2016年02月19日08時55分掲載  無料記事
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コラム

凍土遮水壁 谷克彦(数学月間の会・世話人)

  福一の事故から5年が経った.メルトダウンした原子炉の中がどのようになっているのか,燃料棒のデブリが地下どこまで汚染しているのか,見た者はまだ誰もいない. 
 
  廃原子炉からデブリ取り出しの開始は,早くて2021年である.この間毎日,多量の地下水が原子炉建屋の下を流れ,デブリを浸している高濃度の放射性汚染水と混ざり,海に流れ込んでいる.豊富な地下水の流量は日に400トンと言われる.読者も航空写真を見たことがおありかと思うが,汚染水貯蔵タンクが1,100基も立ち並び,もはや敷地内にタンクを作る余地のない状態である. 
従って,地下水を原子炉建屋のデブリに触れさせずに,バイパスさせ汚染のないまま海に放出したらどうかという案は当初からあった.地下水脈は地上を流れる川のように迂回させるという工事はできない.緊急に短期間で実施できる対策に,トンネル工事などの水止めで実績のある凍土遮水壁を提案したのは鹿島建設でこの案が採用された. 
 
  凍土遮水壁は原子炉建屋と建屋の周りのサブドレインを取り囲む周囲1,500mで,冷却パイプを打ち込み地盤,あるいは流水を凍らせるものである.事業費約350億円は全額国費で賄われ,完成後も凍結を保つために,年間約20億円の電気代がかかるので,「国による東電の救済策」との批判もある.(北海道新聞,2/18社説) 
 
  2014.4月に凍結し難い箇所の試験凍結.5月に山側全体の凍結開始だったが,2015.3月に凍結開始とさらに計画がずれ込んだ.凍土遮水壁の工事は2014.6月に 開始し,毎日約500人が働き,2年を費やしてやっと工事が完成した.工事は犠牲者もでる難工事で現場の努力は評価したい.凍土壁は,トンネル工事での短期間とか,局所現場に適応実績のあるもので,このような周囲をぐるりと塀のように囲んだり,何年にもわたって凍結を維持した実績はない.さらに,地下水脈の深度が深くその下まで凍土が届かず,地下流水が熱を運び凍結できないのではないかと私も心配だ. 
 
  原子力規制委員会は,凍結を実施して地下水の侵入を止めると,サブドレインの水位より原子炉建屋中の水位が高くなり,デブリに触れている高濃度の汚染水がサブドレインの方に出てくるリスクを懸念し,やっと完成した凍土壁の稼働にストップをかけている.いまさら何を言っているのかと思う.規制委員会,田中俊一委員長は効果が期待できないとこの件に関しては冷淡である(2/17田中俊一委員長定例会見,iwj中継).3月初めに,水位の影響の少ない海側(建屋からの汚染水の排出側)だけ凍結し,様子を見ながら徐々に全周の凍結を行うという案を東電が提出し,これを規制委員会が認可して即実施に入る見込みである.凍結が始まって順調だと8ヶ月後に,流入地下水は日に90トンに低減されるという(2/15東電定例会見,iwj中経) 
 
  凍土壁工法は,ロー コストな救急的な工法で,すぐ実施でき海洋の汚染を防止することに意味があったのだが,計画より2年以上遅れ,今稼働しても凍結までまだ8ヶ月もかかる.この間汚染水は低濃度とはいえ海に漏れま くっており,対策時期を逸しいる.現場の苦労に同情しうまくいくことを望むが,抜本的な解決策ではないのが残念だ. 
 
  規制委員会は,規制値内の汚染水なら海洋に放出してかまわない(抜本的な止める手立てを打っていない)との方針だ.しかし,規制は放射能の濃度のみで総量は規制されないので,汚染水放出が続くと海洋汚染は深刻になる.海水のモニタ値が規制値に達したときには,海水の量を考えればとんでもない汚染である.現地漁協は風評被害というが,食物連鎖による魚の汚染は進んでいる.このことを考えると,一刻も早く汚染水の排出を止めるべきで,規制委員会が効果が期待できないなどと無関心を決めることは許されることではない. 
 
 
  (注)ちょっとわかりにくいのだが,原子炉建屋をぐるりと取り巻く凍土遮水壁は全部,陸側遮水壁とも呼ばれる,それは,現存する海側遮水壁に対する名称で,海側遮水壁は,鋼管矢板594本を使用し海の前に作った全長約780mの壁(凍土ではない)で,2015年10月26日に作業終了している.本文中で,陸側,海側と使われるのは凍土遮水壁の陸側の部分,海側の部分という意味である. 
 
谷克彦 (数学月間の会 世話人) 
 
 
■十年目の数学月間を記念して 谷克彦(数学月間の会・世話人) 
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■トランス脂肪酸について 谷克彦(数学月間の会・世話人) 
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■海洋への放射能流出 谷克彦(数学月間の会・世話人) 
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■新国立競技場のキールアーチ 谷克彦(数学月間の会・世話人) 
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■超ウラン元素アメリシウムの話 谷克彦(数学月間の会・世話人) 
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