2015年12月15日22時15分掲載  無料記事
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アート・バックウォルド傑作選1 「だれがコロンブスを発見したか」

  かつてアメリカにアート・バックウォルドという風刺コラムニストが存在して、ニューヨーク・タイムズの定番の1つになっていた。その特徴は政界の時事的な話題に、想像を加えて事の本質を〜人間喜劇を〜描くことにあった。本書「アート・バックウォルド傑作選1〜だれがコロンブスを発見したか〜」は1980年から日本で翻訳出版されたシリーズの最初の本で、永井淳氏が訳している。 
 
  バックウォルドのコラムの特徴は政治を風刺した一種のジョークであるけれども、ニクソンやレーガンなどの政治家が登場し、彼ら自身が会話体で描かれていることで、それらは作者が想像のうちに風刺で描いたものなのだが、そのようなスタイルの政治風刺がニューヨーク・タイムズという新聞紙上で許容されて、人口に膾炙すること自体がいかにもアメリカだな、と当時思ったものだった。そのような風刺は日本の大新聞ではお目にかかったことがなかったからである。 
 
  記憶によればバックウォルドのコラム集の本邦訳は80年代に4〜5冊あたりまで出版されたと思う。しかし、今では書店で見かけることがなくなり、もっぱら古書店でしか見かけない本になってしまった。たしかに、そこで取り上げられるテーマ自体は過去の事象である。しかし、それではもはや現代に取るべきところがないかというと、そうではないように思える。 
 
  とくに現代日本においては政治が迷走し、多くの有権者は政治に対して、既存の政党に対して絶望を深めつつある、ということである。絶望を深めつつも、どうすることもできない無力感に襲われる人は少なくないだろう。そのような事態を招いているものは、人間存在そのものなのであり、つまるところ、そうした人間存在を笑う、ということは一種の健康さでもある。でなければやりきれないからでもある。 
 
  しかし、笑い方にも技術があるようである。アート・バックウォルドのコラムが貴重なのはその技術を有しており、それは軽く、しかも、後味が悪くならないことである。このような書き手が救ってくれなくては人間は狂気に襲われてしまうだろう。 
 
 
 
■晩年のインタビュー 
http://www.nytimes.com/video/obituaries/1194817109643/his-political-satire.html?playlistId=1194820770698 


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