2015年12月27日01時01分掲載
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コラム
私なりの今年のベスト「読書」編 熊沢誠(甲南大学名誉教授・労使関係論)
私なりの今年のベスト。まず「読書」のうち専門・一般書。表記なければ今年の刊行である。
現代日本の「空気」としての「反知性主義」の特徴は近代史・現代史への無知と判断停止だ。それに対抗すべく、私の読書の関心は狭義の労働問題から歴史、思想史、評伝などに向いつつある。この分野で「おもしろく」、示唆と感銘を受けた今年の収穫として──
・加藤典洋『戦後入門』(ちくま新書)
・『人びとの精神史』シリーズから
栗原彬/吉見俊哉編『敗戦と占領 1940年代』、
テッサ・モーリス・スズキ編『朝鮮の戦争 1950年代』、
栗原彬編『六〇年安保 1960年前後』(岩波書店)
・玉野井隆史『島原の乱とキリシタン』(吉川弘文館)
・澤地久枝『完本 昭和史のおんな』(文藝春秋)2003年
・小森陽一/成田龍一/本田由紀『岩波新書で戦後を読む』(岩波新書)
・高井としを『わたしの「女工哀史」』(岩波文庫)
また労働問題・貧困問題の分野では、丹念な考察であらためて教えられた作品、問題意識の新しい作品、もっとも知りたかったことに立ち入る作品として、次の諸作をあげる。もっともこの分野での読書は乏しく、見逃した労作も少なくないだろう。
・岩佐卓也『現代ドイツの労働協約』(法律文化社)
・西成田豊『近代日本の労務供給請負業』(ミネルヴァ書房)
・藤田孝典『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)
・森岡孝二『雇用身分社会』(岩波新書)
私のベスト第2弾は、「読書」の文学・小説部門である。部門別の読了冊数ではやはりトップ。なかには、若杉冽『原発ホワイトアウト』(講談社文庫)のような、「東大法学部卒」が自慢らしい若杉の「思想」と文章表現のあまりの低劣さゆえ、手を出して心から後悔した愚作もあるけれど、以下は、切実で感動的な、またはとても心の踊る作品だった。
・金原ひとみ『マザーズ』新潮文庫、2014年
・同『持たざる者』集英社、2015年
・宮尾登美子『寒椿』新潮文庫、2003年
・角田光代『紙の月』ハルキ文庫、2014年
・高井有一『この国の空』新潮文庫、2015年
・東野圭吾『天空の蜂』講談社文庫、1998年
・朝井リョウ『何者』新潮文庫、2015年
・ギリアン・フリン(中谷友紀子訳)『冥闇』小学館文庫、2012年
・ピエール・ルメートル(橘明美訳)『その女アレックス』文春文庫、2014年
・同(平岡敦訳)『天国でまた会おう(上)(下)』ハヤカワ文庫、2015年
金原も高井も朝井も心に迫るものがあるけれど、「おもしろい!」という点では、ルメートルの2作が、いくらか残酷な描写こそあれ、この年末年始、最高の贈り物ということができる。
熊沢誠(甲南大学名誉教授 労使関係論)
※上の文章は熊沢教授の了解によるFBページからの転載です。
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