2015年12月20日17時36分掲載
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田邊貞之助著「ふらんすの故事と諺」
仏文学者、田邊貞之助著「ふらんすの故事と諺」は1959年(昭和34年)の出版である。今から56年も昔の諺の本が今日、どのような価値を持っているのだろうか?
一読して感じたことは少なからず、今日ではあまりインパクトがなくなってきていることだ。「Argent comptant porte medecine = 現金は薬をもたらす」という諺もその1つで、「金の威力をたたえた諺」と解説されている。けれども、今日、そんなことは言わずもがな、と思える。逆に昭和34年、つまり1960年の安保闘争の1年前は金の威力の諺に「なるほどな〜そうかもな〜」と思う日本人がまだたくさんいた、ということなのだろうか。金の力は今よりも一般通念になっていなかったということだろうか。
50年も時がたってしまうと、当時の生活者の心理というものがほとんど理解できなくなっている。そればかりか、1980年代ですら、今になってみると、まったく異なった心性の時代だったのだ。
「ふらんすの故事と諺」には金の威力を語ることわざも多いが、空腹とか食欲を語ることわざもまた多い。
「腹さえ張れば大御馳走」
(Assez vaut festin)
「食欲は最もよい料理人だ」
(L'appetit est le meilleur cuisinier)
「食欲は食うにつれて出てくる」
(L'appetit vient en mangeant)
今日とは異なり、昔の日本人の多くは痩せていた。だから、あの頃の「健康優良児」というのは大抵、教室で一番太った子供が選ばれていた。昔の食品は「栄養満点」とか「ボリューム満点」ということが売りだった。当時は資本家とはチャーチルのような太った人を意味していた。
しかし、それではこの本を今読んでつまらなかったか、というとそんなことはなかった。諺コレクションは時代の空気を思い返すにはよい資料ではないか、と「ふらんすの故事と諺」を読んで思うようになった。時とともに人間の感覚は刷新されていき、一昨日の思いもわからなくなっているものだからだ。
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