2015年11月29日23時54分掲載  無料記事
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「トマ・ピケティの新・資本論」(村井章子訳 日経BP社) 斬新な切り口の新・欧州論

  「21世紀の資本」で今春、日本のメディアでひっぱりだこになった経済学者のトマ・ピケティ教授による新聞コラムを集めたものが本書、「トマ・ピケティの新・資本論」(村井章子訳 日経BP社)である。数年に渡り、ピケティ教授が連載していた新聞はリベラシオン紙である。本書の中で大きく2つの論点があり、1つは広がりを見せる格差問題と税金について、1つは欧州経済危機への対応策について。もともと原書のタイトルは’Peut-on sauver L'Europe ?'(われわれは欧州を救えるか?)なのである。つまり本書は最新の型破りな欧州論とも言えよう。 
 
  ピケティ教授は「資本収益率(r) > 経済成長率(g)」で知られている。過去200年の経済を研究した結果、労働収入の伸びよりも、株や土地などの資産から得る収入の方が伸びが大きいことを実証したものである。この関係が維持されている社会においては格差が拡大していくとされる。 
 
  このようにピケティ教授は格差社会に対して鋭いメスを入れたのだが、そのことはリベラシオンのコラムにも反映しており、本書でも格差の源にある教育制度の問題や税制などについて精力的に語っている。 
 
  と同時に2012年にフランスで出版された時の序文にピケティ氏はもう一つ、本書の大きなテーマがあるとしている。それは欧州連合の未来である。リーマンショックの後、アメリカのバブルに巻き込まれていたことが露見し、さらにギリシア経済危機が重なり、欧州の金融機関が軒並み危機に陥った。統一通貨ユーロの危機が欧州連合を崩壊させるという暗い見通しも語られた。そのことについて、ピケティ教授はこう書いている。 
 
  「ほんとうの理由は、こうだ。ヨーロッパが直面している固有の問題、そして現在の危機の主な原因は、通貨同盟とECB(※欧州中央銀行)のそもそもの制度設計がまずかった、ということである」 
 
  「単一通貨を創設するということは、通貨同盟加盟国について為替投機をできなくするということだ。もはやフラン高ドラクマ安に賭けるとか、マルク高フラン安に賭けるといったことは、できない。だがこのとき、為替投機の代わりに、加盟国の国債金利の投機があり得ることに考えがおよばなかった。」 
 
  個別の国々が抱える財政危機に対しては、通常は国々で独自に通貨を発行して通貨量をコントロールすることで危機をしのぐ、いわゆる金融政策が行われる。税収が不足するため紙幣を大量に増刷して公的債務を払おうとすると、相対的に市場に通貨量が増えてその国の通貨価値が下落していく。しかし、そのことで輸出がしやすくなる。しかし、欧州連合では国々には通貨発行権がないため、個別に金融政策が取れない。これが欧州連合のアキレス腱と言われているものである。 
 
  では金融政策に代わるよい対策はないか?ピケティ教授は、そこでECB(欧州中央銀行)が「欧州共同債」を発行する必要があるという。つまり、欧州連合全体が苦境の国々に変わって信用を貸して、欧州全体で統一した金利で資金が集められるようにする制度のようである。 
 
  とはいえ欧州各国で財政事情が違っているため、国債金利には大きな差がある。たとえばドイツの国債金利とスペインの国債金利では大きな差がある。だから、「欧州共同債」を発行するにあたって、金利をいくらに設定するかを決めなくてはならないが、そのためには「欧州財政上院」という機関を新設して決めればよい、という。当然ながら、どの国がいくら欧州共同債を発行して資金を調達するかも、欧州財政上院で審議して決めることになるだろう。財政難の国が返済の裏付けもないまま欧州共同債を発行して資金を集めようとしたら、欧州連合全体の信用に傷がついてしまう。 
 
  「各国が独自の国債を発行する権利は妨げないが、単独で発行した国債にはユーロ圏としての保証はつかない」 
 
  確かにこの制度であれば欧州連合の中の経済的に弱い国々を全体で支えていくことができるだろう。さらに欧州連合で「欧州共同債」の買いオペを行うことで共同通貨ユーロの通貨量をコントロールすることもできるようになる。その行き着く先にはより大きな政治的統合がある。 
 
  「共同債を発行するためには、政治同盟を視野に入れた大胆な構想が必要になる」 
 
  ピケティ教授は夏に緊張が高まったギリシアの債務に関して、欧州連合全体で大会議を開くべきだと話していた。そこではギリシアだけでなく、さらにスペインやポルトガルなども含めた債務の実情と対応策を、欧州連合全員の課題として話し合うしかない、というのである。その主張の根拠がここで描かれている「欧州共同債」構想だったのだろう。 
 
■ピケティ教授へのインタビュー(France Culture) 
http://www.franceculture.fr/emission-hors-champs-thomas-piketty-2013-12-02 
 
■「21世紀の資本」のトマ・ピケティ氏が欧州メディアで引っ張りだこ <欧州諸国の借金問題を話し合う欧州大会議を開くべきだ> 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507081537113 


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