2015年09月08日23時16分掲載
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文化
【核を詠う】(195) 『福島県短歌選集』(平成25・26年度)から原子力詠を読む(8) 「収束のつかぬ原発汚染水に基準値超えるノドグロの出づ」 山崎芳彦
『福島県短歌選集』を読み続けているが、筆者の事情で前回から長く間を空けてしまったことをお詫びしなければならない。この間、戦争法案をめぐって、その廃案を求める大きな運動が前進して、さらに広がりを見せていることに、憲法破壊・唯我独尊の安倍政権の許しがたい政治への怒りの高まりに、小さくとも筆者自身にできることを為していきたいとの思いは強い。福島第一原発事故による被災にかかわって詠われた作品を抄出させていただきながら、改めて原子力発電がひとたび過酷事故を引き起こせば、人々の生活をどれほど深刻な苦難に陥らせるものかについて考えさせられ、同時にその苦しみや困難の現実の中で、確かな日々の生活を5年を越えて維持している人びとについて、思うことは多く、きれいごとだけでは済まされないさまざまな「生」の姿があるに違いない。原発事故被災により強いられた苦難の数々があるに違いない。戦争法を企む安倍政権は、事故被害者の苦しみの現実を無視し、環境破壊の深刻さを無視し、「原発回帰」にまっしぐらである。それだけでなく、核燃料サイクル事業の現実化への取り組みを策謀している。その陰に核兵器保有への企みが見える。
戦争法の成立へ多くの人々の反対を無視して、「説明」するほどにその憲法違反の内容が明らかになっても「憲法解釈権は総理である私にある」など無茶苦茶を承知での強硬姿勢を押し通す安倍首相のもと、原子力政策でも同じ姿勢で福島第一原発の過酷事故とそのもたらした災厄を無かったことにするように、原発再稼働の強行路線を進めるとともに、「核燃料サイクル」事業を国が関与するシステムで復活させようとする企みを具体化させようとしている。すでに破綻しているといわれる「核燃料サイクル事業」に国の「悪魔の息」を吹き込んで原子力マフィアグループに活を入れ、核兵器からエネルギーの問題、社会文明、人々のライフスタイルのあり方にかかわる「プルトニウムの時代」への道を開こうとする企みだといえる。プルトニウムは自然界に存在しない原子であり、その名の由来は「冥王星」(プルート=冥土の王)にあると、高木仁三郎さんがどこかに書いていることを思い起す。
核燃サイクルとは、原発の使用済み燃料からウランとプルトニウムを分離し(再処理工場)、そのプルトニウム燃料として高速増殖炉で発電する(あるいはウランと混合したモックス燃料を軽水炉で燃やし発電するプルサーマル)わけだが、そのサイクルのためには「再処理工場」の存在が必須で、ここでプルトニウムを抽出しなければサイクルは実現できない。この再処理工場については株式会社の日本原燃(原発を持つ電力会社の出資で設立)の六ヶ所再処理工場(青森県六ケ所村)を建設しているが当初の完成予定から20年近くたってもまだできておらず、完成時期は22回も延期されて、建設費に2.2兆円を費やしているのが現状だ。安倍政府のもと、経済産業省はこの再処理事業について、経産省所管下に再処理を担う新たな認可法人をつくり国の関与を強めることで再処理事業のための体制強化を図ろうとしている。これは、核燃サイクルの肝になる再処理事業に国の支配を強めるということで、プルトニウムを主役とする高速増殖炉やプルサーマル発電(核発電)を永続化するという原子力政策を持ち続けるということであり、これまで以上に原子力依存社会体制をつよめ、核兵器の生産能力を強めることにもつながる。核燃サイクルの下での核発電の危険性は、まさに「冥土の王」の権力にふさわしく、この国はもとより世界的な破壊力を持つ。
このような政策を、安倍政権は進めようとしている。戦争法を強行成立させようとしている政権の原子力政策がプルトニウム増殖システムを構築するものであることも見据えなければならない。
前回から間を置きすぎてしまったが『福島県短歌選集』の原子力詠を読み続けたい。
◇三田享子◇
子の車に揺られ揺られて四十キロ向かふは田村市都大路へ
我が山の放射線量高ければ国道に立ち杉山眺む
三年ぶりの威風堂堂の杉山は原発事故など感ぜぬ風情
汚染せる山の行くすゑ案じつつ鶯の鳴く山を後にす
山あひの家並の除染済みたるも住む人はなく山吹の咲く
平成25年度 5首
◇三星慶子◇
指をもて害虫捕らへ農薬も撒かぬ畑にセシウムはあり
春耕の終へたる畑の真ん中を熊の足跡林へ続く
平成25年度 2首
◇宮崎英幸◇
基準超ゆる外部被曝線量にショック受けたり妻と吾とは
他人事と思ひ到りし「黒き雨」よもや原発事故に遭ふとは
処分場決めずに除染促しぬ当事者意識無き野田首相
「明日の見えぬ暮らしに不安」と訴ふる原発避難者の言葉身に沁む
二年経しに除染進まず県内に戻れぬ避難者一万数千人
生計の立たざる故郷に見切りつけ移住決めしと被災者言へる
平成25年度 6首
除染する人のやり繰りつかぬらし吾が町内の除染進まず
猪豚に農作物を荒らされて帰るに迷ふ帰還難民
収束のつかぬ原発汚染水に基準値超ゆるノドグロの出づ
帰還への希望あきらめ吾が町に移り住みしと避難者言へり
平成26年度 4首
◇三好幸治◇
月知るや青める大気に包まれて浮かぶ地球の原発事故を
線量の惨を語れば疎まるる側に立たされ沈黙の貝
「原発は平和利用」の屁理屈をメルトダウンがどかんと砕く
地球儀を逆さに見れば核兵器無き国並ぶ半球がある
平成25年度 4首
ありありと原発事故の地獄絵図蘇り来ぬ「吉田調書」に
原発の水素爆発にたぢろがぬ面面が見ゆ「吉田調書」に
全電源喪失のなか血みどろのあがきが見ゆも「吉田調書」に
原子炉に海水入るる決断が簡明に見ゆ「吉田調書」に
絶望の淵にありても諦めぬ人らが浮かぶ「吉田調書」に
福島をチェルノブイリになすまじの念力が見ゆ吉田所長に
今以て嘆く心と立ち上がる心に惑ふ原発事故に
福島に他県の「指定廃棄物」埋めよの言に打ちのめさるる
何故に「吉田調書」を捻じ曲げて記事となししか「朝日新聞」
平成26年度 9首
◇御代テル子◇
師の歌集『渚のピアノ』ここまでと青きひもをば天よりたらす
平成26年度 1首
◇武藤昭三◇
春雪の下に芽を吹く稚草(わかくさ)の核にも負けぬ確かな緑
茜色の日山の峯に立ちのぼる山霧はるか核まだ消えず
平成25年度 2首
◇宗像友子◇
この年は四年振りにてわらび食ふしみじみとして山の香の立つ
平成26年度 1首
◇村越ちよ◇
長引ける避難生活富岡の数多の人は何処(どこ)を目ざすや
平成25年度 1首
◇守岡和之◇
「あいさつは仲良くなれるおまじない」とあらたな避難地の標語板に
あたらしき避難地の遠野の柴山にセシウム窺い栗拾いいる
セシウムの悲風福島を晒すままに策すすまぬは無策にひとし
福島の心逆撫で形だけの公聴会で秘密法とおすとは
原発の被災三年相双は未曽有のなかに置かれしままに
中島の清水寺の襖絵に心足らうは久し被災者われは
不起訴とは十五万ああわれサリンより遥か大罪なるに
東雲よりバスに乗りきて夢の島の福竜丸を見て被曝をおもう
平成25年度 8首
消毒で蠅とも息も絶え絶えにわれもセシウムに悶え三年に
舌刀で原発禍の傷より深くサテアンに続き金目発言にて
古里を金で買えるなら買って返せ金目発言の環境大臣
避難者われら置き去りに原発輸出の旗ふる二代の総理
避難者を虫螻のごと原発の輸出の旗ふるは鼠(そ)輩にも劣る
平成26年度 5首
◇森谷克子◇
セシウムを含む雨かも吾が畑に黄菊盛る日降り続きたり
人を知らぬ猫が居るとう被災地に家猫達の二世・三世
平成25年度 2首
◇門馬 巌◇
我等見む黄砂の雲と核の雲放射能といふ現世の雲を
新しき世紀に生まるる核もあり原子の空にかぎりなき核
核の雲一気に震災未曽有の原発事故に核の気配す
原発炉に近づき難く核の雲双葉富岡の空見上げをり
放射能汚染減らすと核の雲その雲なきを安らぎとして
過去未来誇りし山河閉ざす核重たく覆ふ遠き核雲
福島に向ふ風評余波ならむいわき空に音無気味なり
風評に仮設住宅予定地の仲間励まし憩ふ一時
わが視野に入る範囲の衣食住風評多きこの年に思ふ
風評など何恐るべきみちのくの実りし作物今さらにして
平成25年度 10首
◇柳沼喜代子◇
手づくりの蕗(ふき)の薹(たう)味噌二年ぶりひとり味はふひとりの夕餉
避難せし身内なる子も中学生その地に慣れて離れ得ぬとぞ
平成25年度 2首
空間の放射線モニタリングわが家は除染の対象外とぞ
夜すがらの疾風のいまだをさまらず除染せし校庭砂ぼこり立つ
平成26年度 2首
◇柳沼 ステ◇
福島に集ひし歌人のスピーチは真摯な姿勢貫きてをり
震災の現世を詠み後世に伝ふるべきと幸綱語る
被災地を励ましくるる歌人等の二十三人あつく語らふ
平成25年度 3首
◇山内たみ子◇
天気予報の前に線量表示さる日常化するを気にかかりゐる
川を越し泳ぐ数多の鯉のぼりセシウム高きに大き口あけて
セシウムの検出なしとふるさとの甥の持ち来し新米光る
平成25年度 3首
彼の日より時の止まりて人住めぬ町とはなれり君のふるさと
鳥も食はず熟れ落ちしあとの柿の蔕線量いくらか下りし空に
事故直後の原発の真実三年余経しけふやうやく明かさるるとは
汚染なき土求めきて庭畑に野菜のいろいろけふは植ゑゆく
「生きてます」呼ばむとして声出でず病理解剖されかけて覚む
平成26年度 5首
◇山崎ミツ子◇
学び舎は廃校とならむか作業者の宿舎建ちたり除染始まる
帰るあてなき家の柚子熟るる下黒ねこがねてゐる身ごもりてゐる
三年目の仮設ぐらしか夕の虹仰ぎて人ら何を語らふ
孫子らの戻りて香焚く日の来むか線量計持ち墓石洗ふ
平成25年度 4首
草をまくるにこほろぎ数多動きをりこの被災地の小さき生きもの
人住めぬ里に野うさぎ殖ゆるらし冬草にころがる大小の糞
不耕作四年つづくるこの海辺に白鳥は来し幼鳥もゐる
船幾そういまだ横たはるわが里に復興は進めると帰還日示す
わが里の放射性廃棄物の黒き袋田に畑に日ごと増えゆく
平成26年度 5首
次回も『福島県短歌選集』を読む。 (つづく)
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