2015年11月18日19時52分掲載
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コラム
フランスの「戦争」 リビア軍事介入の責任はいつ誰がとるのか
このたびのテロ事件を受けて「戦争」をしかけられたとテレビで宣言したフランソワ・オランド大統領はフランスメディアのMediapartによると、’Le president place la France en etat d'urgence permanent’(大統領はフランスの非常事態を恒久化する)。憲法を改正して非常事態により対処できる戦争条項のようなものを盛り込もうとしているのだという。
オランド大統領は社会党の大統領だが、就任当初から軍事介入を次々と行ってきた。その理由はどこにあるのだろうか。考えられる1つの理由は軍需産業と原子力産業への配慮である。戦争になれば両者ともに存在感が高まり、また予算も拡大するからだ。このことは同じく不況にあえぐ安倍政権の武器輸出政策や自衛隊の海外派遣政策とも似ている。雇用拡大と産業界の要請を戦争で押し切ろうという姿勢である。
今、フランスはロシアや米国と連携して、Daeshをつぶす軍事作戦に突入している。アサド政権を擁護するロシアと連携するにはアサド政権とも関係を改善する必要があるが、オランド大統領は2013年の秋、アサド政権への軍事作戦をオバマ大統領と行う寸前まで行ったことが記憶に新しい。そのフランスが今、Daeshつぶしのため、アサド政権ともおそらくは交渉に入っているものと思われる。
しかし、遠い日本からフランスの動きを見たとき、まずはシリアへの軍事作戦以前に、サルコジ政権時代に行われたリビア侵攻とカダフィ政権つぶしによって起きたリビアの液状化をどうするか、そちらが優先事項ではないか、と思えるのだが。リビア国家が崩壊して諸勢力が入り乱れて戦闘が続いている中、リビアにDaeshと連携する勢力が入り込んで勢力を維持している。こちらの問題はなんといってもフランス国家に道義的責任と結果責任があることである。国の体制を外国勢力が軍事力を擁して変えてしまうというのはまさに戦争にほかならない。2011年にサルコジ政権が国連から認められたのはリビア市民を守るための中立的な介入であって、カダフィ政権つぶしではなかった。
そのことはフランスの極右政党である国民戦線が当時、盛んに警告をしていたものである。極右の国民戦線が反戦ポスターを作って、リビアへの軍事侵攻の悪を訴え、「サルコジ大統領は人殺し」と言っていた。国民戦線が「われわれは極右ではない」、と宣言して大衆政党として浮上するのはこの頃からである。国民戦線の新しい党首となったマリーヌ・ルペンはカダフィ政権をつぶしたら、イスラム原理主義勢力が勢力を伸ばしてフランスも危険になる、と訴えていたが、その通りになった。
2013年1月にフランスがマリ北部への軍事作戦、セルヴァル作戦を敢行しなくてはならなくなった理由もカダフィ政権の崩壊と兵器の拡散からである。さらにまたカダフィ政権の武器庫にあった兵器や、フランスなどが政権つぶしのために輸送した兵器は後にシリアへ流れたと言われている。もしオランド大統領が2013年にアサド政権への空爆作戦をアメリカと行っていたら、リビアと同様に国家が崩壊してしまっていただろう(すでに半ば、崩壊しているにしても)
フランスにとってはリビア軍事介入の責任を取ることが国際社会で要請されているはずだが、それをすっとばしてシリア(Daesh)との戦争に邁進したら、ブッシュ政権のアメリカと変わりがないという風に見られることになるだろう。
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