2016年01月17日21時43分掲載
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文化
【核を詠う】(202) 『朝日歌壇2014』から原子力詠を読む(3) 「体内に残留放射能もつ不安おしこめて生きし六十九年」 山崎芳彦
「不意打ちの水爆実験の報を聞く 金時鐘(きむしじょん)の回想記を読みゐるさなか」(金時鐘著『朝鮮と日本に生きる』を読んでいるときに、北朝鮮の水爆実験を知った。) 山崎芳彦
短歌表現とは言えないが、1月6日の北朝鮮の水爆実験を知った時の1首である。
その時、筆者はちょうど在日韓国人である詩人の金時鐘の著になる『朝鮮と日本に生きる―済州島から猪飼野へ』(岩波新書、2015年3月刊)を読んでいた。そのこともあって、北朝鮮による水爆実験に対して強い怒りを持つとともに、日本のかつての植民地統治、そしてその後の米ソによる南北分断・同胞が殺戮し合う戦争から今日に至る朝鮮の人々の痛苦の歴史がいつまで続くのかという、悲しみの思いに沈まないではいられなかった。北朝鮮の核武装を止めるために何が必要なのだろうか。核保有大国と、その「核の傘」の恩恵を言う国々が北朝鮮に対する強い制裁を構え、特に米国が原子力空母や核兵器搭載可能な戦略爆撃機を朝鮮半島周辺に配備展開することで、独裁体制にありその国の人々を服従させている北朝鮮の姿勢を変えることができるだろうか。平和を目指す、もっと有効な手段を編み出す責任が、朝鮮の現状を生み出す原因を作った国々にあると思う。
決して、北朝鮮の水爆実験をはじめとする許しがたい行為を、ほんの少しでも容認するものではないが、金時鐘氏の回想記を読みながら、朝鮮の歴史、そこに生きた、生きている人々について思い、その歴史に深くかかわった、かかわっている日本の歴史と現在を思うとき、この地域の平和、非核化のためにこの国が果たさなければならない役割を考えていかなければならないはずだと思う。「米国の核の傘の恩恵」を言い、米軍基地を国内に置き、さらに海外に出ての米軍との共同軍事行動体制を作ろうとし、また武器の輸出、原発の輸出を進め、平和憲法を壊し、変えようとしている日本の政府、「戦争ができる国」を目指すこの国の現政権のさらなる継続を許してはならないのだと思う。
『朝日歌壇2014』の原子力詠を読むのは今回が最後になる。
◇9月1日◇
広島に育ちて毎夏ヒロシマを学びて思う「知らぬということ」
(佐佐木幸綱選 広島県府中市・内海恒子)
黙祷を捧げて水を飲むこれは何万人が飲めなかった水
(佐佐木・永田和宏・馬場あき子共選 大阪市・安良田梨湖)
サッカーのゴールネットの眞しろに青き巨鯨のごとき除染土
(高野公彦選 柏市・秋葉徳雄)
縦じわと横じわ深く交差させヒロシマに座すケネディ大使
(永田選 近江八幡市・寺下吉則)
「見解の相違ですね」と打ち切つた民への宣戦布告のやうに
(永田選 浜松市・桑原元義)
◇9月8日◇
体内に残留放射能持つ不安おしこめて生きし六十九年
(永田・馬場共選 アメリカ・大竹幾久子)
◇9月15日◇
数万が見上げて死にし原爆を上から見た人バンカーク氏逝く
(永田選 アメリカ・大竹幾久子)
広島で学徒兵なりし僧がつく鎮魂の鐘染む八月六日
(馬場選 津市・田中周治)
原発の廃炉は決めずわが町の避難受け入れ先を公示す
(佐佐木・高野共選 島田市・水辺あお)
九条と空気は同じ汚されてはじめて気づくいかに大事か
(高野選 東京都・無京水彦)
馴らされて馴れてしまって線量も気づけば忘れかけてるふだん
(高野選 福島市・美原凍子)
◇9月22日◇
棄てられし河豚の子海へ放たれて振り向きもせで真っ直ぐ潜る
(馬場選 いわき市・馬目弘平)
防衛はまず原発を無くすこと敵の着弾廃墟の日本
(佐佐木選 福岡市・南川光司)
原発の事故原爆と思いこむ認知症の母のおびえ止まらず
(佐佐木選 横須賀市・池田卓爾)
◇9月29日◇
広島は欲する時に水がなく欲せざる時神は与える
(高野選 豊川市・河合正秀)
◇10月6日◇
天災に人災に負け妻に負けおろおろ歩く昭和・平成
(佐佐木選 いわき市・馬目弘平)
◇10月20日◇
鳴り止まぬ線量計そそくさと済ます墓参り大熊町の彼岸
(馬場・永田共選 狭山市・黒後輝夫)
事故処理もままならぬのに再稼働不思議な国とアリスが笑う
(高野選 神戸市・川村 充)
汚染土を埋めし土よりふつふつと曼珠沙華炎(も)ゆ地の底いより
(高野選 福島市・美原凍子)
◇10月27日◇
原発に追われたる無人の葛尾(かつらお)村信号青の一つ点もれる
(馬場選 東京都・松崎哲夫)
枝道を鎖して入れぬ区間あり長い六号線息止め走る
(馬場選 福島市・青木崇郎)
◇11月3日◇
被曝量検査の通知送られて台風近づく日本列島
(馬場選 さいたま市・箱石敏子)
◇11月17日◇
相馬港新調査船就航す胸に手を当て港人達(ひとびと)見送る
(佐佐木選 相馬市・木幡幸子)
廃炉とう遠き地平や石蕗(つわぶき)は黄の花明かりひそとこぼせり
(高野選 福島市・美原凍子)
◇11月24日◇
福島へはもう戻れない富士山の見ゆるこの街にいつか慣れたり
(佐佐木選 国立市・半杭螢子)
被曝したヤマトシジミとカタバミが病むとふリポート読めば悲しき
(佐佐木・馬場共選 浜松市・松井 惠)
鹿親子セシウム茸くってゐる空砲打つて危険知らせる
(馬場選 前橋市・船戸菅男)
◇12月1日◇
チェルノブイリと福島の燕切ないね被曝のマーカー白い斑点
(佐佐木選 姫路市・綾部佳子)
銀杏(ぎんなん)の熟れて落ちたる実を踏みて金曜デモへ茱萸坂(ぐみざか)を上る
(永田選 東京都・白倉眞弓)
◇12月14日◇
拾壱にはさまれて参は哀しそう四度目の冬も二間の仮設住宅(すまい)
(佐佐木選 下野市・石田信二)
原発の賛否を表決する前に我が福島を歩いて欲しい
(佐佐木選 いわき市・馬目弘平)
一F(いちえふ)も二F(にえふ)も階(フロア)のことならず福島原発こわれし後(のち)は
(佐佐木選 青森市・白鳥せい)
今回で『朝日歌壇2014』からの原子力詠抄出は終わる。次回からも原子力に関わる短歌を読み続けたい。 (つづく)
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