2015年08月30日12時43分掲載
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核・原子力
「広島、長崎への原爆投下、国際裁判の対象」 〜ロシア下院議長の発言を読む
今年の8月5日、ロシア連邦議会のセルゲイ・ナルイシキン下院議長が、モスクワ国立国際関係大学で行われた広島・長崎への原爆投下70周年をテーマとする円卓会議で標記のように発言し、ロシアや日本をはじめとるす各メディアが報じた。
ナルイシキン氏はプーチン大統領の側近の1人で、ロシア歴史学会の会長も務めており、以前にも同様の発言を行っている。
改めてロシア歴史学会のホームページに掲載された発言全文を読んでみた。出だしはこうだ。
「明日8月6日は、米国軍機が同国の政治指導者の命令により日本の都市・広島へ原爆を投下してから70年、8月9日には長崎に投下された。それは最初かつ今日まで唯一の、核兵器が実戦使用された例だ。
この悲劇の70周年を、世界中は注目すべきだ。だが、残念ながら今の世界には、これらの投下とその詳細、恐るべき結果、この犯罪を誰が実行したかに関する理解を、歴史から消し去ろうとする勢力がいる。この記憶は、ナチスと日本の軍国主義者たちがやったことに関する記憶に劣らず重要だ」
ナルイシキン氏は、記憶を消そうとする勢力のことを含め、以下のように続けた。
「『この罪が罰されることはない』という幻想は、非常に重大な結果につながりかねない。それは今、第二次世界大戦の歴史の改ざんと、NATO(北大西洋条約機構)の侵略能力の増強が同時並行で進んでいる危険を見れば明らかだ。
西側が軍事行動に走り、人命を軽視していることは、すでにユーゴスラビア、イラク、リビア、シリアで何十万という無辜の犠牲を生んだことから明らかだ。今、そのリストに、かつては平和だったウクライナも加わった。ウクライナでは1年半にわたる内戦で、国連の統計では7千人が死亡した。他のデータでは犠牲者は数万人に上る。
これらすべてに加え、広島、長崎の記憶は、われわれロシアの歴史にとっても特別だ。破壊力を誇示するような広島と長崎へのアメリカの攻撃は、敵を倒すだけでなく、当時の同盟国であったわが国(ソ連)を脅すためだったに違いない。もちろん脅しは通じなかった、しかし、第二次世界大戦の最終局面は、疑いもなく新たな世界的対立の前兆だった。そのことは、悲しいが有名な『ドロップショット作戦』のような対ソ戦計画の策定を米国が急いだことにも示されている。
幸い、ソ連の科学と防衛の能力、および戦略的核均衡の達成のおかげで、対立は第三次世界大戦にはならず冷戦となった。それは、人類に少なくない犠牲を回避させるものでもあった。
米英は、原爆開発について、一般的な特徴でさえ同盟国ロシア(当時はソ連)には知らそうとせず、将来の核エネルギーの問題について事前かつ共同して議論するということもまったく望まなかった。しかしそのことは、彼らの活動を秘密に保つのに役立たなかっただけでなく、原爆がソ連抜きで造られただけでなく、ソ連を狙って造られたことをも示した。
事の本質は、米政権が1945年当時、反ヒトラー連合の諸国民の共同闘争の遺産を悪用した、ということだ。元々、大規模な原爆計画は、ナチスの同様の計画への対抗に過ぎなかったのだから。
残念ながら米国の歴代政権は、『冷戦』終結後のロシアの信頼や、9・11テロ事件後の世界の同情を悪用している。それは実際上、広島と長崎の記憶を社会と専門家の議論から遠ざけるものだ。しかし、その重大なページ抜きでは、人類の歴史は不完全かつ不誠実なものになる。
国際法学者、哲学者、歴史家、軍事科学の専門家たちは、今日に至るまで議論をしている。『原爆の使用は許されることだったのか』と。議論の余地の無いことが1つある。『米国が1945年に選択した手段は、人道的理由にも、軍事的必要性にも基づいていなかった』ということだ。
確かに、日本の軍人たちは当時、中国、朝鮮、その他のアジア諸国の無辜の市民におびただしい悪事を働いた。それらの行為に対し、文明的な人類は、東京及びハバロフスクの裁判の判決をもって文明的な対応をした。しかし、広島、長崎両市の民間人は、そうした犯罪には関係なかった。
『もしヒトラー政権が、例えば当時入手可能だった化学兵器を用いて、欧州の一連の都市を殲滅していたとすれば』と考えてみてほしい。そうなれば、ニュルンベルク裁判で新たに起訴されたのではないか?もちろん、そうなっただろう。
しかし、日本の都市への原爆投下は、人類史上唯一のことなのに、今日まで国際戦争法廷での審理事項にはなっていない。今のところは。しかし、周知のとおり、人道に対する罪に時効はない。
あの行為がまったく非人道的で均等性を欠くものであったことは、米政権にも明白だろう。にもかかわらず、彼らは歴史を忠実に解明するのではなく、とにかく記憶から消したがっている。それは平和と安全保障のためではなく、国のイメージを考えてのことだ。
今の(オバマ)政権は、広島と長崎の悲劇を隠そうとはしていないし、それは不可能だが、当時の米国の指導者たちの偽善とシニシズムを隠したいと思っている。当時の行為は、現代の米国の政策にも影を落としている。例外主義、自らの無謬性、思い上がり、という同じ思想が継承されている。しかし、広島と長崎の悲劇は、最早いかなるときも、誰であれ、忘れてはならないことだ」
・・・以上だが、皆さんの感想はいかがだろうか。
確かに、米国の行為は非難されるべきものだった。「人道に対する罪」というのは、そのとおりだ。
同時に、この発言を読んで思うことは「ロシア自身、これからどうするのか」ということだ。「そこまで言うなら、自国のものを含め、世界の核兵器を一刻も早く無くすために本気の行動を採るのか」と。それ無しには、ロシアもまた「偽善とシニシズム(冷笑主義)」の持ち主との批判を免れないだろう。(西条節夫)
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