2016年01月29日00時12分掲載  無料記事
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東日本大震災

労働相談から見えてきた福島県における原発・除染労働の実態(前編)

 「福島第一原発を始め原発施設で働く労働者の生の声を聞き、被ばくが伴う原発労働の現場の実態を把握し、そこで働く労働者の社会的地位向上と救済・補償を確立し、脱原発に向けて取り組む」ことを目的に昨年2月、福島第一原発の廃炉作業に携わる労働者の最前線に位置する福島県いわき市に「フクシマ原発労働者相談センター」(以下、相談センター)が設立された。 
 相談センターでは、これまでに福島第一原発の労働者や除染現場の作業員による労働相談に対応してきたほか、これらの相談内容や福島第一原発施設内で起こった労働災害に基づいて、東京電力や下請け会社と交渉したり、行政に対して必要な対応を要請するなどの活動に取り組んでいる。 
 この度、相談センターの代表を務める狩野光昭いわき市議に、設立経緯やこれまでの取組状況などを伺った。(館山守) 
 
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――相談センター設立に至る経緯について、お聞かせください。 
 
(狩野)相談センターの設立は2015年2月6日になりますが、その半年ほど前から設立に関する話し合いは続けていました。 
 福島県が復興するための基本として、“福島第一原発の廃炉がなければ福島復興の実現はない”訳です。つまり、福島第一原発が廃炉されなければ再び臨界を起こし、その結果、多くの福島県民が避難を余儀なくされるという不安が解消されないのです。 
 また、廃炉作業に当たって、ロボットなどの機械を導入したとしても、必ず人間の手が必要となる作業があります。そのため、労働者の被ばくを含めしっかりとした労働環境を確保しなければ、福島第一原発の廃炉作業から熟練労働者を含めた作業員がどんどん離れてしまいます。 
 こういった福島第一原発の廃炉作業のほか、除染作業を含めた労働問題に関する相談窓口を設置し、相談内容に応じて東京電力を始め下請けなどの関連会社との交渉や行政に対する要請活動などを適宜適切に行い、労働者の労働環境や待遇の改善を図っていくことを目的として相談センターを開設しました。 
 
――相談センターには複数の団体や個人が加盟しています。こうした方々は、以前から原発労働の問題に関わっていたのでしょうか。 
 
(狩野)そのとおりです。相談センター顧問を務める石丸小四郎氏は「福島県双葉地方原発反対同盟」で長年活動してきていますし、他団体の方たちも原発問題に関わってきています。 
 また、相談センターはあくまで任意団体であり、雇用主との交渉には労働組合の力が必要となるため、設立に当たっては労働組合にも参加を呼びかけました。 
 それから、相談センターには関東地方に所在する団体も加盟しています。いわき市で設立した相談センターに県外の団体が加盟している理由ですが、福島第一原発の労働者の約半数は他県から働きに来ている人たちであり、福島第一原発だけで長く働くのではなく勤務地を転々とする訳です。そのため、福島第一原発で働いていた労働者が同原発での作業を終えて他の原発で働くために移転してしまった場合でも、移転先で労働相談に応じることができるようにするとの目的から、福島県外からも加盟団体を募ったということなのです。 
 加盟団体に寄せられた労働相談については、相談センターにも情報提供してもらって情報を共有化するか、或いは、加盟団体から相談内容を引き取って相談センターが対応するようにしています。 
 相談センターが他地域の団体との連携によって労働相談の対応に当たった事例としては、福島第一原発で働いていた労働者が白血病になり、出身地である九州地方に戻ってしまっていたため、加盟団体のつながりで九州地方の団体に対応してもらい労災認定に至ったというケースがあります。そういう意味では、原発労働問題に対応していくためには全国にネットワークを広げていく必要性があると考えています。 
 それから、福島第一原発の廃炉作業の現場は、ガレキ処理などによって粉塵が飛散する現場でもあります。福島第一原発建設当時はアスベストが使用されていたことから、粉塵の中にはアスベストが混じっており、労働者の健康被害が問題となっています。このアスベスト問題については、相談センターに個人加盟する「ひらの亀戸ひまわり診療所」(東京都江東区)の平野敏夫医師のほか、同じくアスベスト問題に取り組んでいる加盟団体の「東京労働安全衛生センター」に対応してもらっています。 
 
――相談センターの相談窓口として、「社民党いわき総支部」と「全国一般いわき自由労組」の2カ所が設置されているのは、どういった理由からなのでしょうか。 
 
(狩野)相談窓口を2カ所設置したのは、労働者が労働相談のアクセスをし易いようにするとの考えがあったからです。 
 除染作業を含め原発労働問題は元々、全国一般いわき自由労組が対応していたのですが、同労組だけではテリトリーが限られており、もっと広い相談体制を構築しようということで、すでに相談窓口の連絡先であった全国一般いわき自由労組のほか、社民党いわき総支部が新たに加わりました。 
 
――相談センターは労働相談を受けた後、どのような対応をされているのでしょうか。 
 
(狩野)相談センターは労働者から相談を受けた後、雇用主との交渉などを通じて、労働者にとって早期にプラスの結果となることを優先した活動を行なっています。そのため、裁判のように白黒はっきりさせた上で賠償させるような時間と費用を要する方法は取らず、多少譲歩することはあっても、早期解決と労働者の実利に結び付くようにしています。このような方針で取り組んでいることが奏功し、これまで受けた相談はほとんど解決に至っています。 
 福島第一原発関連の労働相談は、元労働者のほか、現役労働者からもありますが、現役労働者は会社に残るつもりはなく、仕事を辞める前提で労働相談に来ています。現役労働者が労働相談すれば会社に残れないことは明白なのです。原発労働相談のために会社を辞めなければならないということは、東京電力や雇用先である下請け会社から箝口令を敷かれているということが理由の一つとしてあるのでしょう。 
 
――福島第一原発の労働問題について、今後、相談センターとして取り組んでいく課題はどういったことになりますか。 
 
(狩野)今後、重点的に取り組んでいくこととして、福島第一原発で働く労働者の社会保険加入を促進していくといったことがあります。原発作業を請け負う法人の社員であるにも関わらず、ほとんどの労働者が社会保険未加入の状況で働いており、多くの労働者が国民健康保険と国民年金にしか加入していないという実態を改めていかなければなりません。 
 この原因には、労働者が少しでも多く手取り賃金を得たいがため、給与から社会保険料を差し引かれることを嫌がって、社会保険に加入しないという事実があります。ただ、原発労働は建設労働と同様であることや、建設労働と同様であるために社会保険加入を促進していく必要があることを求めていきたいと考えています。この点は東京電力との交渉において「下請け会社の指導をしっかりとしてほしい」と申し入れをした際、東京電力側も「分かりました」と答えていますので、これを実効性のあるものにしていき、原発労働に従事するすべての労働者の社会保険加入を目指して制度面の改善を図っていきたいと思います。 
 その他、これまでにも数多く寄せられている労働相談である賃金不払い問題があります。この問題の根本には多重下請けという構造的な問題があるのですが、これを解消することは容易ではなく、一朝一夕に解決できるものではありません。そのため、労働者の賃金問題を短期間で解決する方法として相談センターが考えていることは、いわゆる「公契約(法)」に準ずる法的な救済措置の検討です。 
 福島第一原発の廃炉作業には税金が投じられていることから、公契約(法)に準じた雇用契約を会社と労働者が締結することで、賃金問題の解決に結び付けていこうと考えています。公契約(法)に準じた雇用契約が可能かどうかという点については、国策として原発事業を推進してきた歴史的事実があり、福島第一原発事故後には税金によって廃炉作業を行なっているのですから、公契約(法)が準用可能な条件はあるものと考えています。 
 
――相談センターが原発労働問題を取り組む中で、最近どのようなことを感じていますか。 
 
(狩野)率直に言って、一番に感じていることは福島第一原発事故の“風化”ということです。メディアを例に挙げれば、福島県の地元紙が福島第一原発事故問題の記事を掲載しないという日はありませんが、全国紙に目を向ければ、同様の問題を取り上げることは少なくなっており、これだけでも福島第一原発事故に対する関心が低下しているということが分かります。 
 また、相談センターの取り組みの一つとして、これまで全国各地で開催される原発問題の講演会に役員らが出席し、福島第一原発の廃炉作業の状況やそれに関連した労働問題などを説明しています。その際、説明内容を聞いた多くの参加者が驚いた表情をします。これは参加者が「原発事故はすでに収束し、福島県が震災からの復興に向かって前向きに進んでいるのだろう」と認識しているからだと思います。 
 こうした福島県の置かれた現状と全国の方々の認識のギャップを目の当たりにすると、やはり福島第一原発事故の問題が“風化”してきていると感じざるを得ないのです。 
 相談センターの取組みの基本方針には、原発労働者の労働相談、そして、相談内容の解決に向けた交渉といったことがありますが、その他に「調査・学習・宣伝活動を通して、原発労働の問題を社会問題化する」といったことがあります。そのため、原発事故の問題を“風化”させず、福島県の現状を知ってもらうことを目的として、これまで同様、講演会等の場で発言していくこととしていますし、それ以外にも、県外の方をいわき市に招いて原発問題の説明会を開催したり、福島第一原発周辺や帰還困難区域となっている地域、放射能汚染物質の仮置き場などの現地視察を通して、原発事故の被害が依然として深刻なんだということを訴えていく予定です。(後編に続く) 


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