像なのだが、米国のキャップが機能している、というシグナルが含まれているのではないか、ということである。安倍首相の歴史修正主義を心配するアジア諸国の人々に対して、安倍首相の戦後70年談話の向こうに、日本を戦前の日本に引き戻さない保証人としての米国の大きな存在感を密かに示したのではなかったのだろうか。だからこそ、安倍首相の文章が首尾一貫した精緻なものというより、むしろ何か急ごしらえに切り張りされたような印象すらあることも、メッセージとしては逆に有効に機能しうるかもしれないのである。
村上良太
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