2016年01月28日00時39分掲載
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反戦・平和
「慰安婦」問題の立法解決を求める会NEWS No.57(2016年1月10日発行)
(1)12/28「慰安婦」日韓外相合意 被害当事者ぬきの政府間合意に批判と反発広がる ― 関係国共同で全資料を精査し、明快な謝罪と名誉回復措置を ―
私たちは、かねてより、安倍首相や朴槿恵大統領に「慰安婦」被害者に直接会って被害体験を聞くよう強く要望してきました。昨年11月1・2日の日中韓、日韓首脳会談の前には、3ヶ国首脳に被害者当事者に会うよう求めた要望書を送付しました。
しかし、朴大統領が被害者に会うどころか、外務省関係者も被害者と意思疎通のないまま、頭越しに政府間合意を発表し、当事者や被害者の反発を呼んでいます。「今しかない、これしかない」と民間基金の支給の押し付けに走った20年前の「女性のためのアジア平和国民基金」の失敗を想起させます。再び、ボタンを掛け違ってしましました。
金大中、盧武鉉大統領が首脳会談でまったく言及しなかった「慰安婦」問題を、保守系の李明博大統領が強力に提起し、後を継いだ朴槿恵大統領が粘り強く主張して、政府間協議が続けられてきました。この韓国政府の変化を促したのは、2011年8月30日の韓国憲法裁判所の決定で、この決定を引き出したのも長年にわたって解決を求めてきた被害者たちの運動でした。
<被害者の主張は一貫、解決を長引かせてきたのは日本政府>
安倍首相らは、「韓国側はゴールポストを動かす」と批判しますが、被害者の主張は過去25年間一貫していて、謝罪と国家補償を求め続けてきました。その間、韓国政府が揺れ動いてきたことは事実ですが、問題を長引かせてきた責任は日本側にあります。「女性のためのアジア平和国民基金」という紛らわしいトリックで「国家補償」を偽装し、被害者や支援者をも揺さぶり続けてきました。
安倍首相は、2012年の自民党総裁選で「河野談話の見直し」を言明して、歴史の逆戻りを提起し、疑惑と混乱を広げて、揺さぶり続けてきました。とりあえず歴代首相談話は踏襲しましたが、明快な謝罪は避けています。さらに、「お詫びはこれで終わりにしたい」などと被害者・被害国を憤らせる発言を繰り返しています。米国の圧力もあり、年の終わりに、悪化した外交関係を取りつくろう形で、劇的な外相訪韓と政府間合意の発表が行われましたが、これで事態が打開でき、問題は解決に向かうのでしょうか? すでに韓国社会では賛否が分かれ、深刻な対立が起きています。今回の合意が4月の総選挙に向けた政争の原因になってきています。
今回の合意を検証し、とりあえず以下の問題点を指摘しておきます。
1.【説得力欠くお詫び】
「心からおわびと反省の気持ちを表現する」との文言の繰り返しは、1991年1月13日の加藤官房長官談話以来変化なく、被害者が求める「謝罪」には至っていない。
過去25年間の内外の研究成果を真摯に反映させれば、もっと広く、説得力のある、共感を得られる文言になったのではないか。
2.【筋違いの支援事業】
「被害者の心の傷をいやす措置」「支援事業」として政府予算で約10億円を一括して拠出するとしたが、被害者が日本に求めているのは「支援」ではなく、「謝罪と賠償」であり、筋が違う。
かつての「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金)と異なり、国庫から直接韓国政府が設立する財団に拠出する方式に転換したことは、前進だが、内容を明確にしないまま「10億円」という数字を強調して自賛する手法は、札束で解決を図るとの疑念を招く可能性あり。
3.【被害者無視の政治決着】
何よりも残念な点は、日本政府が、直接被害者の声に耳を傾け、対話してこなかったこと。当事者ぬきの外交当局同士の妥結・合意では、最終解決にならない。
韓国政府は、日本側の提案を受けて、すぐに結論を出さず、一定期間の猶予をもって、被害者当事者の意見を充分聞き、意見交換してから結論を導くという手続きを取るべきではなかったか?
拙速に合意し、再び問題をこじらせてしまった韓国政府の責任は重大です。(編集部)
(2)「慰安婦」問題の日韓外相合意の失敗から何を学ぶべきか?〔戸塚悦朗(元龍谷大学法科大学院教授・当会副代表)〕
2015年12月28日ソウルでの日韓外相合意の報道は大きかった(12月29日各紙)。「慰安婦解決で日韓合意」「日本政府は責任痛感」「10億円韓国財団に拠出」「首相「お詫びと反省」韓国に配慮」(同日東京新聞朝刊)を見れば、骨子は推測がつく。ところが、合意は、被害者ぬきでなされたので、被害者側は全体としては受け容れず、暗礁に乗り上げた。
私は、ソウルで開催された国際会議(11月17日東北亞歴史財団主催)の基調講演で、「日韓の和解のためには、結果も重要だが、被害者側が受け容れることができる誠実なプロセスによって解決を求めるよう努力することが基本である 」と強調した。ところが、今回の合意には、「誠実なプロセス」が欠けていたのだ。新年元旦には、日韓外相合意が「失敗だった」という意見が51%に達し、肯定的な評価は、43%に過ぎなかったという韓国の世論調査の結果が報道された(東京新聞朝刊)。
韓国の女性団体の呼びかけに応えて、1991年8月名乗り出てきた最初の元「慰安婦」ハルモニは故金学順さんだった。その勇気に励まされてさらに多くの被害者が運動に加わり、日本政府に対して謝罪を要求してきた。その被害者への誠実な謝罪をどう実現するのか?それが最大の課題だったはずだ。
ところが、安倍首相も岸田外相も被害者に会って謝罪しなかった。しかも、両政府は、被害者側と事前に協議する手間を省いた。だから、合意が被害者に受け容れられるかどうかは、誰にもわからなかった。それなのに、なぜこの段階で公表してしまったのか?教訓から学ぶ必要がある。民間基金設置による解決方式に被害者側が強く反対していた当時のことだが、私は、本岡昭次元参議院議員(参議院副議長で退職)と協力して議員立法による解決の道を開こうと努力し、被害者側と数年間水面下で交渉した。ようやく被害者側から歓迎の保証を得ることができたので、法案(戦時性的強制被害者問題解決促進法案)は2000年以来当時の野党共同で国会に8回上程された(保守派の賛成が得られず、法制定は実現しなかった)。今回も、被害者側の歓迎が得られるまで水面下の交渉を続ける誠実さが求められていた。
合意の内容だが、「道義的責任」という限定ぬきで、「日本政府の責任」を認めるというのだから、少しずつ前進はしている。それなら被害者からの許しがないのはなぜなのか?「条件付き」と誤解されかねない「平和の碑」の撤去問題の合意が含まれていたことが最大の問題だろう。韓国政府が努力しても、ここまでこじれてしまっては、被害者側が撤去に応じるとは思えない。「平和の碑」は、被害者側の運動の歴史の象徴である。ハルモニたちは、自らの存在をこの碑と重ねてきたのではないか。日本政府による「強制撤去だ」と感じれば、トラウマに悩む被害者には、さらなる人権侵害という被害感が沸き起こる可能性もある。
安倍首相は、碑の撤去要求を断念し、被害者に対して直接謝罪してはどうか。誠意が通じれば、被害者が自然に日本を赦す気持ちになってくれるのではないだろうか。
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〔発行〕「慰安婦」問題の立法解決を求める会(共同代表:本岡昭次・荒井信一、副代表:蓮見幸恵・戸塚悦朗)
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