2015年10月03日21時55分掲載
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文化
【核を詠う】(番外篇・戦争法) “暑い夏”の新聞歌壇に読む戦争法詠(1) 「毎日歌壇」(7〜9月)「狼が来るぞと言へばまとまるや 安保論議のやり方憎し」 山崎芳彦
安倍首相は国連の総会をはじめ各種会議での発言、核国首脳との個別会談において、安保法制(戦争法)の成立をさかんに吹聴しながら、日本の国連常任理事国入りの画策をしている。戦争法は米国から歓迎されているが、その他の国々の受止めは一様ではない。その戦争法が日本の主権者の猛反対、憲法学者や元最高裁判事、元法制局長官らの違憲宣告、大きな戦争法反対のうねりを無視して、全国から駆け付けた人びとが国会を包囲して戦争法の廃案を求める中で、主権者の声を聞かない国会議員の頭数のみを力としての強行採決によって「成立」したものであること、自ら「国民の理解は得られていない」と認めている法制であることは、もちろん言うはずもない。これからも安倍首相は、あらゆる機会をとらえて「積極的平和主義」、「国際貢献」、「同盟強化」などを言いながら、戦争法の宣伝を続けるだろう。だが、言えば言うほど、自衛隊、武力の行使拡大への懸念と不信が国際的に広がる可能性も強い。かつての軍国主義日本への記憶を甦らせる国やその国民は少なくないに違いないし疑念を募らせる国も多いだろう。
同時に、10月1日に政府は、防衛省の外局として「防衛装備庁」を発足させ自衛隊の海外での「活動」拡大に連動しての武器装備、また海外への武器輸出や他国との武器共同開発・生産、兵器産業と結びついての「死の商人」国家につながる体制づくりを開始しているように、戦争法に基づくさまざまな「国づくり」の策謀をすすめようとするだろう。産軍一体化への一里塚になりはしないか。
しかし、この国の主権者は、戦争法の本質を見抜いたがゆえに大きな反対運動、各界各階層にわたる戦争法廃止を求める声と行動を全国的に展開し、さらに持続していこうとしている。1年も経たずに参議院の選挙がある。アベノミクス経済の「第3の矢」は的を外すに違いないし、「一億総活躍社会」などと言う「一億総動員」を想起させる掛け声が、人々を苦しめることになる今後の安倍政治によってうつろな響きとなることは必至だろう。この国の多くの人びとは、戦争法国会の経過からも安倍政治の危うさと、その脆弱であるが故の強硬と唯我独尊、政権あって立憲民主主義なしの本質を見たに違いない。そのような政権が成立させた戦争法を有効な法制として認知することはしないだろう。9月30日に「安全保障関連法」と名づけられた戦争法が公布され、今年度内に施行という手続きに入ってはいるが、安倍政権の思うがままにはさせないとする主権者の意思を粘り強く、強固な力にすることで、その手続きを無効化させることは可能である筈だ。
そのためにも、声を挙げよう。できる行動をしよう。参議院選挙では安倍政権に目にものを見せてやろう。詠う人々は、詠おう。
この連載シリーズは「核を詠う」が主題だが、今回から「番外篇・戦争法」として、戦争法にかかわって詠われた短歌作品を記録していこうと考えた。(「核を詠う」作品は今後とも続ける。)
当面、7月〜9月の新聞歌壇に掲載された戦争法短歌作品を抄出してみる。筆者の読みによるものなので、作者、選者の方々の意に添わないことがあるかとも思うが、お許しを願うとともにご指摘もいただきたい。
今回は毎日新聞の「毎日歌壇」に選ばれた作品を記録する。選者は歌人の篠博、米川千嘉子、加藤治郎、伊藤一彦の各氏である。選ばれた作品の背後には膨大な戦争法を詠った作品があるだろう。様々な行動に参加した作者の作品も目立つ。
▼「毎日歌壇」(7月〜8月)より
◇7月6日◇
終戦時の年齢かたみに言いあいて学童疎開の話題はつきず
(篠 弘選 東京・松岡静子)
「戦(いくさ)はイヤ」お母さんならそう思う人の数だけいるお母さん
(米川千嘉子選 羽曳野市・豊田裕世)
◇7月14日◇
九条の思い出語るそんな日は声を潜めて話すのですか
(米川選 光市・山本幸晴)
学徒動員より生き永らへて七十年語り部となる最後の奉仕
(篠選 玉名市・中西玲子)
◇7月20日◇
戦争が近付いているんじゃない我われがどんどん戦争に近づいている
(加藤治郎選 鎌倉市・佐々木 眞)
◇8月3日◇
平然と「軍隊」という人のいて戦争知らぬ人の増えくる
(篠選 彦根市・北村千代子)
忘れたい記憶ばかりの八月に蔦は絡まることをやめない
(伊藤一彦選 村上市・香村かな)
子や孫は知らずともよし焼け跡に淋しく響きし缶蹴りの音
(米川選 大阪市・望月景子)
◇8月10日◇
終戦忌百回来ても戦死者が0であるゆゑ美しい国
(伊藤選 東京・吉竹 純)
君のいう祖国と私のいう日本同じ国だが何かが違う
(加藤選 浦安市・岩田あを)
散会の後にプラカードは下がる危機は今から立ち上がるところ
(加藤選 仙台市・工藤吉生)
狼が来るぞと言へばまとまるや安保論議のやり方憎し
(篠選 鹿嶋市・加津牟根夫)
◇8月18日◇
加害国と被害国とが入れ替わる立場立場でワールドニュース
(米川選 町田市・富山俊朗)
ほうあんがかけつしましたほうあんがつうかしました 五七は速度
(加藤選 東京・根本々々)
その朝はたいへん静かにやってきておにぎりにぎっていたりするんだ
(加藤選 伊勢市・猫丸頬子)
戦えば片方が負けると知りいるや守る守ると勝つのみを言ふ
(篠選 長岡市・渡辺康一)
戦争の記憶は消えず同盟の国に盗聴仕掛ける国も
(伊藤選 東松山市・巣田新一)
ゆっくりといも虫くねる夏の午後てんやわんやに強行採決
(伊藤選 仙台市・村岡美知子)
あの人は軍人さんと皆が呼ぶそんな日がまた近づいている
(伊藤選 奈良市・有川孝志)
鶴折らば平和の来むと信じゐる少女の夢よ永遠にあれ
(伊藤選 尼崎市・砂田真綸香)
◇8月24日◇
ぼくは最年少兵士だったキスは済ませたが恋は知らなかった
(加藤選 周南市・木下龍也)
「われわれ」と群れるを拒み「わたしの」と主張をつなぐ若きらのデモ
(伊藤選 和歌山・中西幸代)
三十年経て再び歩きおるシュプレヒコールは古しと思いつつ
(伊藤選 東京・佐藤佳子)
期待せず諦めもせず生きていく八月はじめの空の青色
(伊藤選 東京・柴野 春)
◇8月31日◇
見てごらん対話している人々を 殺し合わずに人でいるため
(伊藤選 福岡市・千島由貴)
出征の父の写真を拡大すればそのかなしみの現はるるべし
(米川選 大阪市・下川佳子)
戦争の体験談を聴く責任我らにありと女生徒の言ふ
(米川選 西宮市・仲 映子)
おそろしい夢をみてゐたはずなのに醒めたらもつとおそろしい国
(加藤選 秋田市・富樫由美子)
◇9月7日◇
わが年と戦後はいつも同い年われ亡き後も戦後よ続け
(伊藤選 白井市・毘舎利愛子)
戦争を知らずに育った私たち子にも孫にも知らせたくなし
(伊藤選 茂原市・麻生稚子)
ゆふだすきかけて総理は誓ひしか持たずつくらず持ち込ませずと
(米川選 静岡市・柴田和彦)
アウトだとジャッジが揃った法案をうまく説明する難しさ
(米川選 岩手・すなせあみ)
総理の私が言うんだから間違いはありません 信号を渡る
(加藤選 東京・柳本々々)
◇9月15日◇
世間ではなくて世界に恥じぬよう生きていきたい 揺れるカーテン
(米川選 東京・柴野 春)
被爆ピアノの音色を聴きにきませんか 夏の終はりに舞ひ込む葉書
(加藤選 秋田市・富樫由美子)
国民を死地に向かわせたりし過去また同じことしようとしてる
(篠選 恵庭市・恵庭 弘)
男の子生みて手柄と言はれける時代ありしがその子らも老ゆ
(篠選 堺市・永田トシ子)
◇9月21日◇
若者のかくもおりしやこの町に安保抗議する途切れなき声
(篠選 伊丹市・岡本信子)
低空を編隊なしてどよみくるヘリコプターはごきぶりの黒
(篠選 多摩市・智日テレサ)
戦争を知らずに生まれ死んで行くそんな願いが怪しくなりぬ
(伊藤選 筑紫野市・二宮正博)
◇9月28日◇
戦ひの終わりを見たるわれにして交戦おそる安保法案
(伊藤選 伊勢崎市・深澤 昇)
若者が年老いてから死ぬことが普通ではない時代に戻る
(伊藤選 潮来市・大野信哉)
車椅子でデモに参加する寂聴氏の坊主頭が画面に照りぬ
(米川選 久喜市・鈴木宏一)
次回は朝日新聞の「朝日歌壇」の作品を記録したい。
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