2015年09月09日20時44分掲載  無料記事
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政治

ナチスの指導者原理 最初は党内の掌握から 党の姿を見れば次の社会が見える 山口定著「ファシズム」を読む

ナチズム研究者の山口定教授はその主著の1つである「ファシズム」(岩波現代文庫)の中で、ナチスの指導者原理について触れていいます。ファシズムと言えば独裁者のリーダーシップということになりますが、最初はまず自らのよって立つ組織の原理として立ち上がってきて、それが後に権力掌握後は国家全体の指導原理となっていったとしています。 
 
ヒトラーの場合で見れば彼はまずナチスの前進であった排外主義かつ右翼のドイツ労働者党の党員となり、後に創設者を追い出して自ら党首になります。これが1921年のことでした。当初はドイツ労働者党は独裁的組織ではなかったのです。(もしそうであったなら、創設者ドレクスラーはヒトラーに党首の座を乗っ取られることはなかったでしょう) 
 
■役職を上からの任命制に  合議制の廃止 
 
 ヒトラーはひとたび党首の座に着くや、党内の合議制の機関を一切なくし、党内のすべての役職も下からの選挙を廃止して、ヒトラーが任命する形にしました。こうすることでヒトラーを頂点とする権力ピラミッドが党内に生まれたのです。もう党内に合議はいらない、という方針はすごいものです。 
 
■党首は党の綱領の上に立つ  綱領の解釈権は党首が握る 
 
  しかし、それでもその後にナチ党内で党の綱領をめぐる論争が1925年に党内の左派のリーダーから提起されました。すると党首のヒトラーはこの議論を握りつぶしたというのです。以後、ナチ党内で異論が出ることはなくなったとされます。ナチスのイデオロギーの解釈権は党首であるヒトラーが独占することになったのです。しかも、綱領自体が曖昧なもので党首が状況に応じていかようにもイデオロギーを変える余地があったことを意味します。 
 
■指導者原理が既存の序列を超える 
 
  本来は組織を統制する原理は上下の序列によって規定されていて、一種の官僚的統制として機能していましたが、ナチスの指導者原理はそうした序列を超えるようになりました。その裏には党首が下級のポストの人間にある任務を託した場合はその上級職の命令に縛られず、党首の指示だけに応えればよい、という風になっていったとされます。また党内の序列の中でいさかいがあった時の調停も党首の判断で即決できるような体制になり、そうしたシステムができていくのと同時に指導者への神話的な権威がもたらされていったと説明されています。 
 
ヒトラーが首相となり、ドイツ国家の独裁者となるのは1933年の春ですが、その前に1920年代にナチ党の内部で、独裁制が形成されていき、その組織の原理がやがて国民に貫徹されていくことになっていった、というのが山口定教授の研究報告内容です。 
 
1、党首が党内の任命権を独占する 
2、党首だけが綱領の解釈権を独占する 
3、既存の序列から党首による命令体系に組織が移行する 
 
独裁者を研究する場合に、まずその人物のよって立つ政党で何が起きているのか、このことが次の社会の有り様に結びついてくる、ということを山口氏の研究は示唆しているようです。 
 
 
村上良太 


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